第7話 閑話 婚約破棄は突然に 後日談
忘れた人のための登場人物紹介
小森真一: 小柄ではかなげな美少年で、一年で成績トップの書記
二階堂武士: 男子陸上部エースで、風紀委員長の精悍な長身の細マッチョ
(「どうして私だけ紹介がぜんぜん違うわけ?!」《BY瀬利亜》)
私、春日更紗は
目が覚めると保健室のベッドに横になっていた。
どうやら気絶していたようだ。
そして……なんと、『前世の記憶らしきもの』が頭の中に蘇ってきた。
その時の私は平凡な容姿、平凡な成績の高校三年生で、卒業式が終わった後、学校からの帰り道、交通事故に遭ったのだった。
小さな女の子がトラックに轢かれそうになっているのを見つけて、慌てて突き飛ばして…そこで記憶が途切れてしまっている。
まるでラノベで読んだ『異世界転生』のテンプレのような展開だと思った。
そして、今の入学式でもう一つのことに気付いた。
前世で遊びまくっていた『乙女ゲーム
そして、入学式で隣の席に座っていたイケメンは最有力の攻略対象の『生徒会長・
そういえば小柄で可憐なヒロインの名は…春日更紗だ!!
そうか、私は女の子を助けたご褒美に『乙女ゲームのヒロイン』として転生させてもらったんだ!!!
そう気づいた時、私は有頂天になった。
前世での私は『彼氏いない歴=年齢』で寂しい青春時代を送ったものだ。 まあ、女友達はそれなりにはいましたけど。
そして、翌日隣の席が如月君だった時にはこれは『天のギフト』だと確信しました!
最初に席が隣でも如月君の態度が非常にそっけなかったのもゲームと一緒です。
でも、私は覚えてました。エリート一家の中で勉強にスポーツに脅迫観念のように追い立てられている如月君の心の闇を…。
だから、『ゲーム同様』に頑張っている如月君を尊敬する話をした上で、『野球のハチロー選手』のように超一流選手は『野球に真剣に取り組むだけでなく、肩の力を抜いて楽しんでいる』と、楽しむことで肩の力が抜け、結果も付いて来ているようだね…みたいな話をしました。
それは私の学校の成績にも出ている…そんな話をしたところ、如月君は最初、愕然となり、それから次第に心を開いてくれました。
まあ、高校三年を卒業した記憶があるのですから、高校一年での成績がいいのは当たり前なんですけどね…。もちろん、きちんと勉強はしましたが…。
気が付くと、如月君と一緒に生徒会の書記と会計になり、さらに仲良くなりました。
ほぼ同じ時期には『荒れて髪を金色に染めた』二階堂くんとも登校時に顔を合わせるようになりました。
なんでも『中学の時から陸上のエース』で頑張ってきたものの、高校に入って怪我をしてから調子が悪くなり、やさぐれていたのです。
ゲームでも攻略済みなのが助かりました。
『何のために陸上をやっているかをもう一度、二階堂君自身に問いかけてみたら?』
はい、効きました!がむしゃらに頑張ることしか考えていなかった二階堂君が次第に顔つきが柔らかくなりました。
そして、力まなくなった分だけ結果も付いて来てくれたのです。
そして、次第に彼の信頼も得ることができるようになったのです。
やり!!これはまさかの『逆ハーレムルート』か?!
とか思っていると、生徒会室と物理実験室が近いことから本来は『隠れキャラ』で、逆ハー状態になってから出逢う錦織先生と時々お話するようになりました。
如月君と一緒に会長と副会長になった後はさらに話す機会も増えました。
成績が超優秀で、二年飛び級した上で高校の物理教師になったというイケメンは明るくひょうきんな性格であるだけでなく、実は気配りの人…もう、最高です!!
ただ、現在は逆ハー状態ではないせいでしょう。『年上の恋人がいて、結婚も視野に入れているらしい』という話です。
ゲーム以上に『気配りのイケメン』はカッコいいのです。
なんとか錦織先生と…と思っていた時、あることを思いだしました。
錦織先生が出た後に登場するあの『悪役令嬢』のことを…。
ハーフの美少女、いや、美女にして、深層の令嬢!成績は優秀で、学校を陰から支配するクールでやり手の女性、石川瀬利亜という女性のことを…。
『双方の家が内々に決めた婚約者』で、錦織先生に手を出す相手には自分が表に出ないよう様々な手を使い追い落とす『冷酷な令嬢』。
ある日、向こうから歩いてくる錦織先生に声を掛けようとした時、『その人』は私に先んじて先生に声を掛けてきた。
それまで目にすることになかった実物の『悪役令嬢』に私は戦慄した!!
ゲームを遥かに上回る美貌!出るとこはしっかり出て、引っ込むところは引っ込んでいる『完璧な』スタイル!
そして、圧倒的な存在感のあるオーラと、強烈な意志を宿した目!!
「錦織先生!急ぎの用事があるんですが、よろしいですか?」
錦織先生にそう聞いてきたときの強烈な視線は今でも覚えている。
そして、それに対して、錦織先生も丸め込まれるように付いていった。
この事件は『内々の婚約者』である石川さんは錦織先生を『権力で従わせている』と私に確信させるのに十分だった!!
その後、新しく書記になった『自分に自信がなくおどおどしていた』小森君も、『性格の良さ』を認めてあげて、励まし続けることで慕ってくれるようになりました。
さあ、逆ハーレムが形になりました!いよいよ隠れキャラにして本命の錦織先生の攻略です!!
夏から秋にかけて、なぜか『年上の恋人』の話が全く出なくなりました。
チャンスとばかり、時々『相談に乗ってもらう』と言いながら『錦織先生の心の癒しタイム』の始まりです。
……ゲームと少し違ったのは、『内々の婚約者である』石川さんに対する愚痴が一切出なかったことです。
そして、思った以上に『心の闇を感じない』ことも誤算でした。
まあ、心に闇がないからお話していてこちらはずっと楽ではあったのですが、攻略はなかなか進みません。ゲームほどには錦織先生も時間を取ってくれませんし。
そんな風に過ごしているうちに11月になると、なんと、『錦織先生が石川さんと正式に婚約』したという話が学校中を駆け巡りました!
それに対してあろうことか、多くの女子たちから『錦織先生を非難』するような声が上がったようです。
なんと、石川さんはそのカリスマ性で『学校中の女子たちの支持』をいつの間にか集めるように工作していたようです。そして、婚約を正式に発表しただけでなく、『自分の方が立場が上』であると誇示するために女子から錦織先生を非難するように誘導したようです!!
許すまじ!悪役令嬢!!
その後も錦織先生も話は聞いてくれるのですが、あまり進展した感じはしないでいたところ、とうとう冬休みも終わってしまいました。
そして、新学期ついに恐れていたことが起こりました。
今まで私のことを『余裕で?』放置していた悪役令嬢がついに私に牙をむいたのです!!
私のカバンの中の筆箱がゴミ箱の中に捨ててあったり、ジャージが切り刻まれていたりしたのです!
幸いなことに仲が良く、いろいろな話をしていた三村さんが『石川さんの仕業』だと目撃してくれており、『証言』も期待できそうです。
そして、あの日とうとう『階段転落イベント』です!!
宙に舞う私の目に『銀色の髪』が入ってきた!
これで決定的だ!!そう思った私の意識は暗転していた。
そして、ついに『糾弾イベント』です!!
これで、錦織先生は『婚約破棄』して、私のものに……。
……えーと……いったい何がどうなっているのでしょうか…。。
悪役令嬢及び、無理やり婚約させられたはずの石川さんと錦織先生はどう見ても重度の『バカップル』にしか見えないですし。
石川さんも糾弾された後、見苦しく策略を使ったりもせずに、事態に翻弄される普通の女の子にしか見えないし…というか、クールどころか、錦織先生と『夫婦漫才』をしているんですが…。
とどめは私が最後に見た銀髪は確かに石川さんの髪でしたが…私を階段から落ちるのを『体を張って助けてくれた』……全然悪役令嬢じゃないじゃん!!
さらに嫌がらせの数々は…私に証言してくれた三村さんの方が犯人だった?!!
…三村さんは発覚後私に悪態をついて転校していきました。
…いやいや、『ゲームの黒幕』だけに絶対に裏に何かがあるに違いありません!!
私はとりあえず石川さんのことを調べるために近づいてみることにしました。
チョコを渡したのは…近づくためだからね!!助けてくれたお礼じゃないからね!!
自分にいろいろ言い訳しながら…なんで言い訳してるんだろう…。
とりあえず真相解明するために石川さんを見張ることにします。
…と言っても部活に入っておられない石川さんを見張るとなると…そうだ!
石川さんにお礼が言いたいからスケジュールを教えてください…と雪組の担任…は錦織先生だから…副担任のアルテア先生にでも…。
放課後そんなことを考えて人けのない廊下を歩いていると、石川さんが歩いてくるのが見えた。
石川さんは私に気付くとにっこり笑って声を掛けてくれる。
「階段から落ちるような事故に遭った時は体全体がこわばって見えないダメージを受けている場合があるの。念のためにしっかり体をほぐしておいた方がいいと思うわ。」
ええええ!なんて思いやりのあるセリフ!!
私は思わずお礼を言うと、そのまま見とれてしまいそうに…。
ん?向こうからイケメン&ワイルド系の男子生徒が…あの子も確か隠れキャラの…。
「更紗ちゃーーん!好きじゃーー!!」
ワイルドイケメンは私に向かってもうダッシュをかけてきて、その姿が途中で狼と人の合いのこのような姿にみるみる変わっていった!!
「キャー―――!!!」
思わず叫んだ私は次の瞬間とんでもないものを目撃した。
石川さんがその「狼男?」を巨大なハリセンではたき倒したのだ!!
「あなたなにやってんの?!!華奢な女の子をひき肉にでもするつもりなの?!」
「申し訳ありません!美少女ゲーム、『わくわく
はあああああ??!!この人、美少女ゲームとか…いったい何を言っているの??!!
…ここで思い出した。この狼男は人外ワイルド系の攻略対象だったのだ。
名前は平岡和則。狼男の血を引く心優しい正義感の強い青年なのだ。
ゲームでは狼男の血を狙う謎の秘密結社や犯罪組織と戦っていたような…。
「これは驚いたな…まさか他にも『転生者』、それも『わくわく
その聞き覚えのある声に私は信じられない思いで彼を見た。
生徒会長の如月君が呆然と平岡君を見つめていたのだ。
「すみません、みなさまにお聞きしたいことがあります!」
石川さんが疲れたような顔で私たちを見る。
「少し前から『乙女ゲーム』…とか、『美少女ゲーム』とか、『転生者』とか、『攻略』とか不思議な単語をいろいろ聞くんですけど、一体どういうことなんでしょうか?
はい、ここは『おいた』をやらかした平岡君に答えていただきましょう!」
えええ?石川さん、平岡君のことを知っているの?でも、転生者ではないの?それとも転生者でありながら情報を引き出すために偽っているの?
「いやあ、そのことなんですけど、俺が前世で遊んだ美少女ゲーム、『わくわく
おかげですでに三人のヒロインを『攻略済み』なんですが、こうして、メインヒロインの生徒会副会長とつい嬉しくなっちゃって♪」
「ちょっと待ちなさい!!『三人攻略済み』…ということは現在『三股かけている』ということなのよね…。」
平岡くんのセリフに石川さんの表情が厳しくなる。
…確かに三人攻略したまま…ということは別れていなければ、三股かけている…ということだよね…。
「なんだと!この『魔界の皇子・如月隼人』が更紗ちゃん一筋だというのに、この狼男はなんてうらやま…いや、破廉恥なことを!!」
…え?今如月君、『魔界の皇子』とか言ったよね…。
「まったく、美少女ゲームによく似た世界だと思ったけど、人外の存在までゲームそのままだとは思いませんでしたよ。」
ええ??!!あの気弱なはずの書記の小森君が精悍な顔つきで立っている。
「お前さんは、『吸血鬼でも由緒正しい侯爵家』の小森か?」
「そうだ。よく知っているな。僕はお前さんなんかと違って、更紗先輩一人だけ狙いだよ。」
ええと、ワイルドな小森君も素敵なんだけど…吸血鬼?!
「小森の言うとおりだ。、美少女ゲームによく似た世界であっても、何人もの美少女に手を出したりしたらいけないな。あ、俺も更紗ちゃん一筋だよ。」
今度は涼しい顔で二階堂君が小森君の後ろに立っている。
「『精霊王の血を引く』二階堂か…。精霊関連の割にはマッチョなんだな…。」
精霊王の血を引くとか…。
「あれ、瀬利亜はん?生徒会のみなさんとは問題は解決したんちゃうん?
はっ?!平岡!!校内で元の姿に変身したらあかん!!いろいろ問題になるで!!」
?錦織先生?なんで平岡君が狼男だと知ってるの?
「うわー、さすが錦織先生。正体がサイバーヒーロー『電脳マジシャン』だけのことはあるね。もしかして『生徒の正体全て』突き止めているんでしょ?」
「平岡、さすがは情報通やな。ちなみに美少女ゲームどうこうの記憶はあらへんけど、当然瀬利亜はん一筋や。」
ええと、『攻略対象』のはずの皆さんにとって、私は逆に攻略対象であり、しかも乙女ゲームの世界かと思ったら、美少女ゲームの世界でもあり、しかも、攻略対象は一人残らず普通の人ではありませんでした……なんじゃこりゃああああ!!!!
あまりのショックに私の意識は飛んでしまいました。
気が付くと、私はベッドの上だった。どうやら保健室に運ばれたらしい。そして…石川さんが心配そうに覗きこんでいた。…どうやら夢ではなかったようです。
「大丈夫みたいね。まったく、事実は小説より奇なりというけど、こんなショックなことはそうそうないわよね。」
「石川さん、ここがみんなが遊んだゲームの世界にそっくりな学校というのはどういうことなの?ここはゲームの世界ではないの?」
「…光ちゃんやアルテア先生ともいろいろ話したのだけれども、おそらく『この世界・この学校の情報』を何らかの形であなたたちの前世のゲームクリエーターたちがインスピレーションという形で『偶然ゲームにした』といことではないかと推測しているの。
そして、ゲームの記憶を持つあなたたちがその記憶に引き寄せられるように『ゲームの世界に似たこの世界』へ転生したんじゃないかということだわ。あくまで推測だけどね。
だから、この世界はゲームの世界ではなく、現実なの。いくら変な人たちがいて、変な事件が起きても現実だから平岡君みたいに『キャラクターを攻略』とか言ってゲーム気分で人に接していると痛い目を見ると思うわ。
他の人はちゃんと『人格ある人間』として尊重しなくちゃね。」
…耳の痛い話だった。人間とは少し違う存在とは言え、私一筋と言ってくれている人たちを集めて『逆ハーレム』と言って喜んでいたんだもんね。石川さんを『溺愛』している錦織先生はきっぱりとあきらめてちゃんと私一筋でいてくれる一人をきちんと選ぼう。
「じゃあ、私は帰るわね。お互いよい週末を楽しみましょう♪」
石川さんは話し終わると私に笑いかけて立ち去っていった。
石川さん、ありがとう。
……待てよ?!石川さん、狼男を『ハリセンではたき倒して』涼しい顔をしていたし、彼氏が『サイバーヒーロー』ということは…一体何者なんでしょう?
悪役令嬢ではないことははっきりしたけれど、正体がさらにわからなくなってきました。
翌日カジュアルな格好の錦織先生と石川さんが街中でデートをしているのを見つけました。
ついつい石川さんの正体がわかるかも…と思って付いていってしまった私は…。
「おお!!ラブな感じの素敵なホテルがあるやん♪ちょっと休憩どないやろか♪」
「いやいや、教師と生徒が入っていったらヤバイでしょ!!噂になったらどうするの!」
「大丈夫や!すでに『裸エプ◎ン』の件と『そ・れ・と・も・わ・た・し?』の件は学校中に広まっとるようやで♪
山縣せんせにその件でさんざんからかわれたわ♪」
「それ、全然大丈夫と言わないよね?!入っていくのを目撃されたらさらに話題になるよね?!」
「瀬利亜はん、こういう時に最適なことわざがあるんや。『葉っぱを隠すなら森の中。』つまり、新たな噂を作ってしまえば、古い噂はすぐに忘れられてまうんや!!」
「いやいや、そんな噂はたくさん作ればいいというものではないからね!!
それと、なんだかんだ言って『ラブなホテルに入りたい』だけでしょ!!」
「瀬利亜はん、それは誤解や。『ラブなホテルに入りたい』わけやあらへん。
いろいろネットで調べたら、『女性のコスチュームの充実度が日本でも有数』なこと、そして、ベッド他の仕掛けも同様に日本で有数なことが分かったんや。さすがは『ニャントロさんプロデュースのラブなホテル』だけのことはあるんやね♪」
「……ニャントロさんのことはとりあえず置いておいて…コスチュームプレイがしたいわけなのね?!ナースさんとか客室アテンダントさんとかと『したい』というわけなの?」
「そうやあらへん。ナースや客室アテンダントの格好をした『瀬利亜はんとしたい』いうわけや。中身が瀬利亜はんやなかったらしたいと思わへんから♪」
「…いつもその流れで光ちゃん押し切るよね…ところで、少し人の目を集めてるようだけど、今はやめにしない?」
「そうやね…。『今は』やめとこか♪」
……えーと……二人は『今は』ラブなホテルに入られるのはあきらめられたようです…。
……立ち去っていくお二人を見ながら、とても自分は真似できないなと思うのでした…。
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