第85話
「……ねえ双弥。ちょっとずるくないかな」
あれから双弥とアセット、そしてアルピナとエクイティは進み始め、先へ行ってしまったリリパールたちと合流。気まずい空気の中、アセットと手をつないで歩いている双弥にジャーヴィスが苦言を呈した。
指を絡める恋人握りである。ジャーヴィスの口元が情けないほど下がっている。
「……おやおや、俺たちを置いて逃げた男が何か言っているよアセット」
「関係ないよソーヤ。……にしてもさすがソーヤは勇者だよね。一緒にいて頼もしいよ」
そう言いアセットは手を繋いだまま腕を絡めた。ジャーヴィスはもとより、エイカやリリパールもぐぬぬ顔をしている。
「そ、それにしてもアセットさん。双弥様にくっつきすぎではありませんか?」
「……へえ、自分から切り捨てて離れていったお姫様が残された人間の絆が深まったことに文句を言ってらっしゃるぞ」
「さすがリリパール様。偉い方は平民を見捨ててでも生きねば国を守れませんことよね。おほほ」
リリパールは言い返せずにいる。これはアセットもかなり気分がいい。
「だ、だけどお兄さんが……」
「おお、一番最初に逃げた子が俺のせいにしようとしているぞ」
「かわいそうなソーヤ。大丈夫、ワタシは見捨てたりしないよ」
アセットは双弥の肩に頭をこすりつけた。ラブラブだ。
周りが一言告げる度に2人の絆は強くなり、今はもはや少しどころではないほど仲良しになっていた。
なにせ1級不貞腐れ師である双弥を追い詰めてしまったのだ。そう簡単には許してもらえない。実に面倒な男である。
あれから双弥は壁をくり抜き湿っていない砂を取り出すとアセットの濡れた服にまぶし、強引に乾燥させていた。
だが下着はそうもいかず、現在アセットははいていない。
同じくズボンを濡らしていた双弥も同じ手法で乾燥させ、現在はいていない。
ノンアンダーウェアな2人は仲間だ。特にアセットはスカートのためこけたらシャレにならない。そこで双弥の手をしっかりと掴むことにした。
「い、いいよ! 私ジャーヴィスさんに守ってもらうから!」
そう言ってエイカはジャーヴィスの横に並んだ。
「私もそうさせていただきます」
「あ、いや、その……」
ジャーヴィスサンドが完成した。ハーレムの初歩形態である。当のジャーヴィスは困惑しているが、知ったことではない。
「おう良かったなジャーヴィス。これで俺と別れても寂しくないな」
「やったじゃない。まあワタシはソーヤがいればいいんだけど」
エイカとリリパールは慌ててジャーヴィスから離れ、2人の後ろをとぼとぼと歩いた。ジャーヴィスが哀れだ。
「アセット、疲れてないか? そろそろ休憩するか?」
「まだ大丈夫。ソーヤだってのんびりしてられないでしょ?」
お互い気を使い始めてしまった。末期に近い症状だ。
そんないちゃいちゃカップルの前に立ちはだかったのは涙目のエイカだった。
こうしてエイカが泣き出し、双弥が正気を取り戻しなだめる、というのがある意味お約束であった。様式美というより様式醜とでも言おうか……。
……のだが、今回はちょっと様子が違う。
「お兄さんがいけないんだよ!」
「ああやっぱり俺のせいだって。酷いよなぁがんばってたのに」
「裏切った仲間っていうのはあることないこと言って自分を擁護するらしいよソーヤ」
不貞腐連合は一斉にエイカを非難しているが、エイカには次の言葉がありキッと双弥のことを見据えていた。
「……お兄さんが言ったんだよ! 自分で対処できない危険を感じたら何も考えず逃げろって!」
へらへらしていた双弥の顔が一気に青くなる。確かに双弥は常日頃エイカやリリパールに言っていたのだ。
双弥たちのパーティーでは双弥と刃喰、たまにアルピナが戦闘要員であり、他の3人は非戦闘員だ。守りきれない場面を想定し、どんなに双弥が危険な目にあっていたとしても見捨てるよう心がけさせていた。
ドラゴンの群れに襲われ、窮地でエイカが飛び出してきたときの絶望感を二度と味わいたくないから。
今回のケースでもエイカは自分でなんともできないと判断し、双弥の邪魔にならぬよう距離を置いたと言われたらそれまでなのだ。
「い、いや、それは、その……時と場合によるだろ……」
「私にはあの状況をどうにかできたと思わないよ! それともお兄さんは私に何かできたって言うの!?」
そこに完膚なんてなかった。圧倒的な正しさに打ちのめされた双弥は当然エイカとリリパールに土下座する羽目になった。
「だがジャーヴィス、お前は許さん」
「ホワイ!?」
当たり前の話だがジャーヴィスは戦闘要員であり、そのうえアセットのパートナーである。大切な仲間を置いて逃げるなんて言語道断だ。
「僕はゴーストやゾンビとかダメなんだ。誰にだって苦手なものくらいあるだろ?」
「俺だってダメなんだよ!」
苦手だから逃げるなんて選択をしてはいけない。それでも尚立ち向かう姿勢が勇者には必要なのだ。それを放棄したジャーヴィスの罪は重い。
そもそもこの世界での霊やゾンビ的なものの知識を双弥たちは得ていないが、エイカやリリパールの反応を見る限り一般的ではないのだろう。
いや霊とかが一般的である世界なんて恐ろしすぎて考えにくいのだが。
そして今ジャーヴィスは罰として全員の荷物を持たされデンドロビウムのような姿で歩かされた。
「……裏切り者」
かくして不貞腐連合は解散となり、残党であるアセットは双弥を恨めしそうに見ている。
それでも双弥はかつての仲間であり、現在もノンアンダーウェア族としての繋がりがあるため見捨てたりはしない。だからこうして今も転ばぬようしっかりと手を繋いでいる。
「そう言わないでくれよ」
和解は望むべきことであり、いつまでも不貞腐れているわけにはいかぬのだ。アセットにもそれを理解して欲しいのだが、彼女の不貞腐れっぷりは筋金入りであり双弥を上回る特級なのである。
「それでお兄さんはいつまで手を繋いでるの?」
双弥が謝って終了のはずだったのだが、相変わらずの行為にエイカが疑問を持つ。
「これはその、あれだ」
「……そう、あれ」
説明ができぬ双弥とアセットは歯切れの悪い答えを返す。ズボンの中でちんぷるしている双弥はまだしもちょっとめくれただけで大惨事になるアセットのことを知られるわけにはいかない。
いっそのこと話してしまってもよいのではないか。エイカとリリパールがそんなことでバカにしたり笑ったりするとは思えないし、女の子同士であるため協力をしてくれる可能性のほうが高い。
しかしそれを知られるということでアセットのプライドが傷付くかもしれない。そのせいでまた距離を置かれてしまうのはよろしくない。
プライドなんて壱銭の価値もないと思うのはそう思っている個人の問題であり、そこに価値があると信じている人に押し付けるのは傲慢だ。アセットは恐らく価値があると思っている側だと推測する。
などと考えていたところで双弥は根本的な解決策があったことを見落としていた。もちろんアセットもだ。
「今更なんだけどさ、アセットの荷物ってジャーヴィスが持ってるんじゃないか?」
「あっ」
そしてノンアンダーウェアズも解散することになり、暫く後で妖刀を納めたとき、擦れまくっていた股間の痛みに独り泣く双弥がいた。
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