事の端あはせ
佐久良 明兎
治承の秋
祇園精舎の鐘の声
空が高い。
琵琶の音色を耳にして、男は立ち止まった。しゃなり、と手にする
どこからか聞こえてくる
「ぎおんしょーじゃのかねのこえーっ、しょぎょ、むじょーのひびきあり。しゃらしょーじゅのはなのいろ、じょーしゃひっすいのことわりをあらわす……」
冷たい風が肌を撫でる。霜月である。
男は笠をついと上にやり、遠くを見遣りながら、幽かに憂いをたたえた表情で誰にともなく呟く。
「偏に風の前の塵に同じ、……か」
琵琶の音が、風に紛れて虚空に響く。
風に吹かれてたゆたう彼の身は、霜月の暮れにただ寒い。
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