酷い掘っ立て小屋

真っ暗闇の部屋 デザートなど皆無

冷たい隙間風

暖をとることはでき

腹が減って、フラフラとなったが

日々ここで過さなければならない

彼女が玄関口に立っているところで

冷蔵庫の扉を開けた私は

冷えた林檎にかじりついた

「これは天国か、もしくは地獄かもしれない」

すると彼女はランプを灯し、私に缶珈琲を手渡すと

「邪魔しちゃ悪いわね」と、立ち去った

ふと私は感じた 偉大なる文豪がこんな風に言った声を


Welcome to the 酷い掘っ立て小屋

すてきなとこ

(すてきな所)

ちてきな所

掘っ立て小屋の室内は最高ですよ

年中孤独で

(年中孤独で)

のびのび書けます

のびのび書けます         ( )chorus part



彼女の心はティファニーに染まり

彼女は私が直木賞を受賞すると勘違いし

彼女はおしゃれなブランド品を買い集め

彼女は自称セレブと称し

彼女は豪華な車を走らせている

甘い夏の曲

ある人は楽しむために車を走らせる

ある人は忘れるために車を走らせる


さて、私は江戸川乱歩先生を呼んで頼んだ

「面白い話はどう書けばよいのですか?」

私は言った

「残念だけれど、大正時代の浪漫は、にはないのです」

そして、まだ先生の声が遠くから聞こえてくる

私は真夜中に目を覚ます

ほら聞こえるだろ、屋根裏から言っている声が


Welcome to the 酷い掘っ立て小屋

すてきな所

(すてきな所)

ちてきな所

掘っ立て小屋で生きていくしかないのさ

すばらしき錯誤

(すばらしき錯誤)

現世うつしよは夢 



江戸川乱歩傑作選を

読破した私の彼女は

『富美子の足』と『人間椅子』って、なんか似た作品よね?

彼女から届いたメールに

「なるほど」と、私は頷いた

私はHBの鉛筆をカッターで研ぎ

蟲一匹殺すこともできない


私の記憶が確かならば

私はドアに向かって叫んでいた

快適に暮らしていた世界を完全に断ち切らなければならない

「血の代わりにケチャップなのかね?」と、先生は笑った

「洋書をたくさん読みなさい」

「貴方は、好きな時に、ここを立ち去ることができるけれど」

「作品を書き終えるまで、ここを立ち去ることはできません!」

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