不自由な現実

 一体、どうしてこんな夢を見てしまうのか。俺が千夜を好きなあまり、欲求不満にでもなっているんだろうか。


 千夜とは友人の紹介で出会った。彼女も俺を好いているのは知っている。なのに、どうしてこんな夢を見て、自分一人で勝手に嫉妬しなければならないのだろう。


 けれど訳がわからないまま夢を見続け、とうとう千度目の夢に吸い込まれていった。

 その日は何かが違っていた。いつもなら格子窓の向こうに現れる千夜の目が出てこない。それも、窓が少し開いているのだ。


「逃げるなら、今しかない」


 どくん、と心臓が跳ねた。じりじりと近づき、怖気づきそうな自分を叱咤した。


「自由だ! 自由になれ!」


 意を決して俺は格子窓から飛び出した。そして愕然とする。

 そこにあったものは不自由な現実だった。


「やめてよ!」


 千夜の叫び声にかぶさるように、男の怒鳴り声がした。


「うるせぇ! 言えよ、どの男を書いてんだよ?」


「違うってば、本当に誰でもないの!」


「嘘つけよ、他の男とのことを書いてるんだろうが。そうでなかったらあんなもん書けるかよ!」


 千夜の髪を掴み、体格のいい男が鬼の形相をしていた。彼らは幸い、俺が鳥かごから逃げ出したことに気づくどころではなかった。


 慌ててタンスの上に飛び降り、そっと様子をうかがう。


 初めて見る千夜の恋人は、粗野な男だった。彼はいつも夜にやってくるが、昼行性のインコである俺は夢の中だ。今だって真夜中なんだから眠いはずだった。けれど、千夜の髪を引きずる男への嫌悪と怒りでぶわっと羽が膨らんでいた。

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