第34話 敗北

 月光石はお金になります。

 私ならゲットし放題です、ぐふふ。


「と言う訳でぇ!!」

 やって参りました。ヤマトに連れられトコトコと。

 敵が全然いない、二階層。月光石を大漁に見つけた暗い洞窟。

 

「では、ヒナミ頼んだ」

「うん!」

 ヤマトに頼まれました、何か嬉しいです。

 ヤマトだけ置いてきぼりにして、石の階段を降りていく。

 

 今回の重大ミッションは、月光石を4つゲットしてくること。

 何故4つかと言うと月ちゃん、ハナちゃん、風子ちゃん、チョウちゃんの四人で一つずつ石を持ってもらうためです。

 私は大きいのは一個持つので限界。長い時間持つのもシンドイ。

 重たすぎるよ月光石。


 ん? でも待てよ……ちっちゃいヤツなら何個か持てるな。よし、私のお小遣いにするためにゲットしよう。

「お金、お金、うれしいな~」


 前に月光石を見つけた場所に行く、洞窟の壁には相変わらず黒い膜のようなものがある。

 ぐにょーん、と押して中にはいる。


 

「ぅう、まぶしー」

 急に明るくなるから、目がすこし痛くなる。黒い膜の先には月光石が一杯。それも大きいのがゴロゴロしてます。

 

「……ん?」

 後ろを振り返る……月ちゃん達が来ない。

 膜をぐにょーんと、押して戻る。


「んー、どうしたの? こっちだよー?」

 元の場所にいた月ちゃん達に言う。


 私がもう一度通ろうと黒い膜を押す。

 私の体が沈んでいく。

 月ちゃんも同じようにするけど、月ちゃんの体は弾き返された。


「へ?」

 何度か試してみたけど、月ちゃん達は膜を通れないみたい。

 仕方ないので、私一人で通る。


「……ぐぎぎぎ……おっも」

 重いです。

 でもこれがお金になるのだと、気合いをいれて月光石を持ち上げる。

 何とか膜を通り抜けて、待っててくれた月ちゃんに石を渡す。


「ぜーぜー、あと三回か」

 ちょっと疲れる。でも頑張ろう。ヤマトも待ってるし。

 私は何とか三往復して、月ちゃん達に月光石を持ってもらった。

 みんなは平然と月光石を持っている。

「すごいなー、重いけどお家に帰るまで頑張ってね」


 ヤマトのいる場所まで戻るため、階段を上る。

 そういえば一番最初、私一人でこの階段を上ったのでした。月光石を持ったままで。

 あの時はホントに疲れたなぁ。


 でも、今は月ちゃん達がいる。大変助かります。戦いでもヤマトの役に立てるし。


 今日私は魔物の鳥さんや、でっかい恐竜を倒したし、石もゲットした。

「帰ったら何か買ってもらおうっと!」

 ヤマトにねだるのだ。


 あ、でも待てよ? 恐竜は最後ヤマトが倒したし、鳥さんとかも、月ちゃん達が倒したし……私は何もしていない。


「……買ってもらえるかな」

 少し心配になる。

 頑張ってお願いしよう。


「はぁ! せや!」

 私が戻ると、ヤマトは一人で刀を振っていた。

 まるで見えない敵と戦っているみたい。

 真剣にやってるので、終わるまで待つ。


「はぁ! ……ふぅ。ヒナミ帰ったか」

「終わった?」

「うむ、倒した」

 ……倒した? 何を倒したのでしょう。

 まあ、いいか。

 男の子はよく架空の敵と戦ってるって直子ちゃんが言ってた。

 そういう場合、女の子は生暖かい目で眺めるのが礼儀らしい。


 そう言えば直子ちゃん元気かなぁ……早く向こうに帰らなくちゃ。

 学校の勉強も遅れちゃう。お母さん、お父さんにも会いたい。


「……うぅー」

 いけない、なんか涙出てきた。


「どうしたヒナミ!?」

「うわ、びっくりした」

 ヤマトがすごい勢いで駆け寄ってくる。


「何があったのだ!」

「……い、いや、ちょっと急に向こうのこと思い出して」

「向こう?」

「あー。何て言えばいいのかな、ほら、月の向こう側。私の来た所、私の家とか家族のこと思い出したの」


「……心配するな、俺が必ず連れていってやる」

 ヤマトが真剣な表情で見つめてくる。

 ちょっとドキドキ。

「……ホント?」

 私は可愛らしく言ってみた。

 目も、涙でウルウルしてるはずだからけっこう可愛く出来たはず!

 恋は最初に、惚れた方の負けという話もあります。

 最近ヤマトは私に甘い、ロリコン疑惑もあるし、これで私にメロメロになるがいい!

 私の完全勝利だぁ!

 


「ああ」

 ヤマトは、ただ、短く返事をした。


 いつか見たお月さまの眼差し、低い声、その真剣な姿に…………私は負けてしまいました。

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