第25話 『白い家と黒い家』そのⅢ

     『白い家と黒い家』そのⅢ


 「調度いい時間のようですね。みなさん初めまして、西脇と言い

ます。今、藤倉さんにお世話になっています。よろしく。お昼ご飯

をお持ちいたしました。おなかがすいているでしょう。エヘへ。」

 「あっ、黒川です。」

 「山川です。藤倉の甥っ子です。宜しくお願いします。腹減った

ぁ~。アハ。」

 「瀬山です。ワザワザありがとうございます。」

 「この西脇さんは、長野で知り合ってね、今度造る家の管理や運

営を任せようと思っています。だから、この家も観ておけばと思っ

て来てもらいました。彼は今、私の依頼で料理学校にしばらく通っ

て頂いています。再生の家にはカフェも作ろうと思っていますから、

そこも任せようと考えています。よろしく。」


 へぇ~、そうなんだ。この家の材やさっき言っていた公民館の材

などを使用して再生の家とカフェを造るのかぁ。なんか面白そう。

でも、西脇という人は何者なんだろう。メッチャカッコイイし、モ

デルのようだね。これで料理が出来たら、今の時代だとすごくモテ

そうだね。アハ。

 アレ?もう1人一緒に来られているね。


 「こんちわ~。お邪魔します。」

 「おお、由美ちゃんじゃないか。えっ、どうしてここに?」

 「エヘへ。藤倉さん、お久しぶりです。四国の松山以来ですね。

あの時は大変お世話になりました。おかげさまでいい小物が沢山手

に入りました。で、ここにもいろいろとモノが居るとニシさんに聞

いたものですから来ちゃいました。俺の実家もこの近くなので・・

・。」

 「あ~ぁ、そうか。由美ちゃんは岐阜高山だったね。でも、その

身体で大丈夫なの?今、何か月になる?」

 「はい。大丈夫です。8ヶ月ちょっとになります。まだ出て来な

いようだから・・・。アハハハ。」

 「そっか。でも、この家は妊婦さんには刺激が強すぎるように思

えるのですが、いいんですか?」

 「黒川くん。心配しなくてもいいよ。この女性はかなり強い人だ

から、少々のことには動じないから大丈夫だ・・・ねっ。」

 「はい、大丈夫!俺、こんな家大好き。“霊”がいっぱい居るね。

すごく感じる。見えないけれどね。アハハハ。」

 「えっ。“霊”ですか?幽霊が居るんですか?」

 「アハ。西脇さんはちょっと怖がりだからなぁ~。由美ちゃん、

宜しくね。」

 「は~い。」

 「じゃ、調度お昼だし、食事にしようか。」


 そう言って、藤倉さんは、さっきのダイニングへ向かって行った

。いいのかなぁ、ダイニングで食べても・・・

 アレ?さっき見た時は、ウエルカムプレートが5枚だったのが、

今は6枚になっている。今、6人いるけれど、何故?

 そういえば、さっきは5人だったよな。それでプレートが5枚だ

った・・・。

 えぇ~、誰がセッティングしたんだ。


 「へぇ~、藤倉さん。用意が良いですね。ウエルカムプレートま

であるじゃないですか。・・・それじゃ遠慮なくセッティングしま

すね。」

 「ほう。これはいいね。気遣ってくれたね。先生、ここは電気は

来ていないようだけど、水は出るのですか?このテーブルを使った

後で拭きたいのですが・・・」

 「いえ、ライフラインは全て止まっていますよ。でもいいじゃな

いですか。後でご近所から水をお借りしてきますから。」

 「・・・先生は、細かいようで大胆なんだなぁ~。アハハハ。」

 「ん?黒川くん、何か?」

 「おい、山川。今まで撮影した写真を見せてくれないか?今ある

程度、モノのリストを書き出しておくから。」

 「ああ、いいよ。もう60カット程撮ったかなぁ。このペースだ

と全て撮るのに200カットくらいになりそうだ。」

 「ん?山川。何だこれは?お前フラッシュを使ったか?」

 「いや、外光のままだよ。どうかしたか?・・・」

 「あ~、何だこれ!すごく綺麗で鮮明に撮れている。こんなに室

内が明るかったかなぁ~。俺の腕か。アハハハ。」

 「アホか。お前にそんな腕は無い!前にも俺が撮ると“霊”が映

るからと言って任せたら、メチャクチャだったろ。・・・

 でも、綺麗に撮れているなぁ。何かちゃんとセッティングされた

ようだし、ライティングもいいじゃないか。これだと細部まで良く

わかるな。」

 「ん?どれどれ。俺にも見せてくれる?」


 そう言いながら、由美さんという人は、カメラを取り上げてすご

く真剣に見ている。よほどモノが好きなんだ。ニコニコしておられ

る。しかし、何であんなに綺麗で鮮明に撮れたのだろう。まるで、

“どうぞ、しっかり観て下さい”と言われているようで不思議だ。

あっ、藤倉さんも一緒になって見ているね。


 「優司。この写真を撮る時に何かなかったか?撮る前でも後でも

いいから。どうだ?」

 「いや別に・・・あっ、そういえば、構えた時に誰かが後ろに居

た様な気がしたね。黒川かと思っていた。それに、シャッターを押

そうとしたら、先に押されてしまった。いや押す前にシャッターが

下りちゃったな。俺がまだ押していないのに、おかしいなぁ~と思

っていた・・・。

 あ~ぁ、応接の椅子だけど、セットして撮ろうとしたら動いたこ

とがあったよ。なんか“こっちから、撮ってね”って言われている

ようで面白かった。エヘへ。」

 「山川。お前はやっぱり楽天家だな。そんな時は普通だったら怖

いだろう。急に椅子が動いたら誰でも気味悪いだろうが。」

 「いや、そうでもないよ。何かアシストしてくれているようで楽

だった・・・。」

 「・・・もういい。」


 「じゃ、セットできたようだし、みんなで食べようか。あっ、そ

うそう、西脇さん。あと2セット用意してくれるかな。少し余分に

持って来たんだろう?西脇さんなら多分そうだと思うし・・・」

 「アハ。わかりましたか。はい、2人分ですね。でも何で?」

 「ん?あと2人そこに居るからね。手はつけられないと思うが礼

儀としてね。」

 「・・・・・」

 「食べ終わったら、2階へ行こうか?山川くんと黒川くん、あま

り食べ過ぎないようにね。眠くなってもここでは寝ない方がよさそ

うだからね。アハハハ。」

 「アハ。先生。この前の調査の時に寝てしまって金縛りにあった

のをまだ覚えていたんですね。あれ、怖かったですね。」

 「そうそう、山川くんは、全く動けなくなったからね。今回も同

じことが起こると大変だしね。」


 おっ、美味しい。西脇さんはかなり料理が上手いようだ。すごく

繊細に作られているね。何かさっきまで居た東山さんに似た雰囲気

の人だ。


 「よし。みんな2階へ行こうか。由美ちゃんはどうする?この1

階にあるモノたちを見て回る?西脇さんが横に居るから大丈夫だと

思うが、どうする?」

 「そうですね。じゃ、先にこの1階のモノたちを観せていただき

ます。ニシさん、ボディーガードを宜しくね。」

 「よっしゃ、任せなさい。でも、ちょっと怖い…。アハ。」


 そして、俺たち4人は2階の第2応接室とゲストルームにバスル

ームを観にあがって行った。が、もう1人1階に残しておくべきだ

ったように思える。妊婦の由美さんのことが気になるなぁ。どうも、

あの西脇さんは東山さんと同じく結構怖がりのような気がする。


 「ニシさん。この家って、何か怖いね。いろんな“霊”が居るよ

うな気配がするよ。」

 「えっ、そうなの?俺、何も感じないなぁ。いや、感じたくない

ね。アハ。」

 「アラ?ニシさん。そのバンダナは何?白地によくわからないけ

れど、柄が入っているね。それって文字なの?」

 「これ?藤倉さんに貰った。ここに来ることになった時に、この

バンダナを頭か首に巻いておくようにってね。何かの魔除けのよう

なものだってさ。」

 「ふ~ん。そうなんだ。じゃ、俺が着けているこのブレスレット

と同じだね。これも、藤倉さんに四国でもらったものよ。何か古い

モノばかり収集していると危ないこともあるから、常にこれを着け

ていなさいと言われたけど、気休めのようなものなのかな。」

 「あっ、動いた。」

 「ん?何?」

 「おなかの赤ちゃんが今動いたよ。8ヶ月になると動くのかな?

でも、元気そうでよかった。」


 そう、この後に由美さんにとんでもないことがおこったのです。

俺たちは2階に居たから、なかなか気付かなかったが、もし、西脇

さんが一緒じゃなかったらと思うと、すごく恐ろしい。すぐに藤倉

さんが駆けつけたから大事にはならなかったけれど、危ないところ

だった。特におなかの赤ちゃんはね。それに・・・


 「あ~。このランプ良いね。ガレの作品で本物よこれ。それに、

このアール・ヌーボー調の椅子もいいわね。座り心地が良さそうだ

よ。ちょっと座ってもいいよね。」

 「うん、いいんじゃない。いずれ、藤倉さんが買って我々のもの

になるんだろうしね。でも、そっと座った方が良いよ。」


 そして、由美さんがその椅子に座ろうとした時、急に動いたので

す。まるで“座るな”と言っているかのように・・・。


 「キャ!なんで?ニシさん動かしたでしょ。もう、やめてね。」

 「何もしていないぞ。俺はユミちゃんの目の前に居るだろう?」

 「えっ・・・そうね・・・なんで?じゃ、誰が動かしたの?も

う少しで転ぶところだった。あぶない。」

 「じゃ、こっちのソファに座ってみたら。こっちも座り心地が良

さそうだよ。」

 「うん、そうだね。今度は動かないよ押さえておいてね、ニシさ

ん。」

 「え~、いやだよ。気味悪い。エヘへ。」

 「あっ、大丈夫だった。ワァ~座り心地がメチャいいね。ニシさ

んも座ってみて。このソファ、年代物にしてはしっかりしていてク

ッションもいいよ。」

 「おぉ、そうだな。張地も綺麗だし、触り心地もいいなぁ。」

 「うっ・・・おなかが・・・」

 「どうしたユミちゃん。」

 「おなかの赤ちゃんが暴れている。痛~い。何とかして~。」

 「え~っ、何なんだこれ?外から見てもおなかが動いているのが

わかるよ。ちょっと待って!藤倉さんを呼んでくるから・・・。」


 そう、それで、俺たちの所へ、息を切らして西脇さんがやって来

たのだが、顔が真っ白で血の気がなかった。藤倉さんもこれは何か

あったと感じて、すぐに1階の由美さんの所へ向かった。何故か俺

も一緒に走っていたが・・・


 「大丈夫か?由美ちゃん。・・・あ~ぁ、これは・・・」


 藤倉さんが指さす方を見ると、黒い布のような大きな闇が由美さ

んに覆いかぶさろうとしていた。これは、藤倉さんと俺にしか見え

ないようだが、明らかに“善”のモノでは無い。“悪”だ。それも、

とてつもない大きさを感じる。どうも、由美さんではなく、おなか

の赤ちゃんを狙っているように思える。ヤバイなこれは・・・。そ

れに、その黒を取り巻くように無数の影たちが居る。傍観している

のかこいつらは。いや、何もできないんだな。どうにもならないの

か。


 「由美ちゃん、この前に渡したブレスレットを強く握って、歯を

食いしばりなさい。しっかりとね。」

 「はっ、はい!痛~い。」

 「お前何者だ!これ以上彼女に近付くな!お前は“神”では無い

な。妖怪だろう。こんなことをするヤツは“悪”そのもだぞ!それ

以上近付くな。向こうへ行け!」


 と言いながら、藤倉さんは自分が持っていた数珠のようなものを

由美さんの頭上に向けた。が、何の効き目も無いようで、益々黒く

大きくなってきたように思える。それに、由美さんのおなかに黒い

手がかかりそうに感じる。


 「ん~。これは強いな。黒川くん、先生に渡していた塩を持って

来てくれるかな。あれだと結構効き目があると思うから。」

 「はい!」


 俺は急いで2階へ行き、先生から塩を貰って降りて行くと、多く

の影が俺について来た。何かを訴えるかのようであり、誤っている

ようにも感じる。何故?


 「これでいいですか!」

 「よし!このソファの周りに撒いてくれ。早く!」

 「はい!」


 すると、黒い大きな影は、それ以上由美さんには近づけなくなっ

ていた。だが、それも時間稼ぎのようなもので、どんどん、また近

づき始めた。


 「あっ!赤ちゃんが動かない!」

 「えっ・・・・・。」


 と、その時である。玄関の方から急に走って来た少女が、由美さ

んのおなかに覆いかぶさってきた。誰?

 すると、黒い大きな影は部屋の隅に行ってしまい、遠くから見て

いるように感じる。そして、今度は西脇さんに近付いているようだ

・・・。あっ、でも、西脇さんが着けているバンダナがその黒い影

を近付かせないかのように光り出したと思ったら、取れて黒い影に

向かって行く。なんだこれは?殆どオカルトの世界じゃないか。こ

んなことが現実に起こるとは・・・


 「由美ちゃん、大丈夫?」

 「あぁ、何とか・・・楽になりました。・・・えっ、この子何?

誰なの?」

 「うん。誰かな?でも、この子のおかげでおなかの赤ちゃんも由

美ちゃんも守られたようだね。君、ありがとう。誰なの?」

 「うふ。良かったね、ミウちゃん。エヘへへ。」


 と言って、また玄関の方へと走り、いなくなった。なんだ?わか

らん・・・。

 それに、ミウじゃないだろ。由美さんだろうが・・・。


 「今の子、ミウって言っていましたよね、藤倉さん。」

 「だね。由美じゃなくてミウか・・・。あっ、由美ちゃん、おな

かの子って女の子じゃないのか?」

 「さぁ~、わかりません。主人とも話したんですが、知らない方

が楽しみだと言って、まだ、知らないんです。」

 「いや、きっと、女の子だよ。今の少女はその子を守ったんだよ。

それに、名前も知っていたようだ。・・・ミウちゃんか・・・。」

 「ミウね・・・いいかもね。その名前。アハ。でも、さっきの少

女は何者なのかな。年齢で言うと9歳から10歳くらいに見えたけ

ど、ちょっと、影が薄いような感じがしなかった、ニシさん?」

 「えっ、あぁ、そうだね。・・・というか、俺のバンダナが飛ん

で行っちゃったよ。あんなに綺麗だったのに、色があせて、白が黄

ばんでいるし、柄も薄くなっている。何があったのかな・・・。」

 「アハ。それは、西脇さんを守ったんだよ。そのバンダナには魔

除けの力があるからね。」

 「えっ、そうなんですか。これ、藤倉さんにいただいたものなん

ですよ。そんな力があるとは・・・俺、大切にします。エヘへ。」

 「うんうん、よかった。でも、さっきの少女、すごく気になるね。

それに、あの大きな影もね。そうだろう、黒川くん。」

 「はい。とても気になります。ここは、とんでもない異空間いや、

異世界なのかもわかりませんね。さっきの少女も玄関から来たので

はなく、玄関の方からであって、外から入って来たようには思えま

せんね。やっぱり、この家には様々な“霊”や“魂”が居ますよ。

先生、藤倉さん、どうします?もう一度2階へ行きますか?」

 「勿論だよ。全て観ないとね。それが今日の目的だからね。

 あっ、西脇さん。由美ちゃんを念のため、病院へ連れて行って下

さい。これから、2階、3階と観るけれど、明日ももう一度来よう

と思っているから、その時に改めて観ればいいよ。ねっ、由美ちゃ

ん。

 「はい。そうします。ニシさん、病院まで付き合って。」

 「あいよ。じゃ、後でまた来ますので。」


 そうだよね。由美さんの身体が心配だもんね。でも、西脇さんは

何かホッとしているかのようだね。アハ。さっきの東山さんと同じ

で、ここから離れたかったのかな?

 アレ?山川はどこへ行ったんだ。まだ2階に居るのかな?先生は

降りてきているのに、なにやってんだ?


 「あっ、そうそう。藤倉さん。俺と由美ちゃんがここに来る途中

で、駅前に立ち寄ったのですが、タクシーの運転手が変なことを言

っていましたよ。何か、昨日、駅前からここまで女性と少女を乗せ

て来たが、着くといなくなっていた。でも、料金は、きっちりと置

いてあったらしいのですが、その運転手は、こうも言っていました

ね。普通だと後ろに2人も乗せると人の重さで少し車体が沈むんだ

けれど、それが全くなかったし、ここに着くまで一言も話さず、ま

っすぐ前だけを見ていたので、声をかけたが、ニコとほほ笑んだだ

けで何も言わなかったらしいんです。考えたらさっきの少女は、そ

の時の子と違いますか?その後、その運転手は売り上げが倍増した

とのことですが、今も安定しているらしいんです。福の神だぁ~な

んて言っていました。ただ、昔から見かける2人だそうですが、昔

から年恰好が変わらないらしいんです・・・。じゃ、病院へ行きま

すね。みなさん頑張って下さい。」

 「ん~。とんでもないことを、言い残して行きましたね・・・。」

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