第704話魔王崇拝の教祖ですか?
「失敗、か。解った、下がれ」
「はっ、失礼致します、教祖様」
信徒の報告を聞き、小さく溜め息を漏らしながら部屋から出る様に指示する。
指示通り出て行き部屋に静寂が訪れるのを確認してから、今度は大きく溜め息を吐いた。
やっと見つけた顕現した未発見の遺跡。フドゥナドル様が復活なされる為の聖櫃の創造。
核も顕現出来る状態にまで回復していた筈だった。
だが折角手に入れた機会は、フドゥナドル様の復活はならずに信徒の数だけが減った。
あの方が復活されたならば何の問題も無いが、ただ忠実な駒が減っただけなのは痛い。
また遺跡を捜す必要があるし、表と裏の役割の人間を作る作業が増える。
あの遺跡にはフドゥナドル様を顕現出来るだけの条件が揃っていた。
だから複数の命を用意し、繋げる為の道も作り、準備は万端だった筈。
だが失敗した。遺跡に入って行った者は皆死んでおり、遺跡はただの建造物となっていた。
最早あの遺跡はただのゴミだ。何も残っていない。
フドゥナドル様が復活なされないなら、せめて魔人は出て来ると思ったのだが。
それすら起こらないという事は、あの遺跡は最早何の機能も有していないという事だ。
「ようやくあの邪魔な国を出し抜いたというのに・・・!」
遺跡をどの国よりも警戒し、魔人の排除に心血を注いでいる国。ウムル王国。
あの国は我々にとって最大の敵だ。我々の目的が遺跡だと悟られない様に、何も理解していない信徒も増やして目を誤魔化しているが、最近はその効果も薄れつつある。
ウムル王の弟グルドウル。奴は我々の目的に感付いている節が有る。
フドゥナドル様を復活させる意図は知らずとも、魔人を多く起こす為に動いている程度には思っているだろう。
奴は我々の活動先に悉く現れ、我々が遺跡に辿り着けない様に結界を作っていく。
明らかに奴の行動は我々の先を行こうとしている。
ウムル王国は友好国の調査は出来ても、そうでない国に自由に入って行けるはずもない。
諜報員を他国に放ったとしても遺跡を捜すには限界がある。
正式に大量の人員を動員した大きな調査が出来ねば、そうそう簡単に見つかるはずがない。
そして見つけたとしても、諜報が生業の人間に魔人の対処は出来んだろう。
つまりウムルの諜報員は我々の事も調べ、グルドウルへ情報を渡している。
いや、グルドウルがそう指示して情報を集めているのだろう。
なればその行動を許可しているウムル王も理解していると考えるが自然。
我々が何をしようとしているのか。本当はどういう組織なのか。
表で人を扇動し、破滅思想に導かんとしている人間達は目くらましの捨て駒だと。
信徒の中にもウムルの者が紛れ込んでいる可能性が高い。だからこそ今回の失敗は痛い。
今回死んだ者達は、間違いなく私の目的に付き従う忠実な信徒だったというのに。
「人間ごときが・・・!」
腹立たしさに唸る様に言葉を吐き出すが、それ以上事が出来ない自分にも腹が立つ。
魔人の身でありながら、人の様に策を練られねば奴等に対応できない。
奴等はそれだけの脅威であり、脅威と認めなければいけないという事が屈辱だ。
だが奴等は人間の皮を被った化け物だ。でなければ我々が悉く殺される訳が無い。
少なくとも我々の中で一番強かった魔人が殺されるはずがない。
あの男がウムルの者達に殺された時は余りに理解不能だった。
しかもそれだけに終わらず、我らが復活できない様に封印までして来る。
奴の後に起きた事で幸いその光景を見る事が出来、ウムルという脅威を正しく認識できた。
何よりもあの時の赤髪の女。あの女は異常に強すぎる。
「魔人を悉く殺す人間か。まるで奴の様だ。いや、数が多い時点で奴よりも性質が悪い」
フドゥナドル様を滅した男。今の時代はあの男が大量に居る様なものだ。
私達にとっては余りに悪夢で、だがそれでもフドゥナドル様さえ復活して頂ければ話は変わる。
あの方の力は偉大だ。たとえウムルの化け物どもでも、完全復活したあの方には敵うまい。
それまでは私は殺される訳にはいかん。
話の解る者ならば良いが、殆どの魔人は真面に戦うなと言っても聞く耳を持つまい。
奴等に負ければそのまま封印されて終わりだ。
試しに遊んでやろうなどと言って返り討ちにあい、そのまま復活も敵わぬのが関の山だ。
今は私だけが、この私だけがフドゥナドル様復活の手助けが出来る。
長い時間をかけて宗教を作り、信徒を増やし、世界中に表と裏の信徒が居る。
流石に帝国の様な国やリガラットには種をまけなかったのは残念だった。
そういえば今回帝国で暴れた者には礼を言わねばならんだろうな。
どうせウムルの者達に封じられているだろうから機会は無いだろうが。
だが奴のおかげで、一時的にグルドウルの意識がそれた。
そのおかげでウムルを出し抜き、遺跡を発見出来た可能性が高い。
贅沢を言うならば、もう少し長めに頑張って貰いたかったものだ。
これでまたグルドウルが動き出すだろう。面倒なことこの上ない。
自らが動く事が出来れば一番楽だが、万が一にでも見つかればただでは済まんからな・・・。
「まあ、いい。時間はまだある」
むしろ有り余るほどに時間はある。私は魔人で、奴等は人間だ。
今はウムルの連中を出し抜けんとしても、世代が変わっても今のまま等出来はすまいよ。
とはいえ何もせず隠れているだけ、などやる気は無いが。
「だがまずは、また調査からだな」
また遺跡を捜すところから始めねばならん。
ウムルの息の届いていない土地を選んでだ。
全く、面倒臭い・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます