第166話 …は、恥ずかしく…ないんですか?…

「ねえねえ、涼羽ちゃん。涼羽ちゃんはなんでそんなに可愛いの?」


「ほんとにそれ!涼羽ちゃん、可愛すぎてたまんない!」


「涼羽ちゃん可愛すぎて、ほんとにぎゅ~ってしたくなっちゃう!」




突然の乱入者達が、志郎と連絡先を交換し、非常に満たされた感じで退室していったその後…


志郎の熱唱の後で、テンションが限界突破を果たしてしまっている男子達が、こぞってマイクを握り、順番に熱く歌うことに夢中になってしまっている。




そして、そんな中、女子達はこぞって涼羽のそばへと近寄っていき、涼羽のことを思う存分に可愛がってしまっている。




自分と同年代の女子達に頭をなでなでされたり、その頬に手を添えられたりなど、もう、とにかく目一杯に可愛がられてしまっている涼羽。


そんな女子達のスキンシップのような触れ合いに、当然のことながらその頬を羞恥に染めて、いつものように恥ずかしがって、視線を女子達から逸らしてしまう。




こういった触れ合いは、美鈴を始めとする自分のクラスの女子達ともうこれでもかと言えるほどにしているにも関わらず、未だに慣れる様子を見せない。


だからこそ、美鈴も他の女子達も余計に可愛がりたくなってしまう、ということに当の本人である涼羽だけが気づくことがない状態。




そしてそれは、ここにいる他校の女子達も同じであるようで、涼羽が恥ずかしがっていやいやをすればするほど、もっともっとと言わんばかりに涼羽のことを可愛がってしまう。




「涼羽ちゃんったら、ほんとにお肌綺麗!すべすべで、きめ細かくて!」


「それに、何この細さ!ウエストなんか、アタシより細いじゃない!」


「でも、ガリガリって感じじゃなくて、本当に女の子みたいに丸みがあって、柔らかい感じ!」


「顔なんか、見れば見るほどアタシ、自信なくなっちゃう…そのくらい可愛い!」




そして、その可愛い顔立ち、綺麗すぎる肌、胸がない以外は女子といっても過言ではないそのスタイル…


涼羽のそれらを余すことなく堪能しようと、こぞってその手を涼羽の顔や身体に持っていっては、触り倒している。




「!ひゃっ!…や、やめて…」




ちょっと触れられる度に、びくんと震えて、可愛らしく甲高い声が漏れ出てしまう涼羽。


いかに普段、クラスでこんな風に触れられているとはいえ、肝心の本人にまったくと言っていいほど慣れる様子が見られない。


それどころか、より人に触れられることが苦手になってしまっている節すらある。




もう恥ずかしすぎて、恥らっている顔を見られていることすら、自分の中の炎に油を注ぎ込んでいるかのように羞恥が燃え盛っていく。


だから、せめてもの儚い抵抗として、その顔を女子達から逸らそうとするのだが、そんな仕草も可愛すぎて、もっと見ていたくなるのか、無理やり涼羽の顔を自分達の方へと向けさせてしまう。




「や…やだ…見ないで…」


「ちょっとアタシ、女やめたくなってきちゃう…」


「なんなのもお!この可愛さ!」


「もうめっちゃ可愛い!可愛い涼羽ちゃん、もっと見せて!」




恥ずかしすぎて恥ずかしすぎてもうどうしようもなくなってしまい、とうとう涙目になってしまう涼羽。


そんな涼羽が反則すぎる程に可愛いのか、余計にいじめたくなってしまい、もっと恥ずかしがらせようと、さらに可愛がってしまう女子達。


ついには涼羽の長い髪を束ねている、飾り気のないヘアゴムを取り去って、綺麗に霧散し、重力に従って真っ直ぐに下に伸びる黒髪をじっと見てしまう。




「なにこの髪!めっちゃつやつやで、めっちゃ綺麗!」


「それに、髪おろしたら、もっと可愛い!」


「こんなに長いんだから、もっと可愛い髪形にしようよ!」




もう涼羽の可愛らしさに、非常にテンションが上がってしまっている女子達。


その女子の一人が、荷物として持ってきている、流行にのったデザインのバッグを開き、その中から何かを取り出し始める。




「ほら!これ!これで涼羽ちゃん、もっと可愛くしちゃお!」




そういった女子の手に握られているのは、真っ白でフリフリのついたリボン。


しかも、それが二つ。


それを見て、他の女子達もますますテンションが上がってしまう。




「うん!いいそれ!」


「この子もっと可愛くしてあげたくなっちゃう!」


「涼羽ちゃんの髪、もっと可愛くしてあげよ!」


「はやく!はやく!」




女子全員で嫌がる涼羽の身体を優しく、それでいてしっかりとイスの方に抑え付け、逃げられないようにしてしまう。


さらには、とにかく今の状態を見られたくなくて、必死になって逸らそうとしている顔も、半ば無理やり抑え付けて、自分達の方へと向けてしまう。




「や、やめて…恥ずかしい…」




もうそのあまりの恥ずかしさに、その大きくくりくりとした瞳からさらに涙が滲んできてしまう。


まるで、これから頂かれてしまういたいけな美少女のような涼羽の姿に、ますます女子達の心がくすぐられてしまう。




「だあめ♪涼羽ちゃんは~、も~っと可愛くならなきゃだめなの」


「こんなに可愛いのに、も~っと可愛くなれちゃうなんて、ほんとに反則だよ!」


「可愛い涼羽ちゃん、も~っとアタシ達に見せて?」


「も~っと可愛くなった涼羽ちゃん、アタシ達に見せて?」




ここに入ってきた当初の時のような、適当に作り上げた笑顔ではなく、本当に嬉しそうで楽しそうな、加えて意地悪さが入った笑顔を見せて、涼羽の儚い抵抗を無にしてしまう女子達。


むしろ、涼羽がそんな儚い抵抗を見せれば見せるほど、この女子達は余計に涼羽のことをうんといじめて、可愛がってしまうのだろう。




そして、取り出したリボンを持ってきた女子が、涼羽の長く艶のいい髪を頭の両側で一つずつ、可愛らしくリボンでまとめていく。


そして、涼羽の髪型が、女子達の手によって、幼げで可愛らしい感じのツインテールに、されてしまう。




「うう…」




服装が地味で野暮ったいのだが、むしろそれが、涼羽の首から上の可愛らしさを強調してしまっている。


もうどう見ても、無理して男物を着て男装している美少女にしか見えない状態となってしまっている。




無理やり髪型をツインテールにされただけなのに、本当に女装させられてしまったかのような感覚に陥ってしまい、もうとっくに振り切れているはずの羞恥心メーターがさらに上がっていってしまう。




「かっ!可愛い~!」


「ほんとにお人形さんみた~い!」


「あ~んもお!ぎゅってしたくてたまらない!」


「も、もお我慢できないよ~!」




そして、涼羽のそんな恥らう仕草、そして可愛らしく彩られた髪型に女子達の心がより刺激され、もう涼羽が異性だという感覚さえ、吹っ飛んでしまう。


それまで抑えていた欲望がとうとう抑えきれずに決壊してしまい、女子達がこぞって涼羽のことをまるでぬいぐるみを抱きしめるかのように、ぎゅうっと抱きしめてしまう。




「うわ~!涼羽ちゃんほんとに抱き心地いい~!」


「なにこれなにこれ~!ほっぺもすべすべで、気持ちいい~!」


「もお可愛すぎ~!涼羽ちゃん!」


「こんなに可愛いなんて、ほんとに涼羽ちゃんすご~い!」




そして、涼羽の抱き心地を思う存分に、それまで我慢していた鬱憤を晴らすかのように堪能していく女子達。


抱き心地、すべすべの肌、間近で見るその可愛すぎる顔、それらを余すことなく堪能し、本当の意味で満たされていく感覚が芽生えてくる。




「ちょっと~!!早くアタシにも涼羽ちゃんぎゅうってさせて~!」


「アンタ達ばっかりずる~い!」


「アタシ達も涼羽ちゃんぎゅうってしたいの~!」




そんな様子をそばで見せられているほかの女子達ももう我慢ができない状態になってしまっているのか、早く代わってと、その漲ってくる欲望のままにせっついた声を出してしまう。




「や、やめて…恥ずかしいから…」




この日初めて会うこととなった、自分と同年代の女子達に、これでもかと言うほどに可愛がられて、そのあまりの恥ずかしさに、自分が溶けてなくなってしまいそうな感覚に陥ってしまう涼羽。


そんな感覚に耐えられなくて、またしても儚い抵抗の声をあげてしまう。




その大きくくりくりとした瞳を涙で滲ませながら懇願してくる涼羽の声、そして姿に、ますます女子達はその心を鷲掴みにされるかのような感覚に陥ってしまい、ますます涼羽のことを可愛がりたくなってしまう。




「もお~!涼羽ちゃんったら、ほんとに可愛すぎ~!」


「こ~んなに可愛い涼羽ちゃんは、も~っとアタシ達に可愛がられないといけないの!」


「涼羽ちゃんが悪いんだからね!涼羽ちゃんが可愛すぎるから、アタシ達、こんなにも涼羽ちゃんのこと、いじめたくなっちゃうの!」


「もう許せないくらい可愛いんだもん!だからアタシ達にも~っと可愛がられないとだめ!」




次から次へと、代わる代わる涼羽のことをぎゅうっと抱きしめ、思う存分に可愛がってしまう女子達。


幼げなツインテール美少女にしか見えない涼羽の、涙目で自分達に懇願してくる姿が、ますます自分達の心をくすぐってしまうのを、嫌と言うほどに自覚してしまい、その湧き上がってくる欲望のままに、涼羽を可愛がっている。




「ねえ?涼羽ちゃん?アタシのおっぱい、どお?」


「!ど、どおって…」




涼羽にべったりとしている女子の一人が、自分の胸をぐいぐいと涼羽に押し付けていることもあり、それをわざと意識させるようなことを言ってしまう。


そんな女子の声に、ますますその羞恥心が大きく膨れ上がってしまうのか、まともに言葉を返すこともできなくなってしまっている。




その女子の胸は、自分でも自慢と言える部分となっているようで、それに見合う大きさと形をしており、しかも、それを強調するかのように胸元も開けているため、嫌でもそのふくらみが目に入る形となってしまっている。


自分でも、とにかく異性の目を、心を惹きたいと思っていることもあり、普段からわざとらしくアピールするような着崩し方をしてしまっている。




だが、彼女のそんな服装が、その恥じらいのなさを強調してしまっていることもあり、却って自分の好みの男子を遠ざけてしまっていることに、肝心の本人が気づくことが出来ないでいる状況。




他の女子も、立っているだけで中が見えてしまいそうな丈のスカートだったり、この女子と同じように胸元を強調したりといったこともあり、いまいち慎み、そして恥じらいに欠けているといわざるを得ない。




「…は、恥ずかしくない…のかなあ…って…思いますけど…」




そんな彼女の言葉に、ようやくと言った感じで言葉を返す涼羽。




実のところ、妙に女として、性を意識させる着崩しをしている彼女達に会ってからというもの、涼羽はそんな姿の彼女達をまともに直視することができなくなっていたのだ。


涼羽自身、本物の女子よりも慎み深く、そして本当に恥ずかしがりやであるということで、自分の無闇に見せてはいけない部分を逆に見せびらかすかのような服装に、どうしても直視ができなくなってしまっていた、というのがある。




妹の羽月に対しても、いくら兄妹だと言っても決して自分の肌を気安く見せることもなく、かといって羽月に自分の前でその肌を晒すこともさせないでいる涼羽。


加えて、美鈴やクラスの女子達にも、常に男である自分にそんなに気安く抱きつくなんて、などということを言い聞かせようとしている。




美鈴やクラスの女子達は、そんな積極的アピールはしてくることはしてくるが、今ここにいる女子達のように、決して自分達の肌を気安く晒したりするような真似はしない。


スカートの丈こそは今時の女子高生の基準に沿ったものだが、胸元を強調するために無駄に開けておく、などということもなく、基本的には慎み深いと言える方ではある。




特に美鈴は、涼羽が無闇に自分を安売りするようなはしたない行為を嫌っていることを知っているため、決してそんなはしたない行為をしないようになっている。


幼げな容姿であっても、そのスタイルのよさは誰もが認めるほどのものであり、であるからこそ、無闇にそれを晒すなどという真似をしない、という意識が確立している。




それは、美鈴自身もそういった慎みと恥じらいをしっかりと持っているということと、そんな行為をしてしまったら、自分は涼羽に嫌われてしまうかも知れない、という危機感が常にあるから。




そんな美鈴にならうかのように、クラスの他の女子達も、涼羽にやたらとべったりとしてくることはあっても、決してそういった慎みと恥じらいに欠けた行為をしないようになっている。




そんな女子達と普段から接していて、それが当然と思っている涼羽だからこそ、ここにいる女子達の慎みと恥じらいの欠落に、むしろ驚きを隠せない状態と、なってしまっているのだ。




「え?」


「…だって…女の子が、そんな風に…胸元とか…見せちゃうような服の着方…」


「え~?今時これくらい普通だよ~」


「そおそお。むしろこのくらいしないと、男の子達が見てくれないし」


「それに、スカート短い方が可愛いし」




そんな涼羽の思いなど、この女子達に分かるはずもなく、それぞれがそれぞれの主張をけらけらとした様子で声に出していく。




「…でも…俺…」


「?なあに?」




今時こんなの普通だと言い切ってしまっている女子達だが――――








「…そんな風に気安く…自分の身体を見せちゃう人…好きになれないと思います…」








――――何気なしに返された、涼羽の言葉に、今度は女子達全員がその勢いを殺され、言葉を失ってしまう。




だが、それもほんの一瞬であり、すぐさま、そんな涼羽の言葉に反論する声が、あがってくる。




「ええ~!?なんでなんで?」


「むしろこんな風にしてる方が、今時の男っていいんでしょ?」


「こっちはこっちで、そんな男子達の声に応えてあげてるんですけど!?」




それぞれがそれぞれ、思いのままに言葉を声に出していく。


確かに、彼女達の言っていることも全く否定しきれない言葉であり、今時となっては、これくらい普通、という考え方も、あるのかも知れない。




だが、それでも涼羽は真っ向から、その反論に対して、言葉を返す。




「…だって、それって…」


「?それって?」


「…言い方を変えれば…」


「?変えれば?」








「…『男なんて、所詮下半身だけで生きてる生き物なんだ』ってことに、なると思うんですけど…」








こうして、涼羽がおどおどとしながらも、明確な意思を持って出した言葉に、今度こそ女子達全員が、言葉を失ってしまう。




「!!…」


「!!…」


「!!…」




この涼羽の意見はかなり的を得ていたようで、もはや誰も涼羽の言葉に反論できなくなってしまっている。




「…これって、あなた達がそんな風に男の人を見下してる、ってことですよね?」


「!う…」


「…そんな風な意識で男の人に見て欲しい、なんて思っても、むしろ『なんだアイツ、お高く止まりやがって』みたいなことになると思うんです…」


「!あう…」


「…それに、そんな風に簡単に自分の身体を見せられる人って、信用もされないんじゃないか、って思うんです…」


「!え…」


「…だって、それって、『自分が気に入った人になら、誰でもいい』ってことにもなっちゃうと思うんです…」


「!!!!……」


「…それって、たとえ誰かと付き合うことができたとしても、他に気に入った男の人が出てきたとしたら、簡単にその人に乗り換えちゃうことに、なっちゃうのかな、って思えて…」


「!!!!!!!!…………」


「…自分の気持ち次第でいつでも浮気しちゃう人って、僕は信用できない…そう思います…」




至極全うな、しかし非の打ち所もない涼羽の正論に、言葉を失うばかりか、その顔を青ざめさせていってしまってすらいる女子達。


ただ、自分達からすれば、こうすれば男が寄ってくる、という単純で、欲望のままに浮かんできた方法を取っているだけだったのだが…


そんな何気ないことで、こんなにも手厳しい意見を出してくる人間がいる、ということに、いかに自分達が浅はかで、考えなしだったのかを、嫌でも知らされてしまっている状態。




ましてや、それを涼羽のような、本当に他人を悪く言うようなイメージが思い浮かばない、天使のような存在に言われてしまったということで、反論など出るどころか、本当に自分達のことを反省しきりになってしまっている。




そして、なぜ同じ学校にいて、自分達のようなはしたない服装をしない女子生徒ばかりが、自分達の望む恋愛をできたりしているのかを、今この場で明確で、かつ非常に分かりやすく教えてもらえた…


そんな思いさえ、浮かんでくる。




この日、この場で涼羽から言われた言葉の一つ一つが、本当に自分達の脳天を殴りつけて、その悪い方向で固まっていた部分を叩き割ってくれた、そんな感覚さえ、芽生えてくる。




そうして、しばらく言葉も出せずに固まっていた女子達だが…


急に再起動したかと思えば、全員がまるで錬度を上げられた軍隊のように揃った動きで、部屋を出て行く。




「え?…」




そして、いきなりの女子達の行動に驚いたのか…


涼羽のそばに志郎がやってきて、涼羽に問いかけてくる。




「お、おい、涼羽…あいつらに、何か言ったのか?…」


「え?」


「なんか全員、何かにショックを受けたような顔してたぞ?」


「!そ、そうなの?」


「ああ」


「…どうしよう…そんなに悪いこと言ったのかな…」




彼女達の突然の行動の原因は自分にある、と、悪い方向で考えてしまう涼羽。


もしかしたら、このままここに戻ってこない可能性もあるのではないか。


そんな風に思い始めたところで、再びこの部屋のドアが開く。




「!…戻ってきたのか…」




そして、開いたドアから、出て行った時と同じように妙に揃った感じで、女子達がぞろぞろと入ってくる。




「?…あれ?…」




そして、涼羽が戻ってきた彼女達の姿を見て、違和感を覚える。




女子達の服装が、出て行く前と変わって、整っていたからだ。




胸元が妙に開いていた女子は、それをきっちりと閉じて、無闇に自分の肌を見せないようになっている。


スカートが妙に短かった女子は、その丈が長くなって、膝丈より少し上くらいの丈になっている。




そして、その妙に濃かったメイクも変わっており、本当に必要最低限のところだけを塗る、といった感じで、その素材のよさを活かす方向性のナチュラルなメイクに、変わっている。




変化として、本当にそれだけ、と言えるものだったのだが、たったそれだけで、見事に、と言えるほどに彼女達の印象が変わっており…


出会った当初の、だらしなく、慎みと恥じらいに欠けていた印象がウソのように消えており、しっかりとした貞操観念を持っているように見えるようになっている。




「…涼羽ちゃん…」


「!は、はい?」


「…ありがとうね。本当に」


「え?…」


「…アタシ達…本当に涼羽ちゃんに気づかせてもらえたから」


「…そうそう」


「?え?え?」




そんな女子達が、これまでのキツい印象からは想像できないほどの穏やかで優しい笑顔を浮かべて、一人ひとり、涼羽にお礼の言葉を贈っていく。




そんな彼女達の言葉に、一体何のことなのかさっぱり分からず、きょとんとした表情で、疑問符を浮かべている涼羽。




「(…なるほどな。涼羽らしいな)」




そのやりとりを見て、一体涼羽が彼女達に何を言ったのかが、おおよそながら分かってしまう志郎。


普段から、涼羽が自分のクラスの女子達に対して言っているようなことを、彼女達に言ったのだろうということが、容易に想像できたからだ。




「ね?次はアタシに歌わせてくれる?」


「!あ、ああ…いいよ」


「よかった!ありがと!」




そして、まるで憑き物が落ちたかのような、眩いばかりの笑顔を向けて、ちょうど歌い終わったところの男子に、次に歌わせて欲しいと、おしとやかな印象を浮かべて声にする女子の一人。


最初の印象とはまるで違うその女子の声に、思わずドキリとしながらも、そのまま自分が持っていたマイクを彼女に渡す。




マイクを渡した時に見せる彼女の笑顔が妙に印象的で、さらにドキリとしてしまう男子。




まるでここからが始まりと言わんばかりに、目一杯楽しもうと歌い始める女子達。


そして、そんな女子達を見て、どことなくいいな、とさえ思えてくる男子達。




「(はは…本当に涼羽は、行く先々で周囲に幸せを運んでいってるんだな…)」




何が何だか分からない表情を、その童顔な美少女顔に浮かべている親友の姿を横目に見ながら…


本当に涼羽は、周囲の人々に自ずと幸福を与えて行っている存在なんだと思え…


それが、本当に誇らしく、嬉しく思えてくる志郎なので、あった。

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