第18話 3人の騎士団長
5千km以上離れた王都に7日で戻るというのは、ちょっとした記録になるだろう。
第一陸港に再度入港して、鉱石を引き渡す。
ドミニクとレイドラはヴィオラを降りると早速港の中に消えていった。
拠点の届出と例の同盟の話をしに行くのだろう。
上手くいくと良いんだけどね。
ベルッドじいさんは数人の弟子を連れて、やはりヴィオラを降りていくし、動力部のドワーフも数人が連れ立って降りていく。その後から、ネコ族の娘達がメモをひらひらさせながら続いて行く。落とさなければ良いんだが、と心配になったけど見てるだけしかできないんだよな。
「皆、忙しそうだな」
「良いんですか? 俺達はここでタバコを吸っていて」
俺はタバコを咥えてコーヒーを飲んでるし、アレク達は酒を飲んでいる。ベラスコは炭酸飲料だから、一番健康的だな。
「俺達に手伝える事は無い。何かあれば連絡が来るから……まあ、待機状態といえば良いんだろうな」
「それで良い。俺達は騎士だ。イザとなれば命懸けでヴィオラを守る。それ以外は望まれていない。そして、俺達の出番が無ければ、それは鉱石採取が上手く行ったという事だ」
カリオンが悟ったように俺達に告げた。
確かにそれも真理ではあるのだが、高給を貰っているのに何もしないというのも気になってしまう。
ビービー……とベルトに付けた携帯が振動音を立てる。
取外して、小さな画面を見るとドミニクのようだ。
「もしもし……。リオですけど」
「ちょっと、B-4105の会議室に来てくれないかしら」
「了解です。直ぐに向かいます」
携帯をベルトに戻して立ち上がると、アレクの傍に歩いて行った。
「何か、ドミニクが用があるようなんで行って来ます」
「たぶん、他の騎士団長達だ。俺達の代表で行くんだ。胸を張って行けよ」
そう言って、アレクが俺の腿を叩く。
まあ、酔ったアレクを女性騎士団長の前に出したら、どんなセクハラをするか分からない。と言って、カリオンは孤高の戦士だし、ベラスコは入団直ぐだからな。俺しか選択の余地が無かったんだろう。
片手を軽く上げて彼等から離れていった。
ヴィオラの通路を桟橋への出口に向かって歩いて行く。
何時もは硬く閉じられている扉に開閉可能のグリーンランプが扉の上でボンヤリと光っている。
扉は俺の接近を感知してスイっと横にスライドした。
桟橋への通路は透明なチューブだ。床は球面ではなく平らな板が続いているから歩き難い事は無い。大人2人が横になって歩ける位の横幅を持っている。
そんな通路を歩いて、桟橋へ出ると陸港を管理する建屋への入口を目指して歩く。横幅50m、長さ500mはある巨大な桟橋だから、管理建屋への入口は数十m間隔に設置されている。
管理建屋に入ると直ぐに案内板を探して、現在地とB-4105の部屋の位置関係を確認する。
案内板と言っても一種の端末だ。確認が終ると、俺の腰に下げた端末に情報が転送される。
後は携帯のナビゲーションで目的地に向かえばいい。
通路を進んで、エレベータに乗り、また戻るようにして通路を進むと目的地のB-4105会議室に到着した。
扉をノックして中に入っていく。
そこは小さな会議室だった。
数人の女性が、小さなテーブルを囲んだ3つのソファーに腰を下ろしている。
「来てくれたわね。……紹介するわ。左から、クリスチーナ。そして、アーデルハイドよ。私の小さい頃の友人であるとともに、騎士団長であるわ」
「クリスでいいわ」
「私もアデルと呼ばれたいわね」
「リオと言います。ドミニク騎士団長に拾われました」
「そんな話が出て、リオを呼んだのよ。まあ、掛けて頂戴」
いずれの女性も席を立たずに挨拶してるって事は、自分の立場を重視してるって事だろう。小さな騎士団であっても、騎士団長には違いない。
「でも、こんな若者を荒野で拾うなんて、ドミニクもツキがあるわね」
そう言って俺を見たのは、ストレートの銀髪を腰まで伸ばしたクリスさんだ。
ドミニクに負けない肢体の持ち主だ。隣の副官だって、モデル並みだ。
「荒野で
アデルと呼んで欲しいと言った女性は少しスレンダーな感じだな。やや痩せ型で金髪を肩で揃えている。
「私も初めてだけどね。まあ、荒野は広いから色んな事があるんでしょうけど……。それで、どうかしら。私の提案は?」
「確かに、魅力的な話だわ。たぶん私達の収入は倍近くになりそうだけど、一番の懸念は
そんなクリスにドミニクは微笑みかける。
「私は
2つのソファーに腰を下ろしていた4人が、ドミニクの言葉に腰を上げてドミニクに詰め寄った。
「何ですって!
「それが知れたら?」
「どうにもならないでしょうね。
ゆっくりと4人がソファーに腰を下ろす。
コーヒーを飲んで気を落ち着けているようだ。
俺の前にコーヒーが無いのに気が付いて、レイドラが壁際の棚に向かって歩いて行くとコーヒーを入れて俺の前にカップを置いてくれた。
軽くレイドラに頭を下げるとコーヒーを飲む。
「何時も、貴方には驚かされるわ。
「12騎士団に匹敵するでしょうね……。それで、その
レイドラが小さな端末を持ち出して操作すると、少し離れた場所にスクリーンが展開してヴィオラの甲板に降り立って昇降機に歩くアリスの姿が映し出された。
「確かに
「動きが自然ね。あそこまでスムーズに動かせるの?」
「武装はもっと驚くわよ。そしてリアクターはドワーフの技師長にも理解出来ないみたいね」
ジッとスクリーンに見入っている4人がドミニクに向き直った。
「
「さっきの
「となると、王国の
「私の方も問題なし。……でも、そうなると利益の分配が問題よ」
「それは副団長達に決めてもらいましょう。騎士達の給与はヴィオラを踏襲したいけど、その他の騎士団員は原則同じになるようにしたいわ。それで調整出来ないかしら?」
「基本的には、鉱石の売り上げの分配ですから、それほどもめる事は無いでしょう。それでは、私達で調整して報告します」
レイドラがそう告げると席を立った。それぞれの副官も席を立つと、少し離れた場所にあるテーブルに向かって行く。
そこで激論を始めるんだろうな。
「それで、貴方達のラウンドシップはあれから替わったの?」
「私は以前のままよ。でも、少しリアクターを大型にしたわ。これが現在の私のラウンドシップ……ガリナムよ」
そう言って、バッグから端末を取り出して、先程のようにスクリーンを展開する。
そこに映し出された船体は、前のヴィオラに似ているが全体にスマートな感じだ。
「軍のフリゲート級を改造したものよ。
船体の上部甲板に12基の長砲身単装砲がずらりと並んでいる。そして、原則に獣機を出し入れするシュートが3基付いていた。
曳いているパージは100t級が3台だな。
鉱床を見つけたら素早く
「私のはこれよ」
そう言って、もう1つのスクリーンが展開する。
これは……、ダモス級より大きいぞ。
「
ブリッジ付近に連装75mm砲が前に2つと後ろに1つ付いている。
舷側のシュートは5基もあるな。
曳いているパージは75t級を8個だ。
特徴がある騎士団だな。ヴィオラもそうだけど、パージ位は統一した方が良いんじゃないかな?
「
「見付かったら、の話だけね。順番は貴方達に任せるわ。私は3機目を貰えればいいわ」
ある意味、取らぬタヌキな話だが、その時にもめるよりは良いだろうな。
仲違いの原因になりそうな事は早めに話し合っておくべきだ。
「問題はパージよね。しばらくは今のままで良いでしょうけど、その内に合わせるべきだわ」
「鉱石の積み下ろしが面倒になるわね。でも拠点があれば安心して出来るわ」
「ですが、洞窟のホールの大きさもあります。直径1kmは越えていますけど、中で旋回するとなると以外に狭いかも知れませんよ」
「ラウンドシップの旋回スペースがあれば問題ないわ。パージは
確かに、数百mになるパージの列を分断すれば容易になるだろう。
しかし、そうなれば余計にパージの大きさを統一しておいたほうが良いだろうな。
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