第104話 …涼羽君は、本当に可愛らしいですね…

「うんうん…今日も可愛くなったね~、涼羽ちゃん」


「うう……」




着替えも終わり、ようやくといった感じで園児達のいる部屋へと向かう涼羽。


汚物で汚れてしまったエプロンを取り替えた祥吾と…


なかなか戻ってこない祥吾を気にして、わざわざ更衣室まで出向いてきた珠江と一緒に。




今日は、自前で持ってきた、少しゆったりしたサイズの水色のジーンズと…


真っ白の無地の、ゆったりとしたサイズの薄手のトレーナーに身を包んでいる涼羽。




普通に男物なので、涼羽も着ることに抵抗などあるわけもなく…


そそくさと着替えて、園児達のいる部屋へと向かおうとしていた。




ただ、男物であることに間違いはないのだが…


身長に対して、腕が短めな涼羽であるため…


トレーナーの袖が、涼羽の手を半ばまで覆い隠してしまっているという…


俗に言う、『萌え袖』状態なのだ。




さらには、その丸みを帯びた、男にしては大きめなヒップラインのおかげで…


どう見ても、女子が男物を無理して履いているようにしか見えない状態になっているジーンズ。




そんな姿の涼羽を見て、珠江がまた、涼羽のことをめちゃくちゃに可愛がってしまっていたのは、言うまでもないことだった。




普通に男物を着ているにも関わらず…


可愛い女の子が無理して男装しているようにしか見えないため…


それがまた余計に、涼羽を可愛らしく見せてしまっていたのだ。




しかも、どうせならもっと可愛くしていこうと…


まるで着せ替え人形で遊ぶようなノリで珠江が、涼羽のその長く艶のいい、綺麗な髪を…


頭の右、そして左でそれぞれ、女の子らしいピンク色のリボンで結ってしまった。




これまた俗に言う、『ツインテール』な状態とされてしまったのだ。




そんな涼羽を、すぐそばで見ている祥吾も…




「(うん…どう見ても、可愛い女の子にしか見えないですね…本当に…)」




と、涼羽の可愛らしさに、ついついその頭をなでたくなってしまうほど。




この日はちゃんと自前で仕事着を用意することができ…


ちゃんと自身が望む男物に身を包むことができているはずなのに…




結局のところ、可愛い女の子が無理しているような着こなしが余計に涼羽の可愛らしさを映えさせることとなってしまい…




そんな涼羽を、珠江は至福の表情でより可愛らしくしてしまい…


祥吾は、そんな涼羽にその庇護欲を思う存分刺激されることとなってしまう。




「ああ~…涼羽ちゃんってば、もう本当に可愛いね~」


「や、やめてください…僕…そんなちっちゃい子供じゃないですから…」




もう涼羽が可愛くて可愛くてたまらないのか…


珠江は、この移動中ずっと涼羽にべったりと抱きついて…


その頭をひたすら、優しくなでてしまっている。




当然、涼羽がそんな扱いを好むわけもなく…


儚い抵抗を見せることとなるのだが…




そんな抵抗も、より自分を可愛らしく見せるだけである、ということに…


涼羽自身だけが、全く気づくことがない状況となっているのも、ある意味お約束。




「…涼羽君は本当に可愛いですね」




そんな可愛すぎるほどに可愛らしい涼羽に、ついにその庇護欲を抑えられなくなってしまったのか…


祥吾も、涼羽の頭を、その綺麗な髪を梳くように優しくなで始めてしまう。




「!え、園長先生まで…」


「…涼羽君は、自分がどれほどに可愛らしいのかを、もっと自覚した方がいいですよ」


「!そ、そんなこと…」


「園長先生の言うとおりだよ、涼羽ちゃん」


「!い、市川さん…」


「あんたみたいな子が、あんな無防備に道を歩いてたら、あたしゃその場でお持ち帰りしちゃう自信があるからね~」


「ハハ……私も、こんなに可愛い子供が歩いていたら、目一杯可愛がってあげたくなりますね」


「だよね~、園長先生」


「ええ」


「ぼ、僕、そんなこと…」


「だめですよ、涼羽君」


「そうだよ、あんた自分がどれだけ可愛いのかを、ちゃんと自覚しないと!」




両サイドから、まるで懇々と諭すかのように…


ひたすら涼羽がどれほど可愛いのかを語ってくる祥吾と珠江の二人。




そんな二人に、おたおたしながらも儚い抵抗をやめない涼羽。




そんな抵抗もまた可愛いのか…


祥吾は父性に満ち溢れた、優しい笑顔を涼羽に向けて、ひたすらにその頭をなで続けている。


珠江はもう、涼羽のことをよっぽど離したくないのか、ひたすらにべったりと抱きついている始末。




天然無自覚な愛されキャラを、無自覚なまま思う存分に発揮しながら…


涼羽は、ただひたすらに両側の大人達に可愛がられ…


その頬を恥じらいに染めながら、園児達のいる部屋へと、三人揃って向かうのであった。








――――








「みんな、こんにちは~」




そして、園児達のいる部屋に入った途端…


それまでひたすらに恥らっていたのがまるで嘘のように…


母性に満ち溢れた優しい笑顔になり…


可愛いわが子を包み込もうとする母親のように、園児達のそばへと寄っていく涼羽。




「あ~!りょうせんせーだ~!」


「わ~い!りょうてんてー!」


「えへへ~♪りょうちぇんちぇー♪」




涼羽が来たことにすぐに気づいた園児達の顔に、純真無垢な笑顔が浮かぶ。


そして、まさに我先にと言わんばかりに…


ぱたぱたと足音を立てながら、涼羽の元へと寄っていく。




「りょうてんてー、しゅ~ごくかわいい~♪」


「おにんぎょさんみたい~♪」


「かわいいりょうせんせー、らあいしゅき~♪」




昨日の落ち着いた感じの、それでいて女性らしい装いとはうって変わって…


この日は少しゆったりとしたサイズのトレーナーにジーンズ…


そして、昨日と同じ可愛らしいデザインのエプロン。




その長い袖が涼羽の手を半ばまで覆い隠しており…


しかも、その長く綺麗な髪をツインテールにしていて…




どこか幼さを強調させる装いが、涼羽を本当に可愛らしく見せている。




そんな涼羽がとても可愛らしくて、園児達は非常にご満悦の様子だ。




「あ…はは…あ、ありがとう…」




こんなにも小さく幼い園児達にまで可愛いと言われてしまい…


内心、非常に複雑な涼羽。




それでも、その優しい笑顔を崩すことなどなく…


自分に寄ってきてくれた園児達の頭を優しくなでてあげる。




「りょうせんせー、らっこ~」


「りょうせんせー、なでなでちて~」


「りょうせんせー、ぎゅうってちて~」




まだここで働くようになってから二日目だというのにも関わらず…


ここにいるほぼ全ての園児達は、涼羽に目一杯懐いてしまっており…


もう目一杯、といった感じで、涼羽にう~んと甘えてくる始末。




「ふふ、はいはい」




幼い盛りの可愛らしい園児達にこんな風に懐かれ、甘えてこられて…


それが本当に嬉しいのか…


優しい笑顔で、べったりと抱きついてくる女児達を優しく包み込んで…


う~んと甘えさせてしまう涼羽。




「ふあ~…ちゃ~わちぇ~」


「えへへ~…りょうせんせー…」


「りょうてんてー…ら~いちゅき~…」




涼羽にべったりと抱きついて…


しかも、涼羽に優しく包み込まれて…


それがよほど心地いいのか…


本当に幸せそうな笑顔で、よりべったりと涼羽に抱きついて、離れようとしない女児達。




「りょうせんせー…ぼくも~」


「おんなのこたちばっかり、ずるい~」


「りょうせんせー…ぎゅ~ってちて~」




そんな女児達を見ていて、うらやましくなったのか…


今度は、男児達も、涼羽に甘えてくる。




涼羽の胸の中で甘えている女児達とは反対の背中の方にべったりと抱きつき…


もう、これでもかと言わんばかりに涼羽に甘えてきてしまう。




「ふふ…可愛い」




そんな男児達も、涼羽にはとても可愛らしく見えてしまい…


自分にべったりと甘えてくれるのが本当に嬉しくて…


優しさと嬉しさに満ち溢れた笑顔を絶やすことなく、ひたすらに…


自分にべったりと甘えてきてくれる園児達を包み込んで、甘やかしてしまう。




「…ね~…りょうせんせー」


「?なあに?」




可愛い子供達にべったりと甘えてこられて、本当に幸せそうな表情の涼羽。


そんな涼羽に、一人の男児が物欲しそうな表情で声をかけてくる。


その声に、優しい笑顔のまま、優しい声を返す涼羽。




「りょうせんせー、ぼくのおねえたんになって~」


「!え?…」


「りょうせんせーに、ぼくのおねえたんになって、ず~っとぼくといっしょにいてほちいの」




幼く純真な子供らしい、真っ直ぐな願いの言葉。


舌足らずなところが余計に可愛らしく思えてしまう。




そんな男児の懇願に、思わず間の抜けた反応をしてしまう涼羽。




この男児はよほど涼羽のことが好きで好きでたまらないのか…


涼羽に、自分だけのお姉ちゃんになって、自分とずっと一緒に暮らして欲しいと言い出す始末。




「あ~!じゅる~い!」


「りょうてんてーは、あたちだけのおねえたんになるの~!」


「りょうちぇんちぇーは、わたちだけのおねえたんなの~!」


「ちがうよ~!りょうせんせーは、ぼくのおねえたんなの~!」




一人がこんなことを言い出すと、当然他の園児達も黙っていられるはずもなく…


もう涼羽のことを独り占めしたくなって…


他の園児までもが、涼羽は自分だけのお姉ちゃんになるのだ、と…


わいのわいのと主張し合う始末。




「あ、あの…先生は、みんなの先生だから…」




自分にべったりと甘えながら、自分のことを独り占めしようとする園児達に戸惑いを隠せず…


おろおろとしながら、どうにか園児達をなだめようとする涼羽。




もう、園児の誰も彼もが涼羽のことが好きで好きでたまらないこの状況。


ここでも、天然無自覚な愛されキャラを思う存分に発揮してしまっている。




ましてや、こんなにも可愛くて優しい美少女保母さんなら…


園児達が夢中になるのも無理はない、と言えるのだろう。




「おやおや…涼羽ちゃんったら…子供達にまでこんなに好かれて…」


「まだ二日目だというのに、園児達にこんなにも愛されているなんて…すごいですね」




ここにいる園児達にべったりと懐かれて…


ひたすらに愛されて、おろおろと戸惑いを隠せない涼羽。




そんな涼羽を、微笑ましいものを見る目で、頬が緩んでいくのを自覚しながら見ている祥吾と珠江の二人。




涼羽と園児達のやりとりがあまりにも可愛らしくて…


本当にいいものを見せてもらっている、というような、嬉しそうな顔をしている。




「りょうてんてー、ら~いちゅき~!」


「りょうせんせー、らあ~いしゅき!」


「りょうちぇんちぇー、ら~いちゅき!」




涼羽のことが大好きで大好きでたまらない園児達。


もうその小さく幼い身体を目一杯使って、涼羽の身体にべったりと抱きつき…


舌足らずな幼い口調で、その純粋な大好きを一生懸命に伝えてくる。




「えへへ~♪りょうせんせーのおむねのなか、あったか~い♪」




女児の一人が、涼羽の胸に顔を埋めて、思う存分にその感触を堪能している。


男子であるため、当然ながら起伏のない平坦な胸なのだが…


いいようのない柔らかさと、温かさ…


そして、本当に自分を包み込んでくれるかのような包容力と優しさ。




それら全てを、その小さい身体を使って、余すことなく堪能している。




「わたちもりょうちぇんちぇーのおむね、ちゅりちゅりしゅる~」


「りょうてんてーのおむにぇ、べったりちゅる~」




他の園児も、それに負けじと、涼羽の胸にべったりと顔を埋め…


目一杯、その幸せな感触を堪能しようとしている。




「りょうせんせーのせなか、あったか~い♪」


「えへへ~、しゃ~わしぇ~」




涼羽の背中にべったりと顔を埋めている園児達も、その言いようのない幸せな感触を…


その幼い頬を緩ませて、目一杯堪能している。




どの子供達もよほど涼羽にべったりと抱きつくのがお気に召しているのか…


とにかく涼羽の身体にべったりと抱きついて甘えて、離そうとしない。




「…ふふ、可愛い」




そんな園児達が可愛くてたまらないのか…


女神のような母性と慈愛に満ち溢れた笑顔を惜しげもなく披露し…


それを、自分にべったりと甘えてくる園児達に向ける涼羽。




こんなにも可愛い子供達にこんなにも甘えてもらえて、本当に幸せだと、言わんばかりに。




「…ふ、ふぎゃあ、ふぎゃあ…」




涼羽と園児達がそんな心温まるやりとりをしている中…


突然の甲高い泣き声。




見ると、まだ一歳にも満たない、本当に赤ん坊と言える子が…


まるで堰を切ったかのように泣き出してしまっている。




「みんな、ちょっとごめんね」




それに真っ先に反応した涼羽が、べったりと抱きついている園児達に一言断りを入れ…


その場から立ち上がり、すぐさま、泣いている赤ん坊のところへと向かう。




「お~、よしよし」




そして、その赤ん坊を優しく抱き上げ…


その赤ん坊にとって、非常に心地のよさそうなリズムで優しく揺らしながら…


その母性と慈愛に満ち溢れた笑顔を惜しげもなく向ける。




「ふふ、いい子いい子」




右腕でしっかりと抱きかかえながら、左手でその赤ん坊の頭を優しくなでなでしてあげる涼羽。


まるで、壊れ物を扱うかのような繊細で優しい手つきで。




「…きゃ、きゃ」




すると、本当に間もなく、と言った感じで…


あれほど泣いていたのが嘘のように泣き止み…


本当に嬉しそうな笑顔と声まで飛び出してくる。




そして、涼羽に抱かれているのが非常に心地いいのか…


涼羽の胸に顔を埋めるようにべったりと身体を寄せ…


その小さな手で、涼羽の胸元をきゅっと掴んでくる。




まるで、離さないでね、と言わんばかりに。




「ふふ、赤ちゃんって可愛い」


「きゃ、きゃ」




自分にべったりと、嬉しそうに甘えている赤ん坊を見て、本当に幸せそうな涼羽。


そんな涼羽を見て、本当に嬉しそうな赤ん坊。




結果的には、涼羽を赤ん坊が独り占めする形になったこの状況。


それが分かっているのかいないのか…


ますます、その笑顔が嬉しそうなものになっていく。




「すごいですね…あの子、一度泣いたらなかなか泣き止まないはずなんですが…」


「ええ、涼羽ちゃんがあんな風にあやすと、すぐに泣き止んじゃうんですよ」


「あの子も、よほど涼羽君のことが好きになっちゃったんですかね」


「でしょうね~」




自分達だと、本当にあやすのに苦労する赤ん坊なのに…


涼羽だと、こんなにもあっさり泣き止んでくれるという…


その光景を初めて目の当たりにする祥吾は驚きを隠せない。




珠江も、昨日一度それを目の当たりにしているとはいえ…


やはり、まだ驚きの方が強く出てしまっている。




結局、涼羽がどれほどに幼い子供に好かれる人物であるのか…


それを、実際に目の当たりにしていると言える光景。




そんな涼羽に、祥吾も珠江も笑顔を絶やすことなく…


優しい眼差しを、送り続けている。








――――








「りょうせんせー、ごほんよんで~」


「ふふ…どの本?」


「これ~」




一人の女児が、涼羽のところへ一冊の絵本を持ってとたとたと駆け寄っていく。


そして、持ってきた本をはい、と前に出しながら、読んで欲しいとお願いしてくる。




そんな女児に、優しい笑顔を崩さないまま、了承の意を、首を縦に振ることで表す涼羽。




「じゃあ、読んであげるね」


「わ~い」




女児の手から、絵本を受け取る涼羽。


読んであげる、という涼羽の優しい声を聞いて、女児からは喜びの声が上がってくる。




「わたちもききた~い」


「あたちも~」


「ぼくも~」




涼羽が絵本を読んでくれる、ということを聞いて…


他の園児も我も我も、といった感じで集まってくる。




「むかしむかし、あるところに――――」




非常に優しく、耳当たりのいい声が、その場に響いていく。


それでいて、絵本に書かれている場面場面で、その情景を表現するように、口調や声も変えていく。




まるで本当に、自分達がその絵本の世界にいるかのような錯覚を覚えながら…


園児達はその大きな目をキラキラと輝かせ、食い入るように涼羽の語りを聞いている。




「おじいさんと、おばあさんは――――」




聞き手である、自分のそばに集まってきている園児達にちらちらと視線を送りながら…


その優しい笑顔を崩さず、非常に臨場感のある語りを続けていく涼羽。




一言も発することなく、じっと涼羽の語りに耳を傾けている園児達。




よほど、その語りから聞こえてくる童話の世界に夢中になっているようだ。




多くの園児達に囲まれて、嬉しそうに絵本を読む涼羽の姿は…


本当に、わが子に絵本を読んであげる母親のような姿で…


その母性と慈愛を惜しげもなく披露し…


優しくも愛らしい笑顔で、子供達が食い入るように自分の語りを聞いている姿を見つめている。




「…涼羽君、あんなに可愛いのに…本当にお母さんみたいですね」


「ええ…あの子、園児達を本当の子供みたいに優しく、温かく包み込んで…どう見てもお母さん、って感じにしか見えないんですよ」


「これだけ多くの子供達が、こんなにもすぐに懐いてくれるのが、よく分かります」


「もう、どの子も涼羽ちゃんのことが大好きで大好きで…昨日は帰る時もむずがって、涼羽ちゃんから離れようとしない子もかなりいたんですよ」


「そうでしたか…子供達にとって、本当に優しいお母さんみたいな、可愛いお姉さんなんですね、涼羽君は」


「ふふふ…あれで本人男だなんて言ってるんだから…どう見たって童顔で可愛らしい女の子にしか見えないのに」


「男の娘なのは本当だとしても…やっぱりどう見ても女の子にしか見えませんね」


「迎えにきた保護者の方々も、誰一人涼羽ちゃんが男の娘だなんて、気づきもしませんでしたからね~」


「ですよね…」




子供達に優しく絵本を読んであげている涼羽を見て…


祥吾も珠江もその顔に微笑ましい、といった感じの笑顔が浮かんでいる。




こんなにも優しくお母さんみたいに…


どの子供にも分け隔てなく接することができ…


それでいて、幼げで可愛らしいその容姿…




子供達に懐かれる要因しかない涼羽に、まさにこの仕事は天職だと思えてしまう。




これで本人は男だと必死に主張しているのだから…


一体、どの口がそんなことを言っているんだ、と思ってしまう。




子供達に絵本を読み聞かせている涼羽が本当に幸せそうで…


涼羽に絵本を読んでもらっている子供達も、本当に嬉しそうで…




この光景を見ているだけでも、本当に心が癒されてくる。




「――――しあわせになりました、とさ」




涼羽の絵本の読み語りも、ここで終わりを迎え…


手に持っている絵本をぱたんと、閉じてしまう。




「どお?これでよかった?」




優しい、それでいて可愛らしさ満点のにこにこ笑顔を惜しげもなく園児達に向け…


こんな感じでよかったのかと、問いかけてみる涼羽。




「うん!りょうせんせー、あいがと~!」




絵本を読んで欲しいとお願いした女児が、本当に嬉しそうな表情で涼羽にべったりと抱きついてくる。


その胸に顔を埋めて、そこにマーキングするかのように顔をすりすりとしてくる。




「ふふ…どういたしまして」




そんな女児が可愛くてたまらないのか…


自分の胸の中の小さな身体を壊れ物を扱うかのように優しく抱きしめ…


その頭を、これまた繊細な優しい手つきでなで始める。




「りょうてんてー、あいがと~!」


「りょうせんせー、すっごくおもちろかった~!」


「りょうちぇんちぇー、すっごくたのちかった~!」




他の園児達も、涼羽の語りがすごく良かったようで…


次々と、絶賛の言葉を、その舌足らずな可愛らしい口調で贈ってくる。




そして、我も我もと言わんばかりに…


涼羽の身体にべったりと抱きついて、うんと甘えてくる。




「ふふ、みんなが楽しんでくれて…よかった」




自分にとって、可愛くてたまらない園児達に楽しんでもらえたことで…


涼羽の顔には、優しいにこにこ笑顔が絶えず浮かんでいる。




自分にべったりと抱きついて甘えてくる園児達を優しく包み込むように抱きしめ…


一人一人、慈しむようにその頭をなでる。




「えへへ~…りょうてんてー…ら~いしゅき~」


「りょうせんせー…もっとちて~」


「りょうちぇんちぇー…らあ~いちゅき~」




園児達も、涼羽に優しく包み込まれるのが心底嬉しいようで…


それぞれの幼い顔に、天真爛漫で嬉しそうなにこにこ笑顔が、絶えず浮かんでいる。




「りょうてんてー、わたちのこと、しゅき~?」


「りょうせんせー、あたちのこと、しゅき~?」


「りょうちぇんちぇー、ぼくのこと、ちゅき~?」




涼羽にべったりと甘えたままの状態で、園児達が問いかけてくる。


自分達のことを、涼羽は好きでいてくれているのか、と。




そんな園児達に、涼羽が嫌い、などと言うはずもなく…




「ふふ…先生み~んな大好きだよ」




慈愛に満ち溢れた優しい笑顔で、大好きだと、園児達に返す涼羽。




そんな涼羽の言葉を聞いて、園児達は…




「えへへ~、うれちい!」


「りょうせんせーが、しゅきっていってくえた~!」


「わ~い!りょうちぇんちぇーが、ちゅきっていってくえた~!」




無邪気に、天真爛漫にはしゃいで喜んでしまう。


そして、ますます涼羽にべったりと抱きついて、思う存分に甘えてしまう。




もう絶対に、離したくない。


そんな思いを、その小さく幼い身体で表現するかのように。




「なんかもう…見てるだけで心が癒されてくる感じですね」


「あんな風に園児達に接してくれるから、園児達ももっともっと涼羽ちゃんのことが大好きになっていくんですよね~」


「お母さんみたいに優しくて、お人形さんみたいに可愛らしいお姉ちゃん…って感じですよね、涼羽君は」


「ですね~。あの子あれで男の娘だなんて…神様もほんと罪作りなことをしてくれたもんですよ」


「園児達もそうですけど、涼羽君も本当に可愛くて…見てると、なんでもしてあげたくなっちゃうんですよね」


「園長先生なら、絶対にそういうと思ってましたよ。実際、あたしもそうなんですから」


「おや、市川さんもですか」


「ええ」


「本当にいい子が、ここで働いてくれるようになって…私は幸せ者です」


「もう毎度のことになってますけど…本当、園長先生の人を見る目には、驚かされるばかりですよ」


「私としては、ただ、なんとなくなんですけどね…」


「だから、余計にすごいんですよ」


「そうなんですか?」


「ええ、そうなんです」


「ハハ…そう言われちゃうと、どう返していいのか…」




まだ二日目ではあるが…


本当に、園児達の心を鷲掴みにしているかのように懐かれている涼羽を見て…


祥吾も珠江も、本当に心が癒されるように思えてしまう。




そして、祥吾はその父性を…


珠江はその母性を…


涼羽に対してとことんくすぐらされることとなっており…




もうどこからどう見てもいい子としか言いようのない涼羽が、ここで働いてくれることに…


祥吾は、一経営者としても、一人の人間としても本当に幸せを感じている。




珠江は、自らのその目で、常に貴重な人材を見つけてくる祥吾の人を見る目に…


本当に驚かされ…


そして、本当にすごいと、思わされてしまう。




そんな二人に、温かく微笑ましい眼差しで見守られながら…


涼羽は、その母性と慈愛を惜しげもなく発揮し…


園児達を目一杯、包み込んで甘えさせていくのであった。

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