第12話 就学旅行気分の新婚生活

11月3日の文化の日に入籍して以来、通い婚生活を続けていた。私たちの実家は、同じ中学に通っていたくらいだから自転車で5分の距離だ。毎日、会うけれど、寝る場所は別。そんな日々が、1ヶ月ばかり続き、晴れて夫の冬休みから新婚生活がスタートした。


つわりも落ち着き、頭は冴えないものの散歩をしたり、本を読んだり出来るくらいの日常を取り戻していた。妊娠6,7ヶ月の頃が、私の妊婦生活では一番穏やかな日々だっただろう。夫と一緒に暮らし始めると、笑顔も口数も増えた。


小学校、中学校、高校の卒業アルバムをお互いに順に見ては、ツッコミあった。「なんで、口がこんなにムッと横に伸びてるの?漢字の一みたいに。ウーパールーパーに似てる!」

キャッキャと笑い合った。


「小学校の時は、飼育委員だったの?本当に、お世話好きだね。赤ちゃんのお世話もよろしくね!ウンチも変えられる?」

知らないお互いの一面を知ることが、楽しくてついつい深夜までおしゃべりを続けていた。


新婚生活というより、修学旅行のようだった。私が、妊娠中なので、イチャイチャするわけでもなく、無垢な子どものように布団を共にした。


昼間は、DSでどうぶつの森をプレイしていた。もう、世間的なブームは過ぎ去っていたけれど、2人で熱心に村を作っていた。村の名前は『みむら』。私たちの名字の三宮の三から来ている。紅白を見ながら、ゲーム内のニューイヤーイベントにも参加した。「リンゴを拾ったり、魚を釣って、暮らしていけたらいいのにね…どうぶつの森みたいに。家庭菜園とか、本当にやってみたいな。」

ギスギスした周りからの言葉に疲弊し、穏やかな暮らしに憧れていた。


でも、この頃は父との関係はそれほど悪くなかった。お正月中は、単身赴任先から父が帰宅していたが、夫と将棋をしたり、父の好きなぶらり途中下車を家族みんなで見て笑ったりしていた。お腹の赤ちゃんのために、リサイクルショップへ出掛け、ベビーカーや抱っこ紐などを、父が熱心に探してくれることもあった。


あぁ、もう上手くやれるんじゃないか。家族が円満なら、周りになんと言われようと問題ない。初詣で、大吉のおみくじを引いた私は、有頂天だった。



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