第77話 天国か地獄ゲーム

◆  ◆  ◆


 白い円卓上に複数のパソコンを開き、その中の一つを食い入るように見ていた一ノ瀬みみはスマホを耳に当て立ち上がった。


「もしもーし、問題は無いようね」


『はい、無事案内の方は終了しました』


「うん、見てたから知ってるよ。ゲーム開始のメールはもう送ったから影浦かげうら君は絢音あやねちゃんを連れて帰っていいわよ」


『えっ、はい。了解しました。それでは失礼します』


 通話を終えたみみは円卓にスマホを置き再びパソコンに向かった。

 そして、自分の豊満な谷間の中に手を入れチョコレートを取り出した。


「んー美味しいー」


 口に付いたチョコレートを長い舌でぺろりと舐める。


「あんたも食べる?」


「うーむ。ありがたいが結構じゃ」


 草加がみみの誘いを断った。


「こんなに美味しいのに……」


 みみがもう一つチョコレートを口に運んだ。


「それじゃあゲームも始まったことだしこっちも始めようかな。送信っと」


 みみがパソコンのエンターキーを押した。

 すると、新国家内にいる将軍ゲームの対象者以外の人間に一通のメールが届いた。

 そのメールが貴族である草加にも届いた。


【天国か地獄ゲーム。天国か地獄ゲームは将軍ゲームの対象者ではない人を対象にしたゲームです。ゲームのルールはスマホ内にアプリを自動的にインストールしてあるので各自確認すること】


 メールを読み終えた草加がみみを見た。


「将軍ゲームの対象者ではない儂も参加ということかの」


「もちろん私もだよ。これで今新国家にいる国民全員が何かを賭けてゲームをしている。こんなの新国家史上初でしょ」


「なんてことを……」


 草加がスマホ内にインストールされた天国か地獄ゲームのアプリを開いた。


【天国か地獄ゲーム】

ルール

1.ゲームは強制参加で途中棄権は認められません。

2.ゲーム対象者は金軍と銀軍のどちらが勝つか予想する。投票はアプリ内にて可能。

3.予想が外れた者は階級が1つ下に落ちる。それと合わせてポイントも没収とする。(例:中級エリアの者が予想を外した場合は下級エリアになる。下級エリアの者が予想を外した場合は脱落)

没収後のポイントは以下の通りだ。中級エリア、500ポイント。下級エリア、20ポイント。

予想が的中した者には没収で集まったポイントの合計を山分けとする。

4.投票は将軍ゲームの1日目が終了するまでとする。

5.2日目以降に2500ポイントを支払うことで投票の変更が可能。変更は1度までとする。※ただし変更は2日目が終了するまでとする。


「救済措置はないんじゃろうか? これでは大勢の人々が脱落するんじゃないのかのー」


「ルールを作ったのは私じゃないからね」


 みみが玉座に座っている王を見る。


「救済措置など必要ない。賭けに負けたら何かを失い、勝ったら何かを得る。こんな分かりやすいゲームはないじゃないか。それにこの国でそんな甘いことはいらないさ」


「だってさ」


 草加が口を閉じ部屋に設置されたモニターに目をやった。

 それを見た王が立ち上がり部屋を後にした。


「なぜあの男が王に……」


「それはみんな口に出さないだけでそう思ってるさ。でも逆らえないでしょ」


「うむ。しかしだな、このゲームはちと、度が過ぎていると思うんじゃが」


「まぁ、もう少しの辛抱だよ。後2日もすればあのお方が戻られるし」


「うーむ」


 草加は唸り、また口を閉じた。


「さて、私はまたゲームの管理をしますかねー」


 みみはパソコンに映っている映像を1つずつ見ていった。



◆  ◆  ◆


 下級エリアのとある場所にあるギルドのアジト。その外にギルドのメンバーが集まっていた。

 数か月前までのギルドには北区と西区を拠点にしていたごく一部の人間しか所属していなかった。

 だが、東南連合の残党狩りの一件後は勢力を拡大し、とうとう下級エリアを統一した。

 そんな大勢の人々が天国か地獄ゲームの今後について話し合う為、集まったのだ。


「俺たちどうすればいいんだよ」


「ボスも将軍ゲームに選ばれちまったんだろ」


「それだけじゃない。ジルさんにロッドさん、洋一さんも祥平さんも、それから剛さんと里菜さんもだ。ギルドの中心メンバーがごっそり選ばれるなんて最悪だよ」


「全員で同じ方に賭けるしかないんじゃないか?」


「馬鹿、少しは頭を使え! それじゃ外れたら全員脱落だろ」


 ギルドのメンバーが思い思いに愚痴を漏らす。

 そんなメンバーたちを見下ろす2人の姿があった。2人はアジトの2階の窓から顔を出しどんどん増える不安の声に耳を傾けていた。不安の声は何千、何万にも膨れ上がっている。


「みなさん、落ち着いてください!!」


 男が大声で呼びかけるが不安の声は止まない。


「お願い! 話を聞いて下さい!」


 男の隣に立っていた女がメンバーに訴える。


「おっ、なんだ? 上だ。アジトの2階に人がいるぞ!」


「アトマと沙羅さらじゃねぇーか! 何やってんだ! 下りてこい!」


 アジトの2階にいたアトマと沙羅の存在に気付きメンバーの意識がゲームに対する不安からアトマたちに移った。


「みなさん僕たちの話を聞いて下さい! 我等がギルドのボスやその仲間が将軍ゲームで今戦っています」


「そして私たちゲーム外の人間もこれから天国か地獄ゲームという新しいゲームで戦わなくてはなりません」


「僕たち下級エリアの人間はポイントが無いので2日目以降に可能な投票の変更ができません」


「なので今日一日、いいえ後半日の間どちらに賭けるか悩んで悩んで自分が信じた方に賭けるしかありません!」


「僕はここにいる全員で金軍か銀軍のどちらかに賭けるということはしなくていいと思います。自分の考えで、自分の選択でどちらかに賭けましょう!」


(洋一さん、これでいいですよね? あなたが僕をギルドに誘ってくれたおかげで僕は変われた気がします)


 この2人のたった数分の訴えがギルドのメンバーの心を動かした。


「将軍ゲームは始まってるんだ。時間が勿体ない」


「スマホでも映像が見れるがこれじゃ小さすぎる。どこかで見ることはできないのか?」


「俺、ここに来る時カジノの近くのでかいモニターで見れるって聞いたぞ!」


「おし! 早く移動するぞ!」


 モニターに向かって移動する者、アジトの近くに残り今後について話し合う者、それぞれが考え、悩み、自分が納得できる答えを導き出そうと行動を始めた。

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