62.ドーピング - アーレングラス入手

 さて、松見公園を無事一周したわね。

 次の行先も決まったわ。私がつくば一番の桜の名所と思っているところよ。

 さぁ、車に乗って。

 運転しながら続きを話そうか。


 レンズ完成の報せは、予定通りに三週間で来たわ。他の用事を全部ずらして、すぐ受け取りに行った。

 完成したアーレングラスは、ごく普通のサングラスに見えたわ。レンズが褐色のせいでしょうね。

 でもかけてみたら、全く違う世界が広がっていた。

 第一印象は「急に視力が良くなったみたい」だった。

 何もかもがはっきり見えるの。共感覚をも抑えられて、外の情報がどんどん入ってくる。


 嬉しくなって、それから数日はアーレングラスをかけっぱなしにしたわ。

 運転が危なっかしくない。青い車も空を映した銀の車もちゃんと見える。なぜか遠くまでよく見える。標識や看板を見落とさない。

 買い物が簡単。値札に酔ったりしない。探し物がすぐに見付かる。こんなのも売っていたんだって気付く。

 何より本を読むのが早い。色や光に邪魔されずどんどん意味が入ってくる。疲れない。何時間も読み続けていられる。


 でもその喜び、何日も続かなかったわ。

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