インターフェイス
変態マン
第1話 プロローグ 開戦前夜 2008年
「平和を享受し続けたこの国は、本当に平和というものを理解しているのだろうか、そうは思わないか?」
月光が象る自身の淡い影に目を落としながら、窓際に立つ男が呟く。
ここは東京、とあるビルの最上階。
この瞬間も人々は笑い、泣いているのだろう。
眼下に広がる街の光は、眩しくも儚なげだ。
「それで、いかがなされますか?」
部屋の隅からその声は発せられた。
目を凝らせば、やっとそこに誰かがいるということが分かる程度、暗がりに溶け込むようにその男はひっそりと、声を発しなければその存在に誰も気づかないであろう立ち居振る舞いで、ただひっそりと佇んでいた。
その男の顔からは感情が読み取れない。
部屋に明かりがないということもあるが、もし今、部屋の照明が全て点いていたとしても結果が変わらないことを窓際の男は知っている。陰々滅々という言葉を鋳型に流し固めたような男なのだ。
それは影に服を着せたような男だった。
そしてその『影』が今度は沈黙で問いかける。
といっても既に答えは決まっていた。後は窓際の男が「状況開始」の一言を告げるだけで全てが動き出すのだ。
「ずっと前から準備をし、待ち続けた状況が今目の前にある。それをしない理由はどこを探しても見当たらない。《プロセッサ》の結論だ」
窓際の男はそう言いながら苦笑した。
煌めく街の明かりは、その数だけ物語を背負い主張する。
取るに足らないありふれた小さな物語が身を寄せ合い、街を作り今日まで夜空を照らしてきた。一つ一つの明かりが消えても、新しく始まる物語がそれを埋め、また何事も無かった様に今日も、昨日も、その前も。
だが、明日はどうだろう。
「………」
これは決まったことだ。ずっと願っていたことだ。
沈黙が支配する空間、窓際の男は自分がその役を負ったことを後悔するかのように苦悶の表情を浮かべていたが、ふいに『影』に目をやり、はっきりと言った。
「始めたまえ」
窓際の男は、『影』の顔が喜悦に歪むのを確かに見た。
そして
戦争が始まる。
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