冷夜砂糖

 冷たい砂糖を巻き上げて、風が吹いている。

 ガタガタと窓を揺らし、出てこいと、こちらへ出てこいと叫びながら。

 風が吹いているのだ。

 砂糖をやろう、と。

 甘い温かな砂糖をやろう、と。

 風がガタガタと窓を叩いている。

 ああ、それは素晴しかろうさ。

 ああ、それは素晴らしき終着駅だろうさ。

 銀幕の夜空を仰ぎながら。

 雲の様な白い灯りに包まれ。

 その目をかっと見開いたまま。

 世界を睨んだまま。

 過去と邂逅し。

 あの君の幻と邂逅し。

 ニヤリと笑う。

 それが最期だ。

 そして眠るように息を止める。

 しばらくの間は胸の奥で鐘が鳴る。

 しかしそれも。

 まるで楽譜に従うように、段々に弱くなっていく。

 そして最弱の一鳴きの後。

 最期のキンと言う魂の弾ける音を聞く。

 遠くの碧い山脈を踵の下に。

 錆びたブリキの観覧車を左手の下に。

 月を、右目の下に。

 左手を、貴方に。

 急速に消えていく自我の中。

 白い砂糖が舞い上がる。

 それを一粒握り。

 君へと差し出す。 

 ああ、これが。

 そうだ。

 これを。

 これを、貴方に。

 その為だけに。

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