9月5日(水)選別ゲーム4・脱落者を決めろ

第240話 脱落者投票

—1—


9月5日(水)午後7時28分


 放送にあった予定の時刻が迫る。

 1年1組の教室には、第3の選別ゲーム『ドロケイ』で生き残った阿部小町、岩渕清、万丈目凛花、矢吹由貴、それから俺、今野健三の5人全員が揃っていた。


 それぞれ思い思いの席に着き、次の選別ゲームまでの残り120秒を待っている。


 俺は、つい数日前までこの教室で授業を行っていた。俺の教え子は小学生の大吾1人だけだ。

 個別指導のような形だったため、学校で過ごす日々は大吾との思い出を作る日々でもあった。


 この教室では、前半分を使って中学生の授業も行われていた。

 生徒は奈緒と凛花の2人。教師は奈美恵だ。

 今ではその顔馴染みのメンバーも俺と凛花しか生き残っていない。


 当時の教室には生徒3人分の机しかなかったはずだが、現在この1年1組の教室には24もの机と椅子がある。


 24という数字で思い浮かぶものと言えば、月柳村の村民の数だ。

 これは一体何を意味しているのだろうか?

 それとも特に意味は無いのだろうか。


「お疲れ様です。時間になりましたので、次の選別ゲームについての説明を行います」


 政府の織田と清水、それから2人を護衛するスーツ姿の政府の人間が15人近く教室に入ってきた。

 黒板の上にある時計に視線を向けると、いつの間にか7時30分を指していた。


「と、その前にですね、ドロケイのルールにもありました『罰』について説明したいと思います」


 織田が教壇に立ち、俺たちの顔を1人1人眺めながら説明を始めた。


「まず確認ですが、罰はドロケイで最後まで捕らえられていた人数だけ、生き残った人に与えるというものでした。捕まっていたのが1人なら生き残った皆さんの中から1人に罰を受けて頂きます」


 そこまで言い終えると、織田が再び俺たちの顔色を窺った。

 ここまで理解できているのかを確認したのだろう。織田は、大丈夫だと判断したのか軽く咳払いをしてから口を開いた。


「今回最後まで捕まっていた方は、阿部太郎さん1人だけでした」


「パパが?」


 小町が信じられないといった様子で両手で顔を覆った。

 教室に俺たち5人が集まった時点でなんとなく察していたようだが、どうやら父の死を受け入れられないみたいだ。


「このことから、皆さんの中のどなたか1人に罰を受けて頂くということになります。そして、誰に罰を受けて頂くのかという問題ですが、それは次の選別ゲームで皆さん自身に決めて貰おうかと思います。清水」


「はい」


 清水が例の如くゲームの内容が書かれた紙を配りだした。


【選別ゲーム4:脱落者を決めろ。9月5日(水)午後9時までに生存者の名前を1人書いて投票せよ。票数が1番多かった者を脱落とする。首位が複数名出た場合は、どちらも脱落となる。また、無記入で投票した者も脱落とする】


 ずっと疑問だった罰について。

 それは、恐らくここにいる誰もが1度は予想していたであろう『罰=死』が答えだったようだ。

 できれば当たってほしくなかった。


 しかし、無力な俺たちは政府の決定に逆らうことができない。

 逆らえばそれこそ死が待っているだけだ。


「おいおい、マジかよ」


 ゲームの内容を読み終えた清が机に紙を置き、きょろきょろと教室内を見回した。

 自分に投票されないかと不安なのだろう。


 清はドロケイの時に自分勝手な行動に出て、周りに迷惑をかけ過ぎた。この5人の中で1番票数を集めやすいのは清だろう。


「全員読み終わったみたいですね。先程お渡しした紙の裏面にご自身の名前を書く欄と誰に脱落して欲しいか記入する欄がございますので、どちらもお忘れのないようお願いします。それと、食料の方はこちらで用意させて頂きました。ご自由にどうぞ。最後になりますが、何かありましたら私か清水が廊下で待機してますのでお気軽にお声掛けください。それでは失礼します」


 織田が一礼して清水と共に教室から出て行った。


 廊下側の1番前の席には、人数分の弁当とお茶が置いてある。

 自分が脱落するかもしれないというこんな大事な時に呑気に弁当なんて食べてられるか?


 そう思っていたら教室の中央に座っていた由貴が立ち上がり、真っ先に弁当が置かれている席へと向かった。

 弁当とお茶を1つずつ手に取って元の席に戻った。


「いただきます」


 由貴が手を合わせてそう言うと、何事も無かったかのように食事を始めた。


「おいっ、弁当なんて食ってる場合かよ?」


「そうは言っても、お腹が空いてたら何も考えられないわよ。清さん、あなたもなんだかイライラしているみたいだし、弁当を食べたらいいんじゃない? 結構美味しいわよ」


 由貴のそんな提案に清が舌打ちをして立ち上がった。

 窓側まで行き、窓を少しだけ開けるとポケットからタバコを取り出して火をつけた。


 ぷはーっと煙を外に吐き出す清。

 とりあえず気分転換をして気を紛らわそうとしているのだろう。


「むぅ、ちょっと清さん、タバコ臭いんだけど」


 窓際の1番前の席に座っていた凛花が鼻をつまみながら清を睨んだ。


「うるせぇな、タバコぐらい好きに吸わせろよ」

「むっかー! そんなこと言うならこの紙に清さんの名前を書いてもいいんだよ!」


 凛花が清に向かって『脱落して欲しい人』と書かれた紙をちらつかせた。


「わ、分かったよ。ほら外に捨てたから俺にその紙を向けるな」


 清が慌ててタバコを外に投げ捨てた。雨が降っているから火もすぐに消えるだろう。


「きゃは! 書かれるのが嫌なら初めから人に嫌がられる行動をしなければいいのに。うん、とりあえずは書かないでおいてあげるよっ! 凛花ちゃんは優しくて海よりも心が広いからね♪」


 凛花が立ち上がり、くるっと1回転しながらそう言うと、弁当とお茶を手に取った。

 ここにいる全員が凛花の言動や行動の異変に気が付いているようだが、誰も直接訊こうとはしなかった。


 明らかにいつもの凛花ではない。口調も人との接し方も全然違う。

 一体、凛花に何があったのだろうか?


「んーっ、由貴さんの言ってた通りお弁当美味しいね! ほらっ、健三さんもやることがないなら食べたら? 凛花ちゃんからの提案です」


「いや、俺はまだいいや。そういう気になれなくて」


 教室に入ってから初めて話を振られたが、ここはやんわりと断った。


「ふーん、まあ別にどっちでもいいんだけど」


 どうしてもご飯が喉を通る気がしない。

 とはいえ、ゲーム終了までの約1時間、ただジッとしているだけでも喉は乾くので、机の上からお茶だけを手に取った。


「凛花!」


「どうしたの小町ちゃん? そんなに大きな声出しちゃって。あれ? もしかしてあたしに告白かな? だったらごめんね。あたし同性の人と恋愛するのは、ちょっとごめんなさいって感じなんだよねー。でも別にそういう人たちのことを否定する訳じゃないからね」


「ふざけないで!!」


 投票用紙を持った小町が凛花の元に迫りながら声を張り上げた。

 これにはさすがの凛花も首を傾げた。


「私は凛花に投票するから! 私はあんたを絶対に許さない」


 そう言って凛花の顔の前に投票用紙をつきつけた小町。

 そこには、『脱落して欲しい人・万丈目凛花』と書かれていた。


 脱落者が決まるまで残り50分。

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