お題【ピタゴラスの定理】【勧善懲悪】【砂糖菓子】【必要な犠牲】

 かんぜんちょうあく ―犠牲者の呼び名と、辿り着く先を教えて― : 現アク?

「なぁ、俺たち……親友だろ」


 かつて友が言っていた。

悩む私に、心配そうな表情で言ったものだ。


「ほら、お前の事情と俺の事情、足したら二人の事情だ」


 流行った歌のパクリだろう。

そんな指摘に軽く舌を出した。

……女なら可愛げもある仕草だろうに。

性別が逆だったならなぁ。


「――ともかく、さ」


 ……嗚呼、ノイズにまみれて思い出せない。


「――が――から――――な」


 大切な言葉だった気がする。

多分、恐らく、きっと。


 大切な言葉だった気がする。

少なくとも、私の運命が洋菓子のように甘ければ……その言葉は宝石のように輝いていただろう。


 嗚呼、大切な言葉だった気がする。

定められた人生レールが、糖蜜のように甘かったならば……人生の指針にすらなってくれたはずなのに。

 

 大切な、言葉……だったはずだ。

運命なんかの犠牲にしていい言葉じゃ、なかったはずだ。

定められたレールを預言書の通りに進んだユダが裏切り者の誹りを受けるように、必要な犠牲なんかじゃ、なかったはずなのに。


 ノイズ、ノイズ。

警報、サイレン、首を絞める手、剥ぎ取られる服、血まみれの君、嗚呼――。

 

 

















「やぁ、君の首を頂きに来たよ、賞金首パブリック・エネミーの――」


 言い終える前に、闖入者の眉間に風穴が開いた。

ぐらり、崩れた姿勢のまま窓の外へ。

数刻遅れて、水音。


 愛しい愛しい逢瀬ついおくの邪魔をしたのだ。

馬に蹴られても文句は言うまい。


 私は煙を上げる銃口に軽く息を吹きかけた。

大々的な、些か過激な復讐劇は、いつしか大量殺戮としてうたわれたらしい。

私の首にかかった賞金は、膨らむ一方だとか。

もちろん、そんなものに興味などない。

私がただ欲しいのは――。


「君の言葉か、それとも君か。銀の弾丸なんてのも悪くない」


 ――でも、君の所に行けないのは困るな。

そう呟いて私は窓の外の山を望む。

善なる存在によって、悪を懲らしめるなんて物語、完遂されないのが現実で。

つまり、奸善跳悪? なーんて。


 未だ見ぬシルバーバレットを思い描いて……その姿に、君を重ねる。

人を撃つ時には見つめたりなんかしないスコープを覗いたりして、その照準で空を覗く。

 

 塔の上に住む、犯罪者喰らい。

コードネームは「ラプンツェル」。

これは、ケガされた隔離姫、なんてお似合いの名前で生きる、私の物語。



 















「ばーん」


 引き金を引く真似をして、見守るだけの観測者かみさまを、心の中で撃ち抜いた。

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