第3話 滞在期間は未定です。

真白ましろさん、今回の『だいだいはな』は結構スリリングな展開でいい感じですね。」

「僕も書きながら汗だくになりました。でも表紙や帯も躍動感のあるものにしていただいて、ほんとおつりが返ってきちゃいますよ。いつもありがとうございます。」


担当編集者の片岡詩織かたおかしおりは晴れやかな顔をしていた。

発行元の出版社であるアポロ書房の一室で、僕の新刊を前に彼女と向かい合って座っている。

「早速ですが、今日でちょうど発売日の1ヶ月前になります。今日は少し早いですがサイン本の作成とプロモーションの打ち合わせをしたいと思います。」

「よろしくお願いします。」

見本はだいぶ前にもらっていたが、帯が巻かれた完成品を見ると改めて自分の手元からいよいよ巣立っていくのだという何とも言えない気持ちになる。手にとってしばし表紙を眺める。僕は表紙についてあまり注文を出さず、担当してもらうイラストレーターの感性に任せることにしている。今回はオレンジ色の龍が大胆に描かれた迫力あるものに仕上がっていて、店頭でも目を引くだろう。


表紙の龍を堪能し、裏表紙へと目を移す。こちらは中央に主人公の少年の後姿がシンプルに描かれているはずだ。

・・・・ん?


「どうかしましたか?何かお気に召さない点でも・・・?」

訝しげな顔をして裏表紙を凝視する僕を見て片岡詩織は不安げな声をあげた。

「もらった見本ではここにアルの後姿があったはずなんだけど・・・」

「はい、そのはずですが・・・あれ?!ちょ、ちょっと他のものを確認してきます!申し訳ありませんが少しお待ちください!」

血相を変えて部屋を出て行く彼女を見送ると、残された僕は誰もいない裏表紙を見つめるしかなかった。





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