第5話 異世界召喚勇者でチートでハーレムで魔王を倒す予定のモンスターバスター その4

 「まず突入前に大切なことを伝える。」

 ミーシャが私たちに真剣な顔をして言う。

 「魔王自体の実力ということで言えば、瀬利亜の方がかなり強いのではないかと感じる。

 だが、それでも魔王なのだよ。王家に伝わる『魔王の腕輪』の力で、勇者の剣や特定の神話級の武器でもないとまともに傷つけることもできない。

 だから、ここぞという時にこの『結界破りの短剣』を使う必要が出てくるんじゃないかと思う。

 もちろん、瀬利亜くらい実力があれば突破できるかもしれないが、ダメだったときがまずいからこの短剣を用意しておきたい。」

 「わかったわ。では、それはあなたが持っていて。短剣をこの中で一番うまく扱えるのはあなただわ。私はまず、魔王を短時間無力化するように頑張るから、必要な時はその短剣はあなたが使ってくれる?」

 「待て瀬利亜!私は魔王のやることが気に入らないとはいえ、実の娘だぞ!その娘にこの短剣を扱わせて万が一裏切ったらどうするつもりだ!」

 「あら、私これでも人を見る目はあるつもりなんだけど。それに裏切るつもりだったらそもそもその短剣の話もしないはずよね。気を遣ってくれてありがとう。」

 私はミーシャににっこり笑ってお礼を言う。


 「…いや、こちらこそ、信頼してくれて…ありがとう…。」

 ミーシャが赤くなりながら、消え入りそうな声で言う。

 「…そ、それから、城を守るゴーレムの話なんだが…。」

 私たち三人はミーシャの作った最強ゴーレムの話に耳を傾ける。



 「チェスト!!」

 私がゴーレムの弱点に掌底を撃ち込むと、ゴーレムは動きを止めた。

 「ふーー、ミーシャの話を聞いていたおかげで、あまり苦戦せずにゴーレムを無力化できたわ。ミーシャありがとう…。どうしたの?」

 私とゴーレムを見ながら固まっている三人に私は首をかしげる。


 「せ、瀬利亜…。ゴーレムの手足が全部もげてしまっているから、無理に弱点を壊さなくてもよかったのでは?」

 ミーシャが震える声でゴーレムを指さしながら言う。

 「えーと、万が一新しく手足が生えてきたり、あるいはちぎった手足がくっついたりしたらいやかな…と思って♪」

 テヘペロみたいな感じで私が口を開く。

 「これも、城の守りに使うものだから、『壊し過ぎるとまずいかな』と思って、『峰打ち』を心がけてみたんだけどね。ちょっと手加減が足りなかったかな♪」

 そう言いながら私がゴーレムをつつくと、今度は頭が外れて落ちた。

 「…ミーシャ、お城を守る大切なゴーレムだから、今度は『もうちょっと丈夫』に作ることをお奨めするわ♪」

 私が冷や汗をだらだら流しながら話すと、ミーシャは首振り人形のように頭をこくこくと縦に振った。



 そして、大きな回廊に出た時、多数の漆黒の鎧、おそらく魔力で動く鎧リビングアーマーと二人の漆黒の騎士が待ち構えていた。その二人の顔を見て私たちは愕然とした。

 「会長とチャラ男!!」

 「「せめて名前で呼んでくれ!!」」

 「え、えーと、岩手県くんと、大川くんだっけ?」

 「「石清水と大山だ!!」」

 「で、会長とチャラ男はどうしてここにいるわけ?」

 「「元に戻ってるじゃん!!というか、王様に付いて来たんだよ!」」

 「うわーーーがっかりだわ…。」

 私は心底がっかりしたように肩を落としてゆっくりと話し始めた。


 「確か二人とも『人々のために命がけで祈った姫様と、多くの人のために魔王を倒して平和を勝ち取るのです!!』て全力で主張されてたじゃん。それがどうしてこともあろうに『世界の敵』魔王と組んで戦争拡大の手助けをしようとしているのかしら?」

 「う、うるさい!お前だって魔王の娘と一緒に行動しているじゃないか!!」

 「あらあ、敵首領の娘が『真実を知って』正義の元に走るというのはヒーローものでは『お約束』だわ。彼女は今『熱く燃え盛る正義の心』に従って行動しているのよ。今でもかわいい女性たちの色香に惑わされてへらへら流されて行動しているあなたたちに言われたくないわ!というか、よくその体たらくでアリス姫を口説こうとされていたわね!」

 私の指摘に二人とも顔を真っ青にして声も出せなくなる。…この調子だと、魔王城でも女性をはべらせているようだ…。やれやれ…。

 「く、くそう!やれ!リビングアーマーども!!」

 会長は私の言葉に逆切れしてリビングアーマーに攻撃命令を下した。しかし、リビングアーマーたちはピクリとも動かなかった。


 「く、どうしたことだ!」

 「あのさ、私は元魔王軍随一の『ゴーレムマスター』なんだよ。完全自立機能を持たせていた最強の守護ゴーレム以外は私にとって『手足のようなもの』だ。だから、行け、リビングアーマーども!!」

 ミーシャの指令に従って、会長とチャラ男はあっという間に取り押さえられてす巻きになった。

 「瀬利亜、こいつらどうする?」

 「そうねえ、魔王とお話するのに邪魔になるから、死なないように城の外へ廃棄してくれる?」

 私の依頼を受けて、二人は粗大ごみとして城外に投棄された。



~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~



 「あのう、魔王様。勇者たちがこの玉座の間に入ってくるようなことは…。」

 「ダレイオス王。大丈夫だ。この城は対軍勢用にも勇者のような個人的な怪物に対しても徹底的に対策が打ってある。それに…この玉座の間には我以外にも最強クラスの親衛隊が勢ぞろいしておる。仮にわが娘ゴーレムマスターのゴーレムを破壊してきたとしても無傷では済むまいし、その状態で我が魔物騎士軍団、闇魔導師軍団の攻撃を受ければ勇者の一人や二人はどうとでもなるわ。

 それより、お前さんの娘やわが娘、そしてエルフの女をいかに『ほぼ無傷で捕獲』するかを気を付ける必要がありそうだ。『できれば』怪我をさせたり、殺したくはないからな。」

 「そうですよね。魔王様もなかなか悪でございますね♪」

 「いやいや、そういうダレイオス王こそ、もともとこの話を持ってきたのはお前さんの方だろうが。おぬしのほうこそ、かなりの悪よのう。」

 「「お互い悪ですなあ♪わっはっはっはっは!!」」

 魔王とダレイオス王はワイングラスをちんと交わしてぐっと飲み込んだ。




 その時、不意に上部の明かりがいくつも消え、気絶させられた魔物騎士の何人かが魔王たちの前にどさっと投げ出された。

 「「な、何者だ!!」


 「ひと~つ、、人の世の生き血をすすり!」

 般若のお面を被った金髪の姫がゆっくりと彼らの前に姿を現した。


 「ふた~つ、不埒な悪行三昧!!」

 白き狐のお面を被った長い銀髪のエルフの魔術師が杖を構えて姫の隣に並んだ。


 「み~つ、醜い浮世の鬼を!」

 天狗のお面を被った褐色肌のロリ娘が短剣を構えてさらに続いた。


 「退治てくれよう、シードラゴン!!」

 魔王たちの頭上のシャンデリアの上に銀色の仮面を被った若い女性が立っていた。

 銀を基調としたボディスーツ(しかもへそ出し)を着て、両手に銀色の長手袋、足には同じく銀色の長ブーツをはいたその女性は長い銀髪をなびかせながら魔王たちに向かって叫んだ。


 「 魔王アズクール、そしてダレイオス国王!!

 そのほうら共謀して八百長の戦争を起こしたうえに各国からの援助をだまし取り、あまつさえ、実の娘すら駒として使い捨てようとは不届き千万せんばん!!」

 女性は魔王たちの眼前にふわりと舞い降りると高らかに宣言した。


 「シードラゴンマスク、ただいま推参すいさん!!

 天に代わって悪をつ!!」



 一瞬固まってしまった魔王たちだが、間もなく正気を取り戻し、叫んだ。

 「ええい!者ども!出あえ、出あえ!!」

 魔王の部下の魔物騎士軍団、闇魔導師軍団を呼び寄せ、いよいよ最後の『大捕り物』が始まったのであった。



~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~



 私の眼前に鎧を着た怪物の軍団と、魔導師らしい軍団が動き出した。

 怪物はまだしも、魔導師たちは放っておくとみんなに攻撃魔法を使いそうなので早めに手を打っておきたいところだ。


 「シードラゴン流星拳!!」

 私は体内の『闘気』を自らの拳に乗せて、何百発と敵に向かって断続的に飛ばしていく。

 間もなく、魔導師たちは後方に吹っ飛んで動かなくなり、怪物たちも半数以上がその場に倒れていた。

 そして、強烈な攻撃魔法を使おうとしていた魔王の眼前に一気に踏み込んだ。


 「シードラゴン昇竜拳!!!」

 魔王の顎に右アッパーを叩き込み、魔王の体がそのまま宙に舞う。


 私はしばし、魔王の行方を見やった後、振り返ってミーシャさんに叫ぶ。

 「今よ!『結界破りの短剣』を使って!!」

 私の言葉にミーシャさんは……固まったままだった。

 いや、アリス姫もサーヤさんも同じように固まっている。


 それどころか、魔王軍の皆様やダレイオス国王、宰相たちまで固まっている。


 「……瀬利亜……『あれ』をどうしろと?」

 ミーシャさんが呆然としながら指さす先では…二十メートルは上にある天井に魔王が腹まで埋まって突き刺さっていた。

 「ほら、ミーシャ!まだ足がぴくぴく動いているからちゃんと生きているわよ♪」

 「…うん…そうだね……。で、あれをどうしろと?」

 「……放っておいても大丈夫そうね…。というか、抜かないとダメそうね…。」


 魔王軍たちとダレイオス王たちは即座に降伏し、天上に突き刺さった魔王を抜く作業はちょっとだけ手間でした。


~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~



 その後の話です。

 魔王アズクールと皇太子、そしてダレイオス国王は『不法な戦争を起こした責任』を取って逮捕&廃位になり、現在監禁中の身の上です。

 『魔グリフォン国』は魔の字を外して『グリフォン国』となり、ミーシャさんが女王に就任しました。

 ガルーダ王国は『父王から煙たがられて遊説中』だった、アリス姫の兄のラシャール第一王子が国に戻ってきて、そのまま即位しました。アリス姫はその補佐をするということで二人で必死に仕事をされています。


 会長とチャラ男くんは私がかなりお説教をしてあげた後、一足先に元の世界に送り返してもらいました。少しは改心してくれているといいのですが…。


 そして、サーヤさんが再び旅に出ようか…というくらいに元の世界から私を迎えに仲間のモンスターバスターの魔術師たちが王城に来てくれました。

 その時ちょうどアリス姫、サーヤさん、ミーシャさんもおられたので、ちょうど別れの挨拶をすることができたのです。


 城の広間に魔方陣が出現すると、なぜかコタツが現れ、そのコタツを跳ね上げるようにして私の友人たちが姿を現したのです。


 「まあ、瀬利亜ちゃん、無事だったのね♪」

 金髪長身の超絶美女の魔法使いがにっこりと笑っている。

 モンスターバスター協会メンバーで最高の魔法使いアルテアさんだ。


 「もう、本当に心配したんですから!!」

 少しすねるように日本人形のような小柄な少女が私に訴える。

 同じく私の後輩モンスターバスターにあたるちーちゃんこと神那岐千早かんなぎちはやちゃんだ。


 「三時間も音信不通になられるんですから、何かあったのかと思いましたよ!!」

 そっちの世界では三時間しか経っていなかったのですか?!!

 私と同じ制服を着ているかわいい系のお嬢様、遥ちゃんだ。

 モンスターバスターではないが、いろいろ事情を知っているみんなと共通の友達だ。


 「瀬利亜はん。事件は無事解決されたような感じがするんやけど、このまま帰ってだいじょうぶなん?」

 怪しい関西弁を操る優しい雰囲気のイケメンが城内をぐるりと見やる。

 同じ武術の師匠に習っている光ちゃんこと、錦織光一さんだ。

 私のクラスの担任であると同時に、モンスターバスターではないが、私同様『スーパーヒーロー同好会』で活躍している現役のスーパーヒーローでもある。

 え?なぜ『同好会』なのかですか?……それは聞かないでくださいませ…。


 「もう、本当に心配したのよ♪」

 と言いながら、アルテアさんが私を自らの一〇八センチのバストに押し付けながら思い切り抱きかかえる。

 むう!!気持ちいいけど、息ができません!!愛情表現はうれしいのですが、ちょっと待ってください!


 「待って、アルさん!そろそろみんなに別れを告げるから、いったん離してもらえる?!」

 私がアリス姫たちに向き直ると、三人の女性はなぜか『アルさんの巨大なメロン』を見やりつつ微妙な顔をしていた。


 「そうですよね…瀬利亜さんは『大きい方がお好き』なのですよね…。だから、私たちではダメだったのですね…。」

 アリス姫!!それは大いなる誤解です!!巨大な胸に埋もれて気持ち良くないとは全然言わないですが、『そちら方面は対象外』ですから!!


 「八〇 五八 七八に七八 五六 七七。さらに七六 五五 七七でっか。アルテアはんを見て言いたくなる気持ちはわからんでもあらへんね。」

 光ちゃんがアリス姫、サーヤさん、ミーシャさんを順番に見ながら『正確な数字』を見ぬいている。そんなものを公言するんじゃありません!!

 幸いなことにアリス姫たちはなんのことかわかっておられないようです。よかったよかった。


 …そして私はちーちゃんと遥ちゃんも嬉しそうに抱き付いてきてくれることで気付きました。チャラ男君が『このハーレム女!!』と送還前に私に向かって悔しそうに叫びましたが、元の世界でも『ある意味ハーレム』だったのだね…。

 しかも皆さん、見た目も性格も最高クラスの美女ばかりです。


 素敵な友人たちが内面も含めて美女ばかりというのは『ものすごく幸せなこと』ではあるのですが、それはそれとして一刻も早く『年齢=彼氏いない歴』を脱出しようという決意を新たにしたのでありました。



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