冴えないおっさんの飲んだくれ日記

三色アイス

第1話 普通だった昨日

朝と昼の中間。

午前10時。

いつもの様に営業所を出て家へ帰る。

昨日は危ない副業の出番は無かった。

普通にタクシーを走らせるだけの普通に暇な一日だった。

景気の低迷はこの業界にはてきめんに表れる。

業界ってのは本業、副業両方だ。

夜の街を走っていればその客足、そして早仕舞いのママさん達の愚痴で、今の景気が良く解る。

そう、夜のお店って奴は開いているだけで経費が掛かる。

主に女の子の時給という経費が。

だから暇なら日付が変わる前に閉めてしまう事もあんのさ。

当然、愚痴りたくもなるよ、解ります。

副業の方はあれだ。

景気が悪いほど忙しくなる。

世に怨みつらみが溢れるからねえ。

仕事がまわって来れば来る程やるせなくなる。

おっさんになったせいかな、30後半になってからやたら涙もろくなった。

勿論、人前じゃ泣かねえよ。

でも、家で一人でいる時に動画みていて偶にな。

一昨日も飲みながら見ていて、ラストにアルが泣き出すシーンで思わず貰い泣きしてしまった。

いいおっさんがなんて言うなよ、酒も入っていたんだからよ。



さて、考え事しながら歩いていたらアパートに着いちまった。

とりあえず部屋に入っちまおう。

まあ、一度入ったら面倒くさくて買い物には出ないだろう、たぶん。

冷蔵庫に有るもんで、てきとうに飲むか。

真昼間から飲むなんて、って言われるかもしれんが、俺等にしてみれば仕事上がりの一杯だ。

その点ではうしろめたさは全く無い。

むしろ、胸をはって飲む。

まあ、飲酒自体の健康への影響とか言われ出したら、戦術的転進をして引き下がるしか無いけどな。



冷蔵庫を漁る。

卵は有る。

肉は無い、昨日食っちまった。

コンビニの袋入りサラダはある。

でも消費期限から今日中に食わないと。

モヤシは一袋。

買い置きのキムチに豆腐、竹輪が袋の半分か。

500ミリの炭酸水が一本あるな。

大抵飲みきっちゃうから珍しい。

後、冷凍庫には業務スーパーで買った冷凍食品がかなり有る。

さて、どうするか。



とりあえずモヤシは袋の半分をレンチンだ。

1分半。

正直、モヤシはつまみの素材としてコスパが最高だし、汎用性も高い。

レンチンした後も選択肢が多い。

ゴマ油とニンニク、ラー油に塩又は醤油でナムルは定番。

ポン酢かけて鰹節をパラリでもシンプルで旨い。

キムチの素なんかがある時はこれを混ぜて、冷蔵庫で馴染ませてもツマミに良い。

それとお浸しという手もある。

濃い目の麺汁にすぐに浸す。

冷めて味が馴染んだら好みで七味や鰹節をパラリだ。

冷めて馴染むのに時間が要るが、待つかいは有ると俺は思う。

取り合えず買っておいて困った事は無い。

定番で何かしらの一品になる。

今日は待ちたく無いのでポン酢で良いや。

炭酸があったので、最初はウイスキーのハイボールにする。

そう決めるとすぐに飲みたくなってしまったのだ。

いい大人がなんとも我慢が利かないと、我ながら呆れる。

そうなると、もう一品は豆腐が早くて良い。

適当に切って皿に置く。

そして、キムチをきざんで上にのせる。

キムチが調味料であり薬味だ。

絹ごしならシンプルに醤油が多い俺だが、今日のは木綿だ。

しっかりした木綿豆腐なら、こんな変り種でも十分にいける。

植物性たんぱく質を採りつつ、淡色野菜のビタミン類も採れる。

一応ヘルシーだろ。

酒飲んでる時点で不健康だってのは無しにしてくれ。

これに袋のサラダを出せば当座のツマミには十分だ。

ハイボールを2杯飲んでも十分もつ。



いつもの様にテレビを点けて、録画リストを確認する。

タクドラ(タクシー・ドライバーの略)なんて一度出勤したら丸一日以上帰らない。

リアルタイムで番組を見るなんて無理だ。

大抵、見たい番組が無いとパソコンを立ち上げてこっちの動画を見る。

外付けハードに容量に任せてかなりの番組や動画が保存されている。

それにスマイリー動画なんかを見るという選択肢もあるからな。

昨日は普通の一日だったので、特に泣きたいとか笑いたい、というのは無い。

だから、録画された深夜アニメから一つを選んで再生する。

そして、オープニングの軽快なテンポの曲を聴きながら、タンブラーに炭酸を注ぐ。

目見当でペットボトルの半分を注ぐ。

透明な泡に期待感が高まる。

次に買い置きのレモン汁を数滴。

そして、主役のウイスキーを静かに注ぐ。

箸という名のマドラーで一回し。

すぐさま一口。

旨い。

いつも飲んでる国産の安ウイスキーだが、やはり飽きずに旨い。

そして、サラダを一口。

ドレッシングは柚醤油タイプを既にかけてある。

野菜の水分がありがたい。

営業所を出る前から水分は取ってない。

最初の一杯を旨くする為とはいえ、喉の乾きはきつかった。

ハイボールの一口程度では到底癒せない位だった様だ。

さらに一口サラダを口に入れる。

うん、うん、これも定番なんだけど飽きずに食べられる。

そしてハイボールだ。

一口目の爆発的な旨さは無いけどすんなり喉を通っていく。

普通の一日だったせいで特に感慨も無いが、こんな何も無い流れるような飲みも良いな、とふと思った。

まあ、何度も思っている事なんだけどな。

その分実入りも少ないってのは考えない様にしよう。

さて、〆は何にしようかね。

モヤシに竹輪、冷凍の中華野菜ミックスで焼きそばって手もある。

焼きうどんも悪くない。

そうなると野菜ラーメンという考えも出てくる。

いや、麺だけインスタントを使って中華だしでタンメンも捨てがたい。

まあ、食べ終わるまで時間はある。

適当にダラダラ考えればいいさ。

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