将軍ゲーム2日目
第99話 何かの暗示
◆ ◆ ◆
早朝。セットしていたアラームが鳴り、スマホをスライドさせて止める。
時刻は6時ちょうど。将軍ゲーム終了まで残り53時間だ。
あの後、ありすさんと別れた俺は金城1階に戻り目を閉じていた。
昨日起こった出来事が頭の中を何度も回り、結局2時間弱ぐらいしか眠ることができなかった(ゾーンに入ったことによる脳の活性化が原因でもある)。
英司と小坂の見立て通り、夜に銀軍が攻めて来ることは無かった。
殺し合いが行われているとは思えない、静かな夜だった。
勝負は今日だ。
あと1時間後に玲央の独立軍が銀城に向けて出発する。敵から奪った11着の銀色のビブスを着てスパイとして銀城に潜入する。
これが失敗したら作戦の全てが無駄になると言っていいほど重要な役目だ。
「おはよーさん」
廊下で玲央が手をひらひらと振っている。
俺はまだ寝ているみんなを起こさないように玲央がいる廊下に出た。
「どうしたんだよ」
玲央から会いに来るなんて想像したこともなかった。
「いやなー、特に用があるって訳でもないんやけど、もうすぐ俺の独立軍が出発やん」
「ああ、そうだな」
なんだかいつもの玲央と様子が違う。
「もしかしたらもうお前と会うこともないかもしれんから伝えとこう思ってな」
「なんだよ。もったいぶってないで言えよ」
俺が強く出たのにイラっとしたのか玲央が睨んできた。
が、すぐに元に戻る。
「敵の将軍は貴族の林や。敵の小隊と戦った時に拷問して吐かせた」
「拷問……」
「命を懸けたやり取りをしてるんや。こんなこと当たり前やで。お前やって何人も殺したんやろ。噂で聞いたで、とんでもない力を持ってるって」
戦争をしていた頃には拷問など珍しくは無かった。敵の情報を聞き出す為に随分と残酷なものもあるとどこかの文献で読んだことがある。
「とんでもない力って……武術を習っただけだよ。そういえば俺も敵と戦っている時に林さんって言っているのを聞いたな」
「兄貴にそれを話したら、そのことを広めるなって言われた。これ以上味方の士気を下げるような情報は言うべきじゃないってな」
確かに圧倒的に不利なこの状況で、敵の将軍が貴族序列3位だと知れたら味方の戦意はガタ落ちだろう。
「じゃあ、なんで俺にそのことを話したんだよ」
俺にはそれが1番分からない。
「はやと、お前は自分がこれから死ぬんだと感じたことはあるか?」
「そんなの無いよ。ヤバいと思ったことはあるけど」
まさに昨日そうだった。
ゾーンに入れなかったら確実に俺の独立軍は全員死んでいた。
「夢を見たんや」
「夢?」
「誰か分からない奴にナイフで刺されて死ぬ夢を見た」
精神的に不安定な時にそういった夢を見ることは多い。
俺も地下帝国で1度、下級エリアの仲間に殺されかける夢を見た。
「夢を見たからなんだっていうんだよ」
「俺はこういうのを信じないんやけど、これは何かの暗示やと思ってる。俺自身か俺の身近にいる誰かが近い内に死ぬっていう暗示やと。俺の独立軍は小坂のじいさんと俺がいればまず死ぬことは無い。となると不安なのは兄貴や。兄貴は将軍やから当然狙われる。お前は
「まあ、話は分かった」
玲央の頼みなんてこれっぽっちも聞きたくはない。下級エリアで散々な目に遭わされたからな。
しかし、将軍の英司が死んでしまったら金軍の全員が脱落してしまう。それは避けなければならない。
「俺で力になれるか分からないけどもしもの時は助けに行くよ。そうじゃなきゃみんな死ぬからな」
「頼むわ。ほんじゃま、行くわ」
玲央が2階に上がって行った。
2階から玲央の独立軍の小坂と将軍の英司の声が聞こえてきた。
何やら揉めているみたいだ。玲央と話している最中も小坂の怒鳴り声が城内に響いていて気になってはいたのだが。
「はやと、どうした?」
祥平が固まった体をほぐすかのように腕を伸ばしながら廊下に出てきた。
「起こしちゃったか。玲央と少し話してたんだ」
「いいや、トイレで起きただけだ。玲央と何を話したんだ?」
「何かあったら将軍を守れってさ」
「まぁ、当然のことだな。そういえば尾口さんが面白いものを作ってたぞ。後で聞いてみな」
祥平はそのままトイレに向かった。
尾口が何をしているのかは分からなかったが、ずっとガラクタをいじっていたのは知っていた。
夜も結構遅くまで作業をしていたみたいだけど面白いものって何だ?
後で聞くとしよう。
午前7時。
玲央がリーダーの独立軍20人は正門の前に集まっていた。玲央を含む11人が銀色のビブスを着ている。
俺の独立軍と副将のありすさん、揚羽も正門の前に集まった。
2階の窓から英司がこちらを見下ろしているのが見える。護衛役の不破も隣にいた。
全員が玲央の独立軍に視線を向けていた。
いよいよ出発の時間だ。
石垣の上にいる見張り役から何も連絡が無いということは、まだ敵は金城周辺にいないということだろう。
出るなら今がチャンスだ。
「はやと、死ぬのはお前かもな」
玲央が憎たらしい笑みを浮かべる。
「お前こそ正夢にならなければいいな」
俺も負けじと言い返す。
「ふっ、うっせー」
鼻で笑うと玲央は金城に背を向けた。
「門、開きまーす!」
見張り役の男が叫ぶと、城の守備に任命された数人が内側に門を開いた。
玲央の独立軍20人は門を潜り、銀城を目指して山の中に消えて行った。
誰も想像していない、想像を超えた戦いが始まる。
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