65.筑波大学 - レンズを使えないとき

 意外に思われるかもしれないけれど、自分の部屋にいるときはレンズをかけない方がいいの。もともと刺激が少ない色で統一してあるから、物がよく分からなくなっちゃって。

 レンズを使っちゃいけないタイミングの最たるものは、作文だったわ。

 読みにはレンズが必須なのに、不思議なものよね。全然文章が思い浮かばなくなっちゃうの。それに書いても綺麗な色と快感がないから、続かなくて。

 全盛期、皮肉にも物が分からなかった頃は、一日八千字くらい書けたの。それがアーレンレンズをかけ始めてから、一日二千字も書けなくなっちゃって。

 レンズの使用時間を調整したから、今は一日五千字くらい書けるね。でも、それでも、減ったよね……。


 はい、ご到着。外に出て。

 いい夜風ね。花見に最高だわ。

 道路の向こうに大きな研究施設と、隣に大きな池が見えるでしょう? 目的地はあの池の畔よ。

 道路を渡ろう。自動車に気を付けてね。夜中でも意外と通るから。


 足元気を付けてね。本当なら人の通る場所じゃないから、整備なんてされてないの。

 池から水の匂いがするね。あと、桜の匂いが濃くなってきたの、気付いてる?

 はい、到着。

 ――すごいでしょ?

 

 

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