第246話 4年振りの再会
—1―
3月23日(土)午後6時19分
オレと
「針生東高等学校2015年度卒業生の同窓会に参加する方ですか?」
「あっ、はい」
エレベーターを降りてすぐのところに同級生の
どうやら同窓会の受付係を担当しているようだ。
どちらも高校生の時に1度も話したことが無いので、向こうはオレたちのことなど知らないだろう。
「名前を教えてもらってもいいですか?」
「
「参加費5300円です。はいっ、ありがとうございます! みんな中にいるから始まるまで入って待っててね」
同じく受付を終わらせた
会場に入ってまず目に飛び込んできたのは、高級そうなシャンデリアだ。部屋の中央に大きなシャンデリアが輝いている。
それから均等に配置された丸いテーブルが6つ。
立食パーティーなので、テーブルの上にグラスやビール瓶が置かれている。
部屋の中央、シャンデリアの下には長方形のテーブルが配置されていた。
テーブルの上には、様々な料理が隙間なく並べられている。遠目で見てもどれも美味しそうだ。
高い参加費を払っただけのことはある。
そして、入り口から最も離れた場所にはステージがあった。
同窓会の幹事で司会進行役でもある
「おっ、伊織じゃん! ウェーイ!」
「
拳を突き出したきた170センチくらいの男の名前は、
野球部の正捕手で、オレと3年間バッテリーを組んでいた頼れる男だ。
耳にピアスを開けていて一見チャラそうに見えるが、全然そんなことはない。
高校を卒業してすぐに就職して真面目に働いている。草野球チームにも入っていて今でも野球を続けているみたいだ。
「
そう言って祝太が会場の中を見回した。
オレも改めて参加メンバーを確認することにした。
会場の中央で女子に囲まれているのは、野球部のキャプテンだった
その輪の中に同じく野球部の
野球部以外にも知っている顔はいくつかあったが、一気に話し掛けに行っても疲れるだけだ。
同窓会は2時間行われる予定だからまだたっぷり時間はある。
「おい、伊織。そんなところに突っ立ってないでこっちに来い!」
声がした方に体を向けると、学年主任の
「ちょっと悪い。挨拶してくるわ」
「おっけ。俺らそこら辺にいるから」
「小原先生、お久し振りです」
オレは、小原先生の隣に腰掛けた。
まだ会場に入って10分そこらだが、立ちっ放しは意外と疲れる。
「伊織は就職決まったのか?」
白髪交じりの小原先生が低い声で訊いてきた。
4年間見なかっただけでいくらか老けた気がする。それだけ教師という職業は大変なのだろう。
「はい、一応決まりました。今月末から北海道です」
「あはっ、マジか。寮? 一人暮らしか?」
「一人暮らしですね」
「それなら家事とか頑張らないとだべ。そうか、北海道かー」
小原先生が顎に手を当て、地面を見たまま固まった。
オレは小学生の頃から小原先生を知っている。というのも、小原先生の息子と同級生で、小学生と中学生の時に仲が良かったのだ。
中学校では、野球部でも一緒だった。
放課後や土日など家に遊びに行った際、小原先生と顔を合わせる機会が何度かあった。親同士も仲が良い。
高校に進学して小原先生がいたのでビックリしたことを今でも覚えている。
「小原せんせー、写真撮りません?」
オレの左側から聞き覚えのある優しい声が聞こえてきた。
「おっ、
小原先生が顔を上げて2人に笑顔を向ける。
理絵は、さらさらの黒髪にぱっちりとした目。黒い革ジャンに丈の長いスカートを履いていた。
高校時代は、無邪気で可愛らしい印象だったのだが、今は少し大人びた雰囲気に変わっていた。
黒い革ジャンがそう見せているのだろうか。今までほとんど制服姿しか見ていなかったからそう感じるのか。
どちらにせよ、可愛いことに違いない。本当に来てよかった。
「久し振り伊織。ほらっ、せっかくなんだから伊織も入ってよ」
理絵に袖をくいっと引っ張られ、オレも一緒にレンズの中に入った。
距離が近いこともあって甘いシャンプーの香りが鼻をくすぐる。いつも以上に理絵のことを意識してしまい、顔が熱い。
「伊織、もっと寄ってってば。撮るよ。はいチーズ!」
体を寄せてきた理絵のことを見ていると、シャッター音が鳴った。
それを合図に各々が楽な姿勢に戻る。
「写真送ったよ」
「おう、ありがと」
スマホに視線を落として写真を確認すると、
「理絵は今何してるんだ?」
「地元のドラッグストアで事務してます」
「そうかそうか。美樹は?」
「私は専業主婦です。半年になる赤ちゃんもいますよ」
「おー、本当か! それはそれはおめでとう」
小原先生が理絵と美樹の近況を訊いていた。
4年も経てば生活も変化しているか。
「理絵は彼氏とかいないのか?」
「いないですよ」
理絵の言葉を聞いた小原先生がオレの顔をまじまじと見てきた。
「ちょっと、小原先生なんでこっち見るんですか」
「伊織なんかどうだ?」
「んー、年上がいいんですよねー。小原先生、良い人紹介してくださいよ」
理絵が笑いながら小原先生の質問に答えた。
話に巻き込まれたオレは、告白していないのに振られたような複雑な気分だ。
そうか、理絵は年上がタイプなのか。
ちょっと、楽しみにしてきたということもあって本当にへこむ。同窓会が始まる前から心のダメージが大きすぎる。
「えー、いったん静かにして下さーい!」
幹事兼司会進行の
「時間になりましたので、針生東高等学校の同窓会を始めたいと思います。まず初めに、急な開催にも拘わらず集まって下さったみなさん、本当にありがとうございました。おかげさまで生徒が59人、先生方が6人の計65人という予想を超える参加人数となりました。同窓会は2時間を予定してるので、当時の思い出話に花を咲かせたり、近況を報告し合ったり、楽しんでもらえたら嬉しいです。自分の挨拶で時間を取ってももったいないので、早速乾杯をします! みんな、グラスの準備はいいですか?」
武者がホテルスタッフからグラスを受け取り、全員がグラスを持っているか確認した。
「はい、それじゃあ乾杯!」
「「乾杯!!」」
乾杯の掛け声と共に背後の扉が勢いよく開かれた。
一体何事かと、グラスを片手にした同窓生の視線が扉に集まる。
すると、次の瞬間黒いスーツ姿の男女が次々と会場の中に流れ込んできた。
その数、約50人。全員が銃などの武器を装備している。
先頭を歩いていたスーツ姿の男女がステージに上がると、強面の体の大きい男が武者からマイクを奪った。
「盛り上がっているところ邪魔して悪い。俺は政府選別ゲーム課の
その動作を見ていたスーツ姿の男女約50人が、一斉に銃口をオレたちに向けてきた。
一体、今から何が始まるというのだ。
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