第3話 馬鹿につけるドラッグはある

 今となっては昔のことなので、とっくに時効だから書かせて欲しい。アングラカジノで働いてた頃、LSDをやっていた。


 ディーラー仲間が他のバイトと一番違うところは金銭感覚。別に給料は死ぬほど高いというわけではない。時給1500円くらい。月給だった時は45万だったかな。所得税以外は引かれない。学生にしては持ってるけどその辺のサラリーマンと同程度だ。でも金銭感覚が狂う。なんでかっていうと毎日のようにその辺のサラリーマンっぽいおっさんに10万20万両替させて見慣れてる上に、自分たちでよそのハコに遊びに行ってその感覚で金を使ってしまうからだ。


 ギャンブルでは勝った時に小さくいって負けた時に大きくいったほうがいいんだけど、普通の人は勝つと気が大きくなってドカンといってドカンとやられて終了になる。まあ小さく勝ってもしょうがないって人はそれで楽しめてるならいいんだ。パチスロなんかは勝っても掛け金を増やすことができずに一定量ずつしか投入できないので1日で1000万負けたりすることはない。カジノでは大きく負けることも可能な代わりに、稀にドカンといってドカンと勝つことがある。I筒という色黒チャラ男ディーラーがそうだった。


 こいつはコンピューターの専門学校に行っていた。もう二年生も半分過ぎていたにも関わらずWindows95が発売になった時に

「tenちゃん、OSってなに?」

って聞いてきたツワモノである。明らかに出席が足りなかったり試験を受けてない科目があるのに、専門学校を二年で卒業できたんだが、結構な金がかかったと言ってた。さすが専門、金でどうにかなるんだ。


 I筒はお調子者で面白かった。バニーやウェイトレスといろいろあったがその話は置いといて、ある晩よそのハコで400万ほど勝った。1晩で400万。俺はその時同行してなかったんだけど、さすがに翌日はもうその話で持ちきり。I筒は相当調子こいてて、帰りのタクシーでも

「え?いくら?いくらでも払うよ?なんなら後ろのタクシーの分も払っとこうか?」

といって窓から千円札投げようとしたらしい。その日も

「しばらくカジノ通う。今週末までに一千万貯める!」

と豪語してた。もちろん次の週には400万も全部吐き出した上にさらに負けこんでたよ。


 という感じなので金銭感覚が狂う。仲間ウチで賭けダーツもやっていたが301ルールで1点100円。みんな初心者っだのでダブルアウト無し、ダブルインだけでまあ一回数千円から1万円くらい。お調子者のI筒がダブルインできず1ゲームで30100円もらったこともある。ダーツは誰が上手いとかはそんなになくて、トータルでは行ったり来たりだったかな。


 賭けビリヤードもよくやった。ナインボールを使った5-9というルールでサイドポケット倍がけ、5がコーナーなら500円、サイド1000円、9は1000円と2000円。ブレークで入ればその倍。

マスワリ(ブレークからノーミス9まで全部落とす)はご祝儀一万円。マスワリは俺は一度も出したこと無いくらいの初級レベル。よく一緒にやってたのは黒服とK。二人共実力は俺より完全に上なんだけど俺はなぜか金がかかると強いので大分助かった。ビリヤードやりまくってたころは場代引いてもご飯代でるので全然財布が減らなかった。この後ロサ会館のビリヤード場はキューを預かるのをやめてしまうのでマイキューを引き上げたんだけど、Kは大阪に逃げてるので俺が引き取ればよかった。なんか貰い物で数十万円するいいキューらしかった。よく知らんけど。

 

 そして麻雀。トビ松っていう麻雀弱い奴がいてよくハコかぶせてた。俺のアダ名はトバシ君になった。ほぼ本名出てるような気がするがまあいいか。仲間内のレートは点5かピン。麻雀わからない人に説明するとピンなら一晩で2,3万動くくらい。点5だとその半分なのでトップでも儲けが12000円とかだったりする。で、このトップが「じゃあ場代は俺が払うわ」というとあら不思議!?誰も儲からずにお店だけ一人勝ちだよ?この現象を「場代一人勝ち」という。この時俺は学生証持ってたので、明らかに社会人経験があるKとかも一緒に学生料金で打ってた。多い時は同じ店のディーラーだけで3卓くらいたってたし楽しかったなあ。ちなみに黒服が絡むとレートがリャンピンになる上に社長がイカサマしやがる(フリテンなのに上がった宣言してサラっと流した、横で見てた店員が後から教えてくれた、社長はアホだからわざとじゃなかったかもしれないけどプライドがあるから気づかかなったとは言えないだろうし、わざとなら部下にやることではない)。さらに歌舞伎町行った時は「tenちゃん入ると場が安いからなー」と愚痴られつつ点5、歌舞伎町の点5は1000点500円だ。これはビビりすぎてしょうもない手しか打てなくてちょいマイナスくらい。麻雀としては楽しめなかった。


 あとキャバクラを覚えた。俺も何度か行ったしいい思いもしたけどそれは省く。二十歳そこそこの学生なので、誰かの家に集まってPS/サターンで遊んだりした。ちなみに俺の部屋はアキバで買った業務用液晶プロジェクターがあって、100インチでPS繋いで鉄拳してた。上を向いてプレイするので首がつかれる。なにより酷いのがニュース。字を読むのに首を左右に振る必要があって半端なく疲れる。一番がっかりしたのはAV。自分の顔くらいある乳首みても興奮せんわ!


 赤坂にいたメンツではS田とウマがあった。年下なんだけどタメ口でいいよって言ってたら妙になつかれたのと、彼もコワモテではなかったので気が合ったのである。彼はある日突然店の後に

「tenちゃんに黙っているの嫌だからいうけど、俺在日なんだ」

「で?」

「いや申し訳ないんだけど、できたら今まで同じように友達でいて欲しいというか」

神奈川の山奥育ちだった俺には意味がわからない。町田に朝鮮学校があって釘バット持ってるやつが暴れるらしいとは聞いたことはあったが、自分とは違う世界の話だと思っていたし特別な感情も無い。「今のこの友達関係になにか関係あるの?」聞いたら不思議そうでかつ嬉しそうな顔をしていた。どうやら朝鮮学校では日本人が在日を差別すると教えこんでいて、COしたら差別されると思いながら生きてきたらしい。まあ政治の話はここではナシだ。彼は100%チャラ男。長髪で背も高くて優しい顔をしている。昨日も赤坂でナンパしてそのまま閉店後の親戚の経営する韓国スナックのイスの上でやっちゃったらしい。すごい、あやかりたかった。そして彼が大好きなのが週刊少年マガジンに連載されていた「BOYS BE..」という漫画。巻数それなりに出てるので人気はあったんだろうけど、オムニバス形式でグループ交際したり遊園地に行ったりとか中高生向けの妄想恋愛ストーリー。俺にはなにが面白いかわからず童貞が読むものだと思っていた。当時マガジンは金出して購入して全部読んでたんだけど「BOYS BE...」だけは飛ばしてたくらいだ。昨日ナンパした女と即Hしたやつが「あー俺もドキドキして観覧車乗るような恋がしてー!!」というのがおかしくてしょうがなかった。まずナンパをやめろ!


 そんななか、マリファナパーティーに誘われた。マリオパーティじゃないぞ?ハッパ自体はそれまでも何回かやったことあるんだけど、正直俺は大して効かないんだ。ただ周りのみんなが楽しそうにしてるのは面白かった。おもむろになんかしようと立ち上がって

「あれ?俺今なんで立ち上がったんだっけ?」

ってつぶやき始めたりするから。でもその時はマッシュルームカットのバンドマンディーラーが気合い入れてた。ペットボトル・アルミ・ストローを使ったお手製水パイプが用意されていて、ネタも草じゃなくてチョコ。その頃俺はタバコ1,2箱吸うくらいの普通のヘビースモーカーだったんだけど、水でフィルターされると煙吸ってる感がまったくない!吸ってる気がしないから酸欠になるくらいガンガン吸い込んじゃう。んなことをしているうちに夏木マリになったようだ。いやガンギマリだ。


 やはり効きにくいのか特に変わった様子はない。ただ、普段あまり食べないスナック菓子がおいしい!目茶目茶おいしい!!まったく止めることができずに袋が空になってしまうと、とてもさみしい!目茶目茶さみしい!!なんで袋が空になってしまったの!?仕方なく別の袋を開ける→おいしい!止まらない、みたいな事を繰り返して動けなくなるほど腹パンパンにお菓子を食い過ぎた事があった。


 また別の時は、1枚5000円だけど、と言われて紙切れを渡された、当時末端価格4000-5000/枚の事でミッキーとかの絵が書いてある紙、LSDだ。これを舌下に入れて舐めろという。これは俺も楽しかった。といっても幻覚をみることはなかった。射精直後の力の入らない気持ちよさが1時間以上続いてる感じ。まってまって今敏感だから触らないで、みたいな。これは一人でやったこともあった。


 ハマるほどではなくて週末にたまに気が向いたらやる程度だ。覚せい剤はやったことない(ディーラー仲間にはいた)けど、これもほとんどの人は自制できてるみたい。ただ一部の自制できない人のやることが取り返しつかないから規制はした方がいいと思う。まあアルコールだってそうだけどね。


 俺の場合は視界が溶ける。人の頭って完全に停止してるわけでなくて、視界がちょっと動いているのを脳で補正して見せたりしてるんだけだろうけど、このちょっとした動きが視覚にダイレクトにくるのでいろんなものが溶けて見える。トイレで小便しようと思っても便器がグニョグニョしてて狙うの難しい。空腹でL決めちゃったのでハラ減ったからとカップラーメンを作ってみたんだが、麺がうねうね動いてんるだ。白い麺がぬるぬる。龍かよ!って突っ込んではみたもののやっぱりサナダムシにしか見えず、二口くらいで吐きそうになって挫折した。以来ご飯食べてからLをやるようになった


 仕入れ方は知らない。一度ハッパの買い出しに付き合って公園をマラソンしてるイラン人から買った時は面白かった。どこかで携帯番号を仕入れてきてかけるようだ。当時の友人の連絡先も名前も今は誰一人として残ってないので、俺がもし欲しいと思ってももうツテがない。今回はとっくに時効だということ、どこから何を探られても20年前のものなんて何も出てきませんよ、と思って書いてみた、ということで今回はここまで

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