第八十一話 針の山

 陰陽師たちを助けるという選択肢をとった。


 ところまでは、まぁ人間として好いとは思うんだけどよ。


 現実問題村に雪崩れ込んで来てる大鬼たちや餓鬼の群れから手負いの陰陽師たちを抱えたまま逃げきれねぇだろ?


 しかも今いる陰陽師の中で、最大戦力である玲子も陰陽師たちの退却の手助けをしてるから、村に雪崩れ込んできた餓鬼王やその他の大鬼たちが玲子や六花、手負いの陰陽師たちを狙って来た場合。大鬼たちの対処ができねぇだろうし、このまま放っておけば近い将来、六花や玲子と陰陽師たちは共倒れになる。


 そう確信した俺は、ったくしかたねぇなぁ。まったく人間ってのは、わが身を顧みぬバカばっかりだぜ。と思いながらも、現状打破の手を考えることにした。


 ようは、玲子や六花が退却する足かせとなっている陰陽師たちをどうにかすればいいってころだろ? とすれば、ここでいくつかの選択肢が生まれる。



 一、陰陽師たちを即刻秒殺して、六花や玲子の足かせを解いてやる。


 二、大鬼や餓鬼たちが、六花に玲子や陰陽師たちのいる場所に到達する前に、殲滅する。


 三、俺が全員抱えて逃げ出す。


 四、六花や玲子がこの場にとどまる理由を三つの選択肢以外で断ち切る。



 一はないな。なぜなら六花や玲子の恨みを買いまくる。

 

 二もないな。というか、今の俺の力では、はっきり言って、餓鬼の群れだけならともかく。大鬼たちのいる現状で奴らを瞬殺できない。


 三は、まぁ人間を超えた俺の腕力なら、できないことはないと思うが、神がかり的ステータスを持つ玲子辺りの耐炎効果なら、何とか抱えることができるとは思うが、ステータスや耐炎の値(あたい)の低い六花や陰陽師たちは、俺が腕に抱えた瞬間、最大限威力を弱めたとしても、俺の常時発動スキル『炎の壁』の効果によって、火達磨になる可能性が非常に高い。


 となると、必然的に俺の取れる選択肢は、第四の選択肢になるわけだ。


 で、俺はすでに第四の選択肢を達成するための手段を持っていたので、六花や玲子がこの場から退却できるように、彼女たちの足かせを断ち切ることにした。


 まず俺は、石壁を破壊し、炎の壁を越えて来た大鬼や餓鬼たちに向かって、手の平を開いた左手を向けて、集石を発動させると共に、石礫を使ってけん制しながら、平行して気配探知を使用し、陰陽師たちの居場所を特定する。


 田んぼに二人。六花や玲子に肩を借りてすでに道に上げられたのが、二人。現在進行形で六花と玲子に肩を借りて移動してるのが二人。


 とりあえず、まずは田んぼにいる奴らからだ。


 俺は先ほど気配探知で田んぼにいることを確認した陰陽師たちの居場所に向かって手の平を開いた右手を向けると、餓鬼洞で戦った比婆や志度にしたように集石を使い。陰陽師の周囲に石の壁を築こうとしたのだが、ここには餓鬼王やそれ以外の大鬼たちが来ていることも考慮して、より堅牢で、餓鬼王や大鬼たちであろうとも、近づけないような形と、たとえ破壊しようとしても、そう簡単に破壊できないような頑強な岩山を作ることにした。


 必要なのはイメージだ。とにかく硬くて頑丈で、何物も近づけないような先端部が尖った岩山をイメージする。


 先端部が尖った岩山というイメージで、俺の脳裏に思い浮かんだのは、地獄にあるという針の山だった。


 針の山をイメージした俺は、集石をコントロールすると共に、できる限りの呪力を込めて強度を増しながら、大鬼たちですらおいそれとは近づけないように、先端部を鋭く尖らせて岩山を構築していった。


 そうして俺は、数十秒にも満たない間に、頑強な針の岩山を合計四つ作った。


 もちろんその中には、六花や玲子たちによって道に引き上げられて寝かされている陰陽師や未だに自分の力で身動きが取れずに、田んぼの中で六花や玲子たちの助けを待っていた陰陽師たちが入っている。

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