第5章 新たなる道への旅立ち (2)
──ダン☆
「それはどういうコトだよ、ファー!!」
翌日、朝食に温かなコーンスープに白パン。それからチーズに果物とぶどうの搾り汁を頂いたあと。今後の事について、ファーと話し合いを始めていた。
が、ファーが最初に言い出した言葉が「アクト=ファリアナへ行こう」というモノだった。
そんなの納得出来る訳がない。
「ファー! 君は確か、言ったよね?『機会はまた、時期に来る』って。なのに、ここを離れたらその機会も何も叶わなくなるだろう! 違うか?!」
そうだ。
ここを……この首都キルバレスを……ディステランテが居るこの街から離れる訳にはいかない! 離れていては、その機会にも恵まれなくなる。それでは駄目だ。困る。
そう思い言うアヴァインを見て、ファーはため息をついた。
「言っちゃ悪いけどな、アヴァイン。今のキルバレスは、非常に厳しい厳戒態勢の中にある。ここがルーベン・アナズウェルさんの倉庫だから、それほどの心配もなく過ごせているけどな。一歩外へ出たら、街中、お前の似顔絵が描かれた手配書だらけだよ。街を巡回している衛兵の数だって、半端ない。
しかもあれ以来、ディステランテの周りには常に10人もの衛兵が身辺に張り付いて警護している。今はただ近づくことさえ、かなり困難だろう」
「……だからって、ここを離れたら。それこそ無理になる!」
ファーはそこで手にしていたワインのビンを一口飲み。『ドン!』と置き、こちらを睨み、口を開いた。
「そう我が儘ばかりを言うなよ、アヴァイン! いつまでもルーベンさんに甘えてここに居続ける訳にもいかないことくらい、お前にだって分かるだろう?
もし衛兵がここへ踏み込んで来て、見つかりでもしたら。お前はどう責任を取るつもりなんだよ?」
「……」
ファーの言う通りだ。
そういつまでもルーベンさんに甘えてばかりも居られない。少なくとも、ここからは早めに出た方が良いだろう。
そう思っていると、ファーの背後にある屋根裏部屋の入り口である床が上へ持ち上がり、その下から12・13歳くらいの男の子が顔を出した。
先ほどから自分が1人興奮し、物音を立てていたので、心配して家の子が上がって来たのかもしれない。
そう思っていると、次に30半ばくらいの髭を生やした体躯の良い男が顔を出して「お邪魔するよ」と言い、この屋根裏部屋へと上がって来たのだ。
「ああ、これはルーベンさん」
ルーベンさん……? では、この御方が……。
「あーえー……と……兎に角、紹介するよ。
この方がこの家の主であるルーベン・アナズウェルさんだ。そして、あの子はルーベンさんのお子さんで、ついこの前13歳になったばかりのルシアスくん」
「ルシアス・アナズウェルです。よろしくね、お兄さん」
「あ、どうも……初めまして、ルシアスくん」
なんとも元気で明るい、快活そうな子だ。
それとは対照的に、このルーベンという人はカルロス技師長に雰囲気こそよく似てはいるが、実に油断のない鷹の様な鋭い目つきをしている。
「ルーベンさん、初めまして。この度は大変、お世話になりました。私の名は──」
そこで名前を告げようとすると、ファーが急にそれを手で遮って来た。
「あー! コイツの名は、あ……アーザイン。
そう、『アーザイン』っていいます!」
「……?」
自分が『これは、どういうコトだよ?』といった顔を向けると、ファーは何故かウィンクをしていた。
よくは分からないが、何やら事情があるらしい……ここは合せて置くのが賢明だろうな?
「えと……改めまして、この度は大変お世話になりまして、本当にありがとうございます」
アヴァインがぎこちなくそう言い、軽く頭を下げると。ルーベンは小さく笑顔を見せる。
「いやいや。私はただ単に、見知らぬケガ人を介抱した、そんな当たり前のことをしたに過ぎないのでね。気にされることは何もない」
「……」
あ……なるほど、そういう事か。表向きにはそうして置けば、それほどの問題もない訳だ。だから敢えて、名は伏せた訳か。それでルーベンさんは嘘をつかないで済む。ファーもなかなか考えたモノだな。
アヴァインはそう理解し、ファーを見て感心をする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます