第34話 帰ってきた人
外に出ると、神社の境内は夕暮れで赤く染まっていた。間もなくここに人が現れる。
有栖は舞火と天子とエイミーと並んで、神社にやってくる人を待っていた。
こまいぬ太も雰囲気を感じ取ったのか足元に立って一緒に待っていた。
やがて、神社に人が……来た!
みんなは緊張に息を呑む。石段を昇って鳥居をくぐって神社の境内に現れたその姿は、
「有栖ちゃ~~ん」
見覚えのある少女の姿で、
「芽亜かよ!」
舞火がすかさず突っ込みを入れていた。出遅れた天子が息を吐き、有栖は肩の力を抜いていた。
こまいぬ太は変わらず尻尾を振っていた。
「あ……えっとえっと……なんでやね~ん?」
遅ればせながらエイミーが慣れない調子で先輩に続いて突っ込みを入れようとして……地面に膝を付いてうなだれてしまった。
「すみません、先輩。ミーは駄目な芸人です……」
「元気出してよ、エイミー」
励ます有栖。そんな二人に天子が声を掛けてきた。
「エイミー、ちゃんとしなさいよ。ほら、有栖。来たわよ」
「え?」
エイミーが顔を上げ、有栖もすぐに気づいてびっくりして背筋を伸ばした。
芽亜と一緒に知っている男性が来ていた。有栖のよく知っている人だ。
優しいながらもしっかりした顔つきと存在感を持ったその男性こそ。
「ゴンゾーです!」
弾むように輝くような笑顔でエイミーが言った通り、有栖の父、伏木乃権蔵だった。
彼のことは娘である有栖はもちろんのこと、彼に直接スカウトされてこの神社に来たエイミーも知っている。芽亜とも顔見知りのようだ。
舞火と天子だけが初対面だった。
初対面の二人はこの期に及んで困惑していた。
「あの人が有栖のお父さん? ど……どうしようかしら。どこも変な所とか無いわよね」
「なんで今更慌ててんのよ。一番緊張してるのは有栖でしょ」
「え? わたしは別に」
「ワン!」
二人がそわそわしている中、有栖は落ち着いて、こまいぬ太はいつものよく分かってないような犬の態度で来た人達を出迎えた。
エイミーが気を使って『師匠、お先に。一番後輩のミーは控えています』とジェスチャーを送って来たので、有栖は前に出て挨拶することにした。
「お帰りなさい、お父さん。芽亜さんと一緒だったの?」
「ああ、さっきそこで会ったんだ。お前が木崎さんの娘さんと知り合いだったとはな」
久しぶりに聞く父の声だ。有栖は安心を覚えた。
そんな有栖の代わりに芽亜が答えていた。
「有栖ちゃんとはクラスメイトなんです」
「いつも芽亜さんとは仲良くやっています」
「ほう、世間とは狭い物だな。元気でやっているようだな。安心したぞ」
「はい、わたしも」
自分は元気に見えただろうか。なら良かった。安心する有栖だった。
親子の仲睦まじい対面を、みんなも優しい気分になって見守った。
「どうぞこちらに。上がってください。何て言うのも変か」
舞火が案内しようとして、すぐにそれが不要なことだと気づいたようだ。
ここは権蔵の家だ。彼が一番この家に詳しい。案内が不要なのは当然のことだった。
権蔵は厳かに頷いた。
「うむ、君達が有栖の雇った巫女さんか」
「はい、そうです。娘さんとは仲良くやらせてもらっています!」
「エイミーとも。ね? エイミー」
天子に応援を求める目配せを送られて、エイミーはすぐに答えていた。
「はい、先輩達はとっても頼りになる巫女さんです」
「仲良くやっているようで安心したよ」
権蔵の好意的な態度に、舞火と天子の緊張も解けていった。有栖も安心の息を吐いていた。
権蔵は神社を見上げる。
「久しぶりの我が家だな。話もあるだろうが、上がってからすることにしよう。君達もゆっくりしていきなさい」
「はい」
権蔵に促され、みんなで神社に向かっていく。
「先輩、ここはミーが案内するです」
先輩達が積極的に動こうとしないので、エイミーが気を効かせて先導した。
その姿を見て、権蔵は有栖に話しかけてきた。
「エイミーさんとも上手くやれているようだな」
「はい」
エイミーは権蔵の雇った巫女だ。
有栖は父が雇ったエイミーが上手く付き合いが出来るのは当然だと思っていたのだが、もしかしたら自分が自分の雇った舞火や天子のことを心配していたように、父も自分の雇ったエイミーのことを心配していたのだろうか。
何となくそう思ったのだった。
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