第8話 カフェオレ

 話が早いと、あの人が言う。

 私は軽く微笑んでから、マグカップにカフェオレを注ぎ込んだ。

 雨の日は嫌いではない。

 いろんな音を消し去ってくれるから。

 例えば、ポケットから小瓶を取り出す音。

 例えば、小瓶を開ける音。

 例えば、小瓶の中身をマグカップに入れる音。

 あの人は気が付かない。悪いねと言ってマグカップを持ち上げる。

 雨がいろんな音を消し去っていくから。

 だから気が付かなかったことにする。

 カフェオレを啜る音。

 マグカップの割れる音。

 うめき声。

「悪いね。もう、お金は用意できないの」 

 聞く相手のいない呟きをもらして、静かになった部屋を後にする。

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