第32話 家族(-1+1)会議
お義父さん、お義母さん、黒木君の順に、俺についての事を話す。
一見黒木家の家族会議なんだけど、議題が俺の事なので、俺が席を外す訳には行かない。
「じゃあ偶然にも、誰も碧には真黄君の事を話していないのね」
お義母さんが確認すると、お義父さんと黒木君は大きく頷く。
ヒーロー側の事を多少でも知っている3人は、完全に悪の組織の事しか知らない黒木さんに俺がイエローである事を言う訳には行かなかっただろうし、偶然じゃなく必然じゃないだろうか?
まぁ、俺にとっては好都合だったので、偶然でも必然でも結果オーライだけど。
そこで黒木君が信じられないという表情で俺を見る。
「それにしても真黄君、どうやって僅かな期間でそんなに強くなったの?先週見た時はスーツの能力に振り回されて、普通の動きですらぎこちなかったのに、それが父さんと同等ぐらいに戦えるって。因みに父さんは紋章が無い今の状態でもSS級の強さだよ」
そう言えば黒木君が俺の変身後の姿を見たのって、先週街中で偶然会った時だけだったもんね。
俺が父さんから支点力点について聞いたのって昨日だし。
そしてタイガーフェイスとの模擬戦、コランダムとの戦闘、セルガーディアンとの戦闘を経て、少しずつ調整して戦えるようになったから、殆ど一日で強くなったようなものだ。
黒木君が知らないのも無理ないよな。
それに反則技であるNLLの精神感応フィールリンクを使って、ブーストしてたからなぁ。
常人には入れない
「まぁ、ちょっとプログラムを弄ったからね」
という事にしておいた。
NLLについては、黒木君にも話す訳には行かないし。
「だからあれ程ちぐはぐな感じがしたのか。武術は古武術か?妙に洗練された動きなのに、まるで戦い方が成ってない。その上スーツの力に頼り過ぎて、体力が尽きて倒れてしまうとは。どんなに強くても一撃必殺だけじゃ、戦士としては三流だ」
お義父さんから厳しいお言葉。
一日で強くなったから、三流なのは当たり前っすよ。
「という事で、俺が明日から鍛えてやる。お前、俺の道場に入門しろ」
「はい?」
お義父さんが余りにもぶっ飛んだ事を言うから、素っ頓狂な声で返事をしてしまった。
何を言ってるの?
悪の組織の人がヒーローを鍛えていいのかよ?
「あら、それはいい考えね」
お義母さん?何で賛同してんの?
「それはいいね。僕も道場で訓練してるから、一緒にやろうよ」
黒木君がキラキラした瞳で見つめて来るので、ちょっとドキっとしてしまった。
黒木さんに似て美形で、少し幼さの残る黒木君の笑顔は、とても可愛い。
強く意志を持たないと、そっちの道へと踏み外しそうになる程に。
いかんいかん。俺はノーマル、俺はノーマル……。
嬉しいお誘いだけど、俺、運動神経鈍いからなぁ。
俺はちょっとずつ筋トレして体力付けるつもりだったのに、お義父さんっていきなり実戦形式の乱取りで本能的なものを鍛えるとか言い出しそう。
本能なんてとっくに覚醒してるんだよ。
今直ぐにでもお風呂を覗きに行きたいんだから。
面倒だし、断っておこうかな。
「すいません、大変嬉しい提案ですが、お断り……」
「断ったら、碧に全部言うからな」
「ええ~!?」
お義父さん非道いっすよ!
黒木さんに俺がイエローだってバレたら大変な事になる。
くっ、此処を切り抜ける術は無いのか?
「そもそも、何で俺を鍛えようとするんですか?俺、一応ヒーロー側の人間だと思うんですけど。ですよね、お義母……おばさん」
俺がお義母さんに同意を求めると、何故かお義母さんのこめかみに青筋が浮かび上がる。
「私をおばさんと呼ばないで。寧ろお義母さんと呼びなさい」
公認というよりは、おばさんって呼ばれたくないだけだな、これ。
だが、お許しを頂いたので、これからはお義母さんとお呼びします。
お義母さんは割と俺に好意的なようだ。
お義父さんも、ある意味好意的なようではあるけど。
俺の事を思って鍛えようとしてくれてるんだもんな。
「お前がヒーロー側なのは寧ろ好都合だ。俺は好敵手を求めてるからな」
お義父さん、俺の事なんて考えて無い只の戦闘狂だったわ。
好敵手ならタイガーフェイスがいるでしょうが。
まぁ、コランダムに比べたら雑魚だと思うけど。
でも、お義父さんの武術もデータとしては欲しいから、間近で動きを観察させて貰えるのは有り難いんだよな。
ついて行けそうに無かったら、通わなければ良いだけだし。
「分かりました。じゃあ、明日学校が終わってから伺います」
「よし、待ってるからな。道場の場所は琥珀に聞け」
俺が了承すると、お義父さんは満面の笑顔を浮かべた。
その笑顔を見て、暑苦しい体育会系だけど、俺は意外とこのおっさん嫌いじゃ無いなと思った。
さて、問題はもう一つ。
「それと、お義母さんには悪いんですが、俺、ちょっとヒーロー協会への登録を見送りたいんですけど」
「あら、何で?この人に師事するから、悪の組織側へ付くって事?」
それもちょっと考えたけどね。
「いえ、そうじゃなくて。俺が持ってる紋章のOSが色々問題あるので。黒木君が正義と悪の両方の紋章持ってるけど、それ以上にヤバイものだと思いますから」
俺がそう言うと、お義父さんが納得したように頷く。
「確かにあれは世に出しちゃダメなものだろうな。エクステンションも無しにSSS級とやり合えるプログラムなんて、力の均衡を崩しかねん」
「あら、真黄君ってそんなに強かったの?クソ虎との模擬戦を見た限りじゃA級ぐらいかなって思ってたのに」
「いや、変な見えない盾を使ってたし、S級ぐらいでもいい勝負するんじゃねーか?」
おや、お義父さんから見て、割と高評価だったようだ。
ってか、エクステンションって何?
「真黄君、君、一体何者?」
黒木君は心底驚いたといった表情を見せていた。
お義母さんは少し考える素振りを見せてから、頷く。
「分かったわ。イエローの紋章を受け継いでるんだもん、しょうが無いよね。でも、協会の中には、そういった野良ヒーローを許さないって人も居るから気を付けてね。琥珀もよ」
「分かってるよ」
お義母さんの言葉に返事をしたのは黒木君だけだ。
だって、俺はすごく引っ掛かってるもの。
「野良ヒーローを許さないって、その人達に出会うとどうなるんですか?」
「狩られるわね」
「怖ぇ!」
何それ、怖ぇよ!
「もの凄く正義に固執してる連中が、協会内で勝手に組織を作って動いてるのよ。私も抑制しようとしてるんだけど、結構勢力が大きくてね。でも安心して、せいぜいS級ぐらいの人しか居ないから。SS級以上の人って逆に正義に無頓着だからね」
はい、全然安心出来ません。
俺がブーストしない時の強さがA~S級ぐらいだとすると、十分驚異ですわ。
闇討ちとかされるんかな?
いや、正義に固執してるんなら正々堂々と来てくれるか。
ヒーロー協会に所属しても、所属しなくても、どっちにしろ厄介事が増える訳ね。
でも、不思議と紋章を投げ出そうとは思わない。
俺、強い力に魅せられてしまったか?
良くない傾向だけど、ここまで関わったら、全ての真実に辿り着くまで止めないからな。
それに、黒木さんの事もなんかほっとけないし。
自分自身の露払いの為にも、お義父さんの下で鍛えて貰うのも有りか。
「話がそんなとこで良ければ、次は俺の質問に応えて貰っていいですか?」
黒木家の人達が言いたい事を言い終えたようなので、俺も聞きたい事を聞く。
「正義と悪って何ですか?」
俺の率直な質問に、お義父さんとお義母さんは顔を見合わせて笑い合う。
俺、そんなにおかしな事聞いた?
「そうね、組織という点で見れば、只のナノマシンの在り方に関する見解の相違ってとこかしら。正義は保守派、悪は推進派。保守派は現行通りの、生活を豊かにするナノマシン利用について研究していこうって派閥。推進派は他国との差別化を図るべく、国力増強するために果ては軍事利用まで考えてる派閥。と言っても、悪の組織も世界征服とかを考えてる訳じゃなくて、あくまでも国民の生活を豊かにするのが目的だから、争ってはいても技術力向上の為に密かに競争してるって感じなのよ」
「まぁ最近は、世界征服考えてるバカもいるけどな」
お義母さんの説明に、お義父さんが茶々を入れる。
なるほどね、戦闘に使う事でナノマシンの研究について研鑽を積めるって事か。
主義主張を貫く為には、技術力を高めて力を見せろってね。
でも、じゃあこの闘いの終わりは?
「正義と悪は延々と闘い続けるんですか?主義主張が違うなら必要ですよね、決着が。どっちかが滅びるまでやるつもりですか?」
俺の問いに、お義母さんは微笑む。
「勿論決着はあるわよ。この数十年に及ぶ闘いの決着は、タスク・ゼロを手に入れる事で終結する」
「タスク・ゼロ?」
「ナノマシン制御の基になっているシステムよ。全部で12有って、それを全て手中に収めた方が勝ちと取り決められてるわ。新科学高校にも一つあって、それは現在正義側が保有してるの」
なるほどね。
学校で怪人が現れたりしてたのは、それを奪おうとしてたのか。
っと、他にも気になってる事あったんだ。
「正義と悪は分かりますけど、さっき俺が戦ったあの天使って第3勢力なんですよね?あれって何者ですか?」
「あれは政府直轄組織『シード』の戦士だ。正義や悪とは違う思想で動いているようだが、内情は知らん。狙っているのは同じくタスク・ゼロだろうが、何を考えてるのか。正義と悪の強力な戦力を削ぐ動きも見せるからな」
俺の問いに応えたのはお義父さん。
強力な戦力としてコランダムも狙われてた訳ね。
何を考えてるか分からないって、一番気を付けなきゃ行けない奴って事じゃないか。
正義と悪についての大まかな事は分かったし、あとは先代についてもうちょっと知りたい。
と思ったけど、
「次の人、お風呂どうぞ」
黒木さんが戻って来てしまったので、そこでお開きとなった。
湯上がりで少し火照った肌が、濡れた髪と相俟ってもの凄く綺麗だった。
お義父さんが眉間をピクピクさせてたから、あんまり見惚れていられなかったけどね。
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