第43話 終わらせる方法

 グラウンドを通ると人目につくので、茂みをそのまま突っ切ってプールの脇に出た。

 プールの付近に祥平と海沙の姿はなかった。


「いないね」


「あぁ、電話かけるか」


 俺は、祥平に再び電話をかけた。


「祥平、着いたぞ」


『そうか。じゃあ、今そっちに出るよ』


「プールの脇にいるからな。早くしろよ」


『…………』


 電話が切られた。


「ったく、なんだよ本当に」


 スマホの画面を見て時間を確認していると突然、右頬に激痛が走った。衝撃で左に飛ばされ、尻もちをついた。


「いってててて」


「洋一君!」


 痛む右頬を抑えていると、胸ぐらを掴まれて無理矢理立たされた。痛みで目から涙が出て視界がぼやけているため、俺を掴んでいるのが誰かわからない。


「これは朱莉の分だ」


 次は、左頬に痛みが走った。胸ぐらを放されて地面に尻がぶつかる。俺を殴った人物の声を聞いてわかった。祥平だ。


「祥平君! 仲間になるんじゃなかったの!」


 志保が祥平に怒鳴った。


「仲間になるよ。その前に死んだ琴美と朱莉の分を1発ずつね。洋一にも2人の命を背負ってもらおうと思ってさ」


「いってーな、祥平。ったく、まだズキズキする」


「大丈夫?」


「うん。大丈夫だ」


 志保とありすに引っ張られて立ち上がった。


「これで洋一、お前に恨みはない。琴美と朱莉の命を一緒に背負えよ」


 祥平は、真っ直ぐな目をしていた。曇っていない綺麗な目だった。その綺麗な目に吸い込まれてしまいそうだった。

 その目を見た瞬間に思った。こいつは、何も企んでいない。仲間想いの純粋な奴だと。仲間のためなら手段を選ばないというところに難はあるが、味方としてなら心強いはずだ。


「あぁ、わかったよ」


「よろしく頼む」


 俺と祥平は、握手を交わした。

 芽以と話をしていた海沙とも握手をした。


「何も起こらないけどこれで本当にチームが変更されたのか?」


「握手をしたらメールが来ると思っていたんだけど違うみたいだな。他にも試してみる必要があるな」


「試してみる必要があるって当てがあるのか?」


「いや、ない」


 祥平が首を横に振った。


「洋一君、私仲間になってくれそうな人知ってるよ」


「志保、誰だそれ?」


「乃愛ちゃん。拳銃を探しているときに少し話したんだ。なんか葵ちゃんのことを良く思ってなかったようなこと言ってたからもしかしたら味方になってくれるかも」


「乃愛か。話してみるか」


「じゃあ、俺は武を説得する。あとはわかるよな? 洋一」


 そう言って祥平は、武に電話をかけ始めた。

 祥平が言いたいことは、わかっていた。これが成功すればゲームは終わる。

 

「俺も乃愛に電話をかけてみるよ」


「お願い」


 俺は、乃愛に電話をかけた。


『どうしたの? 洋一が電話かけてくるなんて初めてじゃん』


「メールみただろ?」


『うん。見たよ』


「俺のチームに入ってくれないか? 全員同じチームになってゲームを終わらせよう」


『全員同じチームって、葵とか祥平とか仲間になると思うの?』


「葵はまだわからないけど、祥平はもう仲間になったよ」


『へぇー、祥平がねー。私は、別に構わないよ。でも葵をなんとかしないとね。葵がこのチームのリーダーだから葵を説得しないと多分無理だよ』


 祥平が電話を切って俺の目の前に立った。


「こっちは終わったぞ」


 どうやら武の説得に成功したようだ。


「なぁ乃愛、Aチームの人を俺のチームに引き込むことはできるか?」


『だから葵を説得しないと無理だって!』


「いや、そうでもないぞ。乃愛と一緒に葵以外のAチームのみんなを俺のチームに取り込むことができれば全てが上手くいく」


『さっきから何言ってるの?』


「武が俺のチームに入ることになった」


『嘘、あの武が……』


「葵の唯一の武器である武が寝返ったんだ。乃愛とAチームのみんなが俺のチームに入れば葵は1人になる。そしたらあいつでも諦めるだろ」


『よく考えたね。ううん。考えついても武を納得させることができるのは無理だと思っていたから何て言っていいのか』


「祥平が武を納得してくれたんだ」


『これでやっとゲームが終わるんだね』


「あぁ。乃愛は今どこにいる?」


『学校だよ』


「そうか。じゃあ今から俺たちはそっちに向かうから昇降口で待っててもらっていいか?」


『うん。わかった』


「じゃあな」


 電話を切った。

 1番の問題点である葵のことも祥平が武を説得してくれたおかげで上手くいった。 

 乃愛も無事説得することができたし、後は学校に行くだけだ。


「乃愛も仲間になってくれるってさ。昇降口で待っててくれてるから迎えに行こう」

「武も昇降口で待っててもらうようにメールを送っておいた」


「ありがとう」


 みんなで昇降口に向かった。

 昇降口に着くとそこに乃愛とAチームのメンバー、武それに葵までいた。


「葵?」


「なによ洋一、そんな目で見て」


「いや、どうして?」


「どうしてって、武から話を聞いたからよ。ゲームが終わるなら私もその方がいいもの。さぁ、終わらせましょ」


 葵が手を差し出してきた。

 俺は、横目で祥平の顔を見た。祥平は、葵の顔を見た後に俺の顔を見て頷いた。

 俺は、葵の手を握った。志保たちは、乃愛やその他の人と握手をしていた。そうして全員と握手をした。

 全員と握手をし終えたときメールが届いた。


【特別ルール3によるメンバーの変更が終了した。これによりBチームに柿沼涼太、島貫きらら、江草乃愛、熊井陽菜、日景祥平が加わった】


 メールを見た誰しもが自分の目を疑った。

 しかし、葵だけは笑っていた。


「ちょっと待て! なんでこれだけしか変更されてないんだ! 全員と握手したはずだろ!」


 乾いた銃声が1発鳴り響いた。

 涼太が倒れた。


「武、てめぇー。最初からこうなることがわかってたのか? くそっ」


 涼太が銃を武に向けたが武は、涼太の拳銃を撃った。涼太の手から拳銃が離れる。拾いに行かせる隙も与えず武は、涼太の頭に留めの1発を撃った。


【柿沼涼太、脱落。Bチーム残り7人】


「きゃあーーーーー!!」


 そこからは、酷かった。全員が銃を構えて、銃口を向けられた相手を撃った。四方八方に弾が飛び交う。

 俺は、仲間になった人に声をかけてこの場から逃げるよう指示を出した。

 逃げている間、何回もメールが鳴っていたように感じた。

 俺たちは裏山まで走り、裏山の中間点のところで腰を下ろした。ここからなら裏山を登ってくる人がいたら見える。

 やはりメールは複数届いていた。


【熊井陽菜、脱落。Bチーム残り6人】


【望月優夏、脱落。Dチーム残り5人】


 Dチームだと?

 チームは、全部で3つだったはずだ。なぜ4つ目のチームが存在している?

 優夏は、Aチームだったはずだ。

 それにもう1つおかしいところがある。

 祥平が立ち上がって口を開いた。


「なんでここに7人いるんだよ」


 そう、メールではBチームは、残り6人と書いてある。しかし、今ここには7人いるのだ。

 そして、またメールが届いた。

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