52_MeteoriteBox_13


 私の表情を見て申し訳なさそうにするイオに唇を噛んで項垂れる。謝るのはこっちだ、今の私はただ彼女に負荷をかけているだけ。

 私たちは公園を出て、セントラルを少し歩いて、私とジェミーが一休みしていて公園を見つけた階段の上のベンチに戻ってきていた。初めは言の葉を伝って彼女の奥へ向かうつもりだった。幽閉されているなら囲いを見定めるつもりだった。――でもダメだった。“大きな空っぽのコップ”とジェミーは言ったっけ。データの見えない私にもその表現が理解できた。イオはただ問いに応答する能力が欠けているわけではないのだ、何というか、まるで剥奪されたように……。


「……空に、何かあるの?」


 さっきやっと丁寧語を解いてくれたイオがそれでも遠慮がちに私に聞く。無意識に空を見上げていた。きっと睨むような、あまり良い視線ではなかったはずだ。イオにはまだ“そのこと”は伝えていない。間もなくここが人工落下物で消滅なんて聞いたら、きっと困ってしまう。もしかしたら隕石は鍵言葉なのかもしれないけれど、でも……。体感時間はそこまで大きくズレはしない。もうあまり時間がないはず。ジェミーは道草をもぐもぐしているのだろうか。


「……あ」


 セントラルの方角を見たら緑の粒子がこちらへ向かって飛んでくるのが見えた。わざと粒子に動きを付けて薄青い空での視認性を上げてくれている。


「おかえり」


{ただいまジェミ}


「……初めまして?」


{ジェミーと申しますジェミ。――その様子だと、なるほどジェミね}


 ジェミーと最低限の情報を交換する。ジェミーは耳付きテレビになってイオと話すことはせず、私の腕に戻ってから私にだけ数字を見せる。猶予無く視界が暗くなることがお互いに分かった。なにやら落胆を隠せない私の表情を窺おうとしたイオは、視界に落ちた規模の分からない影を認識した。やはり影は今、瞬時に現れた……?


「……っ」


 またイオから大粒の涙が溢れる。空っぽのコップがちょっとやそっと大きくても抱えきれない、とうに飽和点を超えた想いが乱反射をするような滴……。ジェミーがなぜか今テレビになって、……ジェミーもイオを見ている。


「……私は…………ごめん……なさい……」


 私はまたジェミーとイオに覆いかぶさろうとした。泣きながら、でも力強く、せめてもと言うかのように。けれどすぐにイオが私に取って代わった。


ハルカちゃんありがとうごめんなさい。


 音を介さずに伝わるイオの言葉。違う、謝るのは私の方だって……

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