第15話 閑話 婚約破棄は突然に さらに後日談 その2

 現在生徒会の5人で温泉の古い街並みを散策しております。

 優柔不断のようですが、あの場面で一人を選ぶ方が修羅場が悪化しそうだったので、『みんなで散策しましょ♪』と必死で笑顔を作って提案しました。


 以前の私は頭の中が『お花畑』だったようで、イケメンに囲まれて嬉しい♪…なんてやってましたが、イケメン三人と、水島さんの空気が微妙なのを現在ははっきりと感じております。


 綾小路さんたちが『平岡君ハーレム』に冷たい視線を送っていた意味が今ならわかります。


 水島さんは一生懸命に小森君に話しかけており、小森君は嫌がりはしないものの、隙を見て私にアタックしてきます。

 如月会長と二階堂君も敵対的…というほどではないですが、お互いにけん制し合っています。

 うう…この状態をどうやって打開したらいいのでしょうか?


 「まあ♪みなさん仲良く散策なのね♪」

 アルテア先生たち女子会グループが浴衣姿で……男性陣三人、いえ、私と水島さんもアルテア先生の胸元に釘付けです!!

 アルテア先生が動かれるたびに浴衣の前が『弾けそう』になり、女性の私たちですら、『いつ決壊するかわからない堤防』に目が釘付けになりそうです。

 天は人に二物を与えず…アルテア先生には『巨大な二物』を与えられたのですね…。

 普段の服装なら全然問題ないのですが、今回のような浴衣とか、文化祭の時のチャイナドレスは…反則です!!女性の…いえ、人類の敵です!!


 その上、ウルトラ癒し系の美女なので、『隠れファン』は多数いたようですが、『急遽ご結婚』が決まって100人を超える生徒が嘆き悲しんだそうです。


 …気が付くと、九人で一緒に散策してました。

 女子会の皆様は全員癒し系だったため、さっきまでの厳しい空気が一気に柔らかくなってくれました。しかし、『誰かと仲を深めるチャンス』も少し遠ざかってしまったようです。


 街並みについては石川さんと綾小路さんが事前にいろいろ調べてきていたようで、温泉の由来から街の歴史などについていろいろと教えてくれてます。

 さらに石川さんは興味を引くものがあると、子供のように目をキラキラさせて、神那岐さんの手を引いて、あちこち動き回ります。

 ……クールで迫力たっぷりの悪役令嬢……そんなイメージはかけらも見られないのですが…。

 乙女ゲームのシナリオとは何もかも違いすぎます。


 「ほら、『おやき』おいしそうだよ♪みんな一つずつ食べようよ♪」

 アルテア先生がみんなに野菜の入ったおやき(ご飯状のおやつ)を買ってくれました。


 「あんまりたくさん食べると豪華な夕食に差し支えるからちょっとだけにしようね♪」

 ニコニコしながらアルテア先生がみんなにおやきを配ってくれます。

 みんなでほっこりおやきを食べていると、メールの着信があったようで、石川さんが素早くスマホを取り出します。そして、ものすごく真剣に目を通された後、神速の速さでメールを返信されました。

 それを見て綾小路さんがため息をつかれます。

 「光一さんからのメールですよね?」

 「…ナ、ナンノコトデショウカ…。」

 「着信音を変えておられるし、メールが届いた瞬間に本当に嬉しそうに『表情をキラキラ』させられるし、返信されるときも楽しそうに『猛スピード』で打ち込みされるんですから、モロわかりなんですが…。もしかして、自覚されてなかったですか?

 できたら、女子会の『盛り上がりが収まったくらい』に密会していただくとうれしいです。」

 「遥ちゃん!どうして、一から百までわかるわけ?!!もしかして『超能力者』なの?!」

 ………石川さんがものすごくビックリされてますが…。


 「…いえ、別に超能力とか使わなくても『普通に推理』すればいいだけですよ。ワトソン君♪」

 「うわ、さすが名探偵シャーロック・遥ちゃん!恐れ入りました♪」

 綾小路さんがかわいらしいドヤ顔で笑っている。


 「あら、春日さん♪みんなイメージと違うのが意外かしら?」

 アルテア先生が私にこっそりと囁く。


 「え?そうですよね…。石川さんはクールビューティーかと思ってましたから…。」

 「ふふふ♪『猫を被っていたら』瀬利亜ちゃんクールビューティーに見えるのよね。素の瀬利亜ちゃんは熱血ヒロインとゆる系天然さんと足して二で割ったくらいかしら♪

 あなたと水島さんも『素の状態』だともう少しはっちゃけてるんじゃない?」

 優しく、でも見通すような視線で見られて、私はたじたじになっていた。


 「この女子会はみんな『素を出していい』から楽ちんだし、光一君と瀬利亜ちゃんも素で付き合っているからあそこまで仲がいいんだけどね♪

 『誰かに決める』ならそこを考えた方がいいかもよ♪」

 …ええと…アルテア先生…ゆる系ののんびりした先生だと思ってましたが、予想以上に怖い人かもしれません。…まあ悪い人ではないようですが…。



~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~



 山海の幸がたくさん入ったおいしい夕食を食べ終えるとに一風呂浴びることにします。

 …ええと石川さんたちも同じことを考えられたようで、またまたご一緒させていただいております。


 今回の旅では誰かと親密になるのは難しいかもしれませんが、なんだかんだで楽しかったと思います。

 巨乳一号、二号さんも仲良くなってみるとそんなに気にならなくなってきました。

 『女は胸じゃないよね!心だよね!』と強く思うことにします。


 しばらくして、アルテア先生が用事があると言われて先に上がられます。


 残ったメンバーでゆったりお湯に浸かっていると、突然ばたばたと大きな音が聞こえてきます。

 そして、露天風呂の境界を乗り越えて、黒ずくめの男たちが乱入してきます!

 「わっはっはっは!我らは悪の秘密結社暗黒団だ!!この旅館は我々が占拠…ぶげら!!!」


 えーと、リーダー格の男に風呂桶が投げつけられました。

 「黒ずくめの変態集団がなに覗きに来てんの!!!」

 石川さんがバスタオルを体に巻いて顔を真っ赤にして怒っています。


 「待て!!我々は覗き目的ではなく…。」


 「まったく、悪の秘密結社が落ちぶれたものだな!」

 「デバガメという不正義は正さねば!!」

 「正義の鉄槌を下すときですね!」


 …えーと、露天風呂の反対側から三つの人影が風呂場に舞い降りました…。


 「あくまでも華麗に、そして軽やかに!キャプテンゴージャス!ただいま見参!」

 赤を基調にした豪華な衣装、金糸、銀糸の入った高価そうなマントを羽織って、覆面の長身の人物が名乗りを上げています。


 「奇跡の超人ミラクルファイター!悪あるところに即参上!!」

 身長は人並みですが、鋼のような肉体にフィットする青と黄色のボディスーツ、口だけ見える銀色のマスクをかぶった男性がファイティングポーズを取っています。


 「スーパーニャントロマシーン二号参上!この世の美少年は私が守る!!」

 全身黒タイツ姿の上に和風と思しき黒猫の仮面を被っている細マッチョの男性が謎のポーズを取って歯をキラッと光らせています。…えーと、ここには美少年はいないのですが。


 そして、三人の謎の覆面の人達が黒ずくめたちに向き合った時、お風呂の中に強烈な殺気が拡がりました。


 「全員出てけーー!!!」

 殺気を放っていたのはいずこから出てきたのかバスタオルを巻いたまま巨大なハリセンを持った石川さんでした。


 「待ってくれ!我々は決して覗きをしたかったわけでは…。」

 「問答無用!!」

 石川さんがハリセンをぶんぶん振り回すと黒ずくめたちはガンガン外に跳ね飛ばされていきます。

 十数人いた黒ずくめはあっという間に全員姿を消してしまいました。


 「で、こちらの御三方は自力で出て行かれますか?私が『打ち出す』方がよろしいですか?」

 こ、怖いです!!石川さんの目がものすごく怖いです!!


 「悪は片付いたようだし…退却させていただきます…。」

 「…右に同じで…」


 「電脳マジシャン!なぜ、君は一人だけ入ってこなかったのだ!!」

 猫の仮面をかぶった人が『電脳マジシャン』という人を呼んで…電脳マジシャン?!!


 「当たり前や!!中に入っとるメンバー考えたらこの結末になるのは目に見えとるやん!

 わざわざ突っこんでトラブル起こすんはアホみたいや!」

 関西弁…ですよね…錦織先生ですか…ということは他のメンバーは?!


 「ということは会合に来ていたのは一人の紳士と『三人のデバガメ』ということでよろしいのでしょうか?」

 石川さんが相変わらず怒ってます。…え?この口調、残りの三人の正体も知ってるの?


 「「「撤収いたします!!」」」

 三人は速やかに撤収してくれました。




 お風呂から上がると、石川さんの前に錦織先生が寄ってきました。

 「災難やったね。ああ、連中ぜんぶ片づけといたわ。」

 吹っ飛んだ黒ずくめたちは電脳マジシャンこと錦織先生が片づけてくれたようです。


 「おおい!女湯が騒がしかったようだけど、無事か?!」

 おっと、如月君たちが心配したのか駆け寄ってきてくれた。


 「ええ、石川さんのおかげで大丈夫よ。」

 びっくりはしたものの、石川さんの素早い対応のおかげで実質的な被害はなしだ。

 


 「おお、御嬢さん方はご無事のようだね。」

 昼間に会った早川理事長たち三人も駆けつけてくれた。

 ……もしかしなくてもこの人達、さっきの覆面のヒーローっぽい三人だよね…というか、サイバーヒーロー・電脳マジシャンの仲間なら『ヒーロー』なのが自然だよね…。


 ほっとしていた私たちですが、体育のカイザス先生が私たちを見て、はっとされて顔を覆われた。

 「なんということだ!今君の美しさに気付いてしまった!!どうだろう、よかったら今晩一緒に食事を!!」

 そう言って、カイザス先生は懐から取り出した花束を……小森君に渡したのですが…………はーーーー??!!


 私も小森君も完全に固まって動けない中、石川さんが懐からハリセンを取り出してカイザス先生をはたいた。

 「なにやってんですか!!教師が生徒を口説くのは禁止です!!」

 「え?光一君は瀬利亜ちゃんを口説いたのでは?」

 「きちんと責任を取るのであれば話は別ですから!」

 「わかった、ちゃんと責任をとって、小森君と結婚するよ!!」

 「だめに決まってるでしょ!!!」


 石川さんはカイザス先生をはたくと、気絶したカイザス先生をコロンボ警部みたいな人にひょいと手渡したのですが!


 「真一!だいじょうぶだった?」

 水島さんが小森君に声を掛けている…真一?!

 「本当はすごく強い真一が圧倒されるとはびっくりしたわ!まさか、もう少しで真一の『受け』シーンが見られそうになるとは…ちょっと残念!!」

 は?『受け』てなに?!


 「恭子!お前、『腐女子が悪化』してるだろが?!!鼻血が出てるから、せめて拭けよ!」

 ええええ??!!!もしかして小森君と水島さんは幼馴染で、しかも水島さん腐女子?!!


 「あら、確かに『美男同士のやりとりは大好物』だけど、男性個人で好きなのは真一だけだよ♪」

 水島さんに言われて小森君は顔を赤らめて口をパクパク言わせている。


 それを見て固まっている私を如月会長がさっと手を引いてくれた。

 「とりあえず、二人にしてあげよう。あの様子だと小森も本当はまんざらでもなさそうだし。」

 如月会長の二人を見る目は妙に優しかった。



 その後、生徒会の三人と女子会が合流し、とりとめのない話をして夜も更けていき、如月会長と二階堂君は男子部屋に戻り、私はそのまま女子会部屋に泊まりました。

 なお、そのことを水島さんにメールで伝えたせいか、水島さんと小森君は『女子部屋にお泊り』になったようです。


 なお、深夜に石川さんがお一人で部屋を抜けていかれて、数時間後に戻ってこられました。

 昼間の『綾小路さんの推理』は当たったようです。



 翌日、帰りの汽車では少しだけウザがる小森君を水島さんがかいがいしく世話をする光景が見られました。

 「…小森のやつ、ツンデレだったんだな。」

 如月会長が嬉しそうに囁きます。



 しばし、三人で『カップルを鑑賞』していると、通路に一人の男性の姿が…平岡君です!焦燥しきった顔で一人で歩いています。

 顔にはひっかき傷がいくつもあります。

 「平岡?!一体何があった??!」

 一番近かった二階堂君が駆け寄ります。


 「修羅場だった。三人全員と『コトに及ぼうとしたら』鉢合わせて三人全員に振られた…。」

 「「「「「………。」」」」」

 全員の視線が氷点下に下がりました。

 ゲームとは違い、攻略後の方がよほど大切なのですね…。


 「どうした、そこの少年♪悩みがあるなら先生に言ってごらん?」

 ……同じ汽車にカイザス先生が乗っていたようです。

 そして、あの時と同じく懐から取り出した花束を平岡君に差し出しているのですが…。


 「だ・か・ら!生徒を口説くんじゃありませんてば!!」

 背後から石川さんのハリセンがさく裂し、石川さんはカイザス先生をひょいと持ち上げると引き上げていきました。

 ……えーと……子猫か何かを持ち上げるようにカイザス先生を持ち上げる石川さんは何者なのでしょうか?

 美少女ゲームでは『モブキャラ』で設定がなかったと如月君が明かしてくれたこともあり、謎は深まるばかりでございます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る