第21話 有栖の占い

 神社の薄暗い部屋で有栖は炎を炊いた。

 いつも父が行っていたように、有栖も祈祷を行う。

 舞火と天子はじっと有栖の背後に座って、彼女の行う儀式の様子を見ていた。

 それはかつての有栖が父の背中を見ていたように。

 そう待つこともなく、結果が出た。

 有栖は壁際の本棚に歩いていき、そこから一冊の古い地図帳を取り出した。

 それを二人の前で開き、一点を指で示した。


「敵はここです」

「ここに何があるの?」


 古い地図は今とは違っていて、舞火と天子にはよく分からなかった。

 有栖は答える。


「ここは建設途中で放置された遊園地がある場所ですね」


 有栖は以前に仕事で近くを通りかかった時に父から聞いたことがあった。

 かつてこの町ではハムスターがブームだった。その人気に便乗して建設が始まったのが、有栖が今示したハムハムアイランドだ。

 いや、ハムハムアイランドになるはずの物だったというべきか。

 完成する前にブームが終わってしまって、採算が見込まれないと判断されてその施設の計画は凍結され、今では跡地をどうするかの協議も投げられて、ただの作りかけで放置された空き地となっているそうだ。


「そう言えば……」


 有栖は父の事で思い出したことがあった。

 子供の頃にいざとなったらこれを使えと両親から渡された物があったのだ。

 今がその時かもしれない。


「ちょっと探し物を取ってきます。ここで待っててください」


 有栖は二人を置いて自分の部屋に向かった。

 机の引き出しを開けて、目的の物を見つける。

 それはお守りだ。


「父さん、母さん、使わせてもらいます」


 有栖はお守りの袋を開けて驚いた。


「これは」


 そこにあったのは一枚のお札だった。

 かつての有栖には分からなかっただろうが、今の有栖にはそれに秘められた力が理解出来ていた。

 両親はもしかしたら今のこの状況を予期していたのかもしれない。

 有栖は部屋を飛び出して仲間達の元へ向かった。




 準備が整い、有栖達は早速出かけることにした。

 巫女さんキラーが何を企んでいるかは知らないが、放置していれば被害は増える一方だ。

 それに早く行かないと敵は場所を移動してしまうかもしれない。

 見失う前に辿りつかなければならない。

 さきほどの祈祷を何度も行うのは今の有栖には重い仕事だった。

 有栖達は夜道を走り、バス停に着く。

 夜間で本数の減ったバスは、次の到着までかなりの時間があった。

 とても待ってはいられないので、有栖はタクシーに乗り込むことに決めた。

 舞火と天子も後に続く。

 目的地を告げるとタクシーは出発した。

 窓の外を町や対向車の明かりが通り過ぎていく。

 いくつかの信号を渡り、タクシーは車の流れに乗って走っていく。

 運転手の適当な話に適当な相槌を打っているうちに、やがて目的地が近づいてきた。

 その場所は街の明かりから遠ざけられた黒く沈んだ場所に見えた。

 到着し、有栖達はタクシーを降りた。

 何も知らない運転手が有栖の仕事の成功を応援して走り去っていく。

 有栖達は国道を離れ、人の姿のいなくなった暗い道を歩いて行く。

 やがて辿りつく。

 遊園地前の広場に立つ有栖と舞火と天子の前には、建設途中で放置された遊園地の門があった。


「人気が無いわね」


 夜だしオープンもしていないから当然とも言えるが、舞火が言ったのは、いるはずの敵の気配も無いという意味であった。


「何も無いように見えるけど」


 天子は注意深く門の隙間から中の様子を伺おうとするが、怪しい物は見当たらなかった。

 でも、何か違和感のような物がある。

 舞火も天子もそれをうっすらと感じていた。だから、うかつに飛び込むような真似はしなかった。

 有栖はその違和感の理由に気が付いた。


「これは……結界が張ってありますね。解きます」


 有栖は二人を見る。二人はうなづいた。もういつでも戦う準備は出来ている。

 その意思を確認して有栖は結界に手をかざし、


「ハアッ」


 軽い霊力をぶつけて、結界に入れる程度の大きさの穴を開けた。

 三人はその中へと入っていった。

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