第29話 みんなで晩ごはん

 神社に戻って、みんなで一緒に夜食にする。

 畳の広間のテーブルをみんなで囲む。人数が多くて結構賑やかだ。


「今日の料理はわたしが作るからね。期待して待っててね」

「ミーも手伝うです」


 舞火がそんなことを言って台所に行って、後輩のエイミーが後についていった。

 続いて、芽亜が立ち上がる。


「あ、あたしは家に連絡を入れて来なくちゃ」


 彼女の家は結構厳しいのだろうか。

 舞火と天子は特に自分の家の事は気にせずに仕事をしていたし、高校生ともなれば夜のこの時間の外出ぐらい普通だとまで言っていたが、芽亜はよく家のことを気にしていた。

 人のいる所では話しにくいのだろう。芽亜は携帯を手に部屋を出ていった。

 有栖は自分のやることは無さそうだったので、天子と一緒にテーブルについてテレビでも見ながら待つことにする。

 しばらく番組を眺めてから、仕事の資料を纏めておこうかと思ったところで、テーブルを挟んだ向こうの席についていた天子が話しかけてきた。


「舞火に任せて大丈夫かしら」

「舞火さんは料理下手なんですか?」


 彼女はとてもしっかりしたお姉さんのように見えて、何でも出来そうなイメージがある。舞火のことなら最近知り合った有栖よりも幼馴染である天子の方が知っている。有栖は訊いてみた。天子は歯切れが悪そうに答えた。


「あいつなら出来るできるでしょうね。あたしのいない間に飽きたりしていなければ。お兄ちゃんが言ってたわ。結婚するなら味噌汁が美味しく作れる女性が良いって」

「なら心配はありませんね」


 有栖は何の問題も無いと思ったが、天子は浮かない顔だった。


「世の中の女性みんなが美味しく味噌汁が作れたらね。有栖は料理とか出来るの?」

「そこそこは。お父さんが仕事で忙しい時とかわたしも作っていますし」

「有栖でもそこそこ作れるのかあ」


 天子はため息を吐いた。彼女には何か心配事があるのだろうか。有栖は気になって訊いた。


「料理のことで何か気になることがあるんですか?」

「世の中にはね。実の兄からお前はもう台所に立つなと言われる妹がいるのよ」

「それは大変ですね。わたしがお父さんから言われたらショックを受けるかもしれません」


 思い起こせば、有栖は自分が父から邪魔だと言われたことは無かった。有栖はいつも言われた仕事をやるのに精一杯で、あまり父の気持ちを意識したことは無かったが。改めて偉大な父だと思った。

 自分も父のようにその子を励ますつもりで有栖は言った。


「頑張ればきっとその子も料理が上手くなれますよ。その子のお兄さんもきっと妹さんが料理を上手くなったら褒めてくれると思います」

「そうね。何事も諦めるのは良くないわね」


 天子は少し笑ってくれた。あまり人との付き合いに慣れていない有栖だったが、話して良かったと思った。

 そうして、しばらく雑談したり、家に連絡を入れて戻ってきた芽亜とも一緒になってトランプをしていると、お手伝い巫女をしていたエイミーが料理をお盆に載せてやってきた。


「グッドイブニングエブリワン。料理を持ってきましたよ」

「はい、ここに置いてください」


 有栖と天子と芽亜はテーブルの上に広げていたトランプを片づけて場所を開けた。


「偉い頑張ったのね」


 その芽亜の発言には有栖も同意だった。料理は結構豪華絢爛だった。有栖は凄いなあと思って見ていたが、天子の顔は気圧されたように強張っていた。

 運ぶのをエイミーに任せていた舞火がエプロンを外して戻ってきた。


「料理をするなんて久しぶりだったから頑張りすぎてしまったわ。次からは軽く作れて食べられることも考えてやらないとね」


 舞火が席について、みんなでテーブルの料理の前でいただきますをする。

 箸を取って一口食べて、その美味しさはすぐに有栖にも伝わった。


「凄い。舞火さんって料理上手なんですね」

「ええ、料理ぐらい出来ないと良いお嫁さんにはなれないからね」

「舞火さんは誰かと結婚するんですか?」

「女の子はいつしか誰かと結婚するものよ。ねえ、天子」

「もぐもぐ。巫女がそういうことを軽々しく口にするものじゃないわよ。もぐもぐ」


 天子は次々と箸を動かしていく。料理が美味しいのだと言うことがすぐに分かった。見ていると、天子と目が合った。


「有栖も早く食べなさいよ。あんたの分も食べちゃうわよ」

「は……はい」


 有栖は慌てて箸を握る。天子は食べながら言った。


「お兄ちゃんが言ってたわ。おかずは早い物勝ちだってね」

「天子は少し遠慮しなさいよ。あなたのために作ったわけじゃないのよ」

「これがツンデレなのでしょうか……」


 舞火と天子を見ながら、エイミーがぽつりと呟いた。

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