第89話 ふう…終わった…

「いや~、この保育園にこんなに可愛いお嬢さんが保母さんとして来てるなんて…」

「いえ、そんな…」

「おお…そんな風にテレた顔も、初々しくて本当に可愛らしい…」

「あ、あの…」


秋月保育園の、保護者が園児を迎えに来る時間帯もピークに到達。

すでに、結構な数の園児が保護者に連れられて自宅に帰宅。

もう残っている園児も少なくなってきている。


そして今…

この日から学生アルバイトとして来ている新顔の涼羽に対し…

ここの園児の保護者の一人で、とある園児の父親となる男性が…

もうまさに、好みの異性を見つけたと言わんばかりに、涼羽のことを褒めたてる始末。


当の涼羽は、女性として褒められても正直困ってしまうだけであり…

ただひたすらにその顔を恥じらいに染め…

相手の顔も見ることができず、俯いてしまっている状態だ。


可愛らしさの塊のようなその童顔な美少女の、そんな恥らう仕草にもう鼻の下が伸びてしまっている保護者の男性。

この日は妻が買い物のため外出しており…

さらには、偶然友人と出会って、少しお茶してくるという連絡があったため…

しぶしぶといった感じで、この保育園に仕事帰りに足を運び…

今は本当に可愛い盛りのわが子を迎えに訪れたのだ。


そこで、もう見ているだけで目の保養になるであろう美少女保母さんが、この日から来ていることを知り…

それまでの下降気味な気分が一瞬にして上昇してしまい…

もう、涼羽がおたおた困っているのも気にせず、ひたすらに声をかけている状態なのだ。


「で、涼羽ちゃんだっけ?学生アルバイトって言ってたけど、今、いくつなの?」

「え、えっと…今年で十八歳の、高校三年生です…」

「!うっそ!マジで?正直中学生くらいだと思ってたのに、俺!」

「うう…」

「わ~、もうホント可愛いね!涼羽ちゃん!君みたいな子がこれからここで働くってんなら、俺、毎日でも子供迎えに来るよ!」

「あ…は、はい…」


もはやどう対応していいのか分からない涼羽に、ひたすらテンションを上げてちょっかいをかけていく男性。

結婚が早かったのもあり、現時点では二十五歳という若い年齢。

しかも、結婚してからは一応落ち着いてはいたものの、基本的には女の子が大好きな性格。

そのうえ、年下が好きな傾向にあり、涼羽のような現役の高校生…

それも、こんな美少女な女子高生は、彼の好みドストライクなのだ。


そんな、彼の好みドストライクの美少女な容姿の涼羽がたまらなく可愛くて…

結婚してなければ、本気でお付き合いをお願いしたいと思うほど…

彼は、涼羽に首っ丈の状態となってしまっていた。


ここに子供を迎えに来てから、もう二十分が過ぎようとしている。


が、一向に子供を連れて帰る様子を見せず…

ただひたすら、涼羽にしつこく絡んでいる状態。


子供の方は、自分の父親にしつこく絡まれている涼羽にべったりと抱きついており…

待ちくたびれた、という様子もなく…

自分の父親に絡まれている状態で、優しく抱きしめて頭を撫でてくれる涼羽にひたすら、べったりと甘えている。


園児を迎えに来る保護者は、男性もそれなりに多く…

この日、ここに自分の子供を迎えに来た男性の保護者達は皆、ここで新たに働くこととなった美少女保母さんに心奪われ…

子供が見ている前で、ナンパ紛いのことをしてしまったりするなど…

あっという間に、この保育園のアイドルのような扱いになっていってしまっている。


なので、こうして涼羽にちょっかいをかけてくる男性の保護者は一人や二人でなく…

すでに、結構な人数の男性が、涼羽のファンになってしまい…

これからは、男性保護者が迎えに来る頻度も多くなりそうな雰囲気になってしまっている。


「あ、あの…」

「ん?なんだい?涼羽ちゃん?」

「も、もうそろそろ帰らなくても、大丈夫なんでしょうか?…」

「あ~、いいのいいの!どうせ女房は友達と出かけてるから、そんなすぐには帰ってこないし…」


そういう問題ではない。


思わずそう言ってしまいそうになるのを、懸命に堪える涼羽。

涼羽自身、自分はここに男にナンパされに来ているのではない、と思っているから、なおのこと。


園児の迎えに、男性の保護者が来る度にこんな調子で…

そのせいで子供達をおざなりにしてしまっているような感じになってしまい…

するべき仕事がきちんとできていないことに、申し訳なさすら感じてしまっている。


ましてや、どんなに美少女な容姿でも、涼羽は男なのだから。


男が男にナンパなどされても、まったくうれしくもない。

それどころか、非常に不愉快なのだから。


しかし、相手はお客様なのだから。


それを必死に自分に言い聞かせ、どうにか失礼のないように応対している。

といっても、もうひたすら困っているだけなのだが。


「はいはい、お子さんが待ちくたびれてますよ」


そんなところにかかる、やんわりとしながらも、少し棘の入った声。


さすがに見ていられなくなったのか、珠江がこの不毛な状況を終わらせようと、動く。

もうこの日は、何度こうしたことだろうか。

内心、そんなうんざりとした心境も抱えながら…

この日来たばかりの、とても可愛らしい…

それも、健気で真面目なアルバイト。


これから、ここの重要な戦力になりうるであろう、本当に貴重な人材。


もうすでに、何人もの男性保護者に言い寄られる形となってしまっている涼羽。

今この中で、唯一涼羽が男の子だと知っているだけに…


いつまでも、同性に言い寄られているような状況が続けば、精神的に相当な疲弊を負ってしまうだろう。


そう思い、最初のうちは涼羽にまかせながらも…

どうすることもできない、と判断したらすぐに釘を刺すかのように声をかけ…

できるだけ、涼羽の負担を減らすように減らすようにしているのだ。


「(あたしが面白がって、涼羽ちゃんに女の子の格好させちゃったのも、原因だしね…)」


そもそもが、自分が涼羽に女装させて、女の子としてお披露目をしてしまったことにある。

その点で負い目があることもあり、珠江は思考を改めることにした。




――――この子はどんな格好してても絶対に言い寄られてしまうだろうから、そういう輩からしっかりと護ってあげないと――――




まさに、可愛い娘を変な男から護る、と言った感じの思考。

実際、涼羽のことが可愛くて可愛くてたまらないというものあるがゆえの思考。


だからこそ、この可愛すぎる童顔美少女な容姿の男の子を…

もうすでに即戦力とさえなっているこの新人アルバイトを…


変な虫がつかないようにしっかりと護ってあげないと。


珠江の中で、そんな使命感が芽生えた瞬間でもあった。


「え~…いいでしょ~別に。もうお迎え待ちの子供も少ないし、そのうち親御さんも来ますって」

「その親御さんが来るまでは、子供達の保育をさせて頂くのが、私達の仕事ですので」

「(ち、融通の利かねえオバサンだな~…)いやいや、このくらいなら、市川先生だけでも十分でしょ?」

「その子はうちの新人アルバイトです。なので、しっかりと仕事を覚えてもらわないといけませんので(はっきりいって、ナンパ目的で来られても困るんだよね~…)」


執拗に食い下がる男性の言を、一つ一つピシャリと切り捨てていく珠江。

はっきり言って、涼羽をナンパする目的で迎えに来られても、迷惑以外の何物でもないのだから。


「いやいや、最初から根つめたらすぐにバテますって。こんな風に息抜きも必要ですよ。ね?涼羽ちゃん?」


仮にも、一児の父親とは思えない軽いノリの発言。

もともとが面倒ごとを嫌い、そういうことは常に人任せな人生を謳歌してきた彼。

それゆえに、珠江のようなやるべきことをしっかりとやる、という意識が、理解できないようだ。


子供のことは可愛いとは思ってはいるものの…

かといって、それと自分が面倒ごとと向き合うかどうか…

そして、今目の前にある楽しみごとをパッとやめられるかは、別物だという思考。


家庭でも、子育てに関しては妻にまかせっきりな状態であるがゆえに…

人の親としての自覚に少々、いや多大に欠けていると、いわざるを得ない。


しかし、そんな彼の飄々とした軽いノリの言葉に、涼羽の顔つきが変わる。


「…申し訳ございません。私、本当に不器用で、要領も悪いものですから…一つ一つをちゃんと覚えていかないと、ちゃんとお仕事ができなくなっちゃいます」

「え……」

「なので、市川先生にしっかりと教えて頂いて、市川先生にご負担をおかけしないようにしていかないと…」

「い、いやいや…だからって何も初日から…」

「初日だからこそです。最初が肝心だという言葉もありますし…それに私は、やるべきことをちゃんとやる、という人が、本当に尊敬に値する人だと、思ってますので…」


これまで、おたおたと恥じらいながら困っているだけだった涼羽の、真剣な表情、そして言葉。

清楚で可憐で、その上非常に真面目で控えめな涼羽のそんな言葉。


さすがに、これにはナンパ目的の男性も、何も言葉が出てこない。


「それに、早くお子様と一緒にお家に帰ってあげた方が…」

「………」

「子供って、やっぱりお父さんとお母さんと一緒にいられる方が嬉しいと思いますから…」

「………」


あくまで控えめに、それでいてしっかりとした、涼羽の言葉。

それを聞いて、ナンパにご執心だった男性の雰囲気も、変わる。


こんな、まだまだ子供と言えるような、年下の女の子が、これほどにしっかりとした思いで仕事に取り組もうとしている姿。


それを見ていると、なんだか、いい加減で適当な自分がみっともない、とさえ思えてしまう。

仮にも、人の親とまでなっているだけに、なおさら。


そう思うと、なぜだか妙な居心地の悪さまで感じてしまう。

なんでそんなことを感じてしまうのかは、分からない。


でも、これだけは言える。




――――これ以上、この娘にチャラチャラとした接し方をしたら、絶対にあきれられてしまう――――




女の子にそう思われてしまうのは、格好が悪くてたまらない。


そう思うと、まるで自分の手が別に意思を持っているかのように、涼羽が抱きかかえている自分の子供を、そっと抱きかかえている。

待ち切れなくて、疲れて眠ってしまったわが子を。


可愛い寝顔を晒しながら眠り続ける自分の子供をしっかりと抱きかかえると、改めて涼羽の方へと向き直る。


「…いや~、ごめんね、涼羽ちゃん。お仕事の邪魔しちゃって」

「!いいえ…そんな…」

「こいつも待ちきれなくて寝ちゃったから、早く家で寝かせてあげないと。だから帰るね」

「…ふふ、そうですね」

「じゃ、市川先生も、お邪魔しました」

「いいえ、では、お気をつけて」

「どうもどうも。それじゃまた~」

「お気をつけて」


先ほどまで、執拗に涼羽に絡んでいたのが嘘のように…

すやすやと眠る子供を抱きかかえて、なんともいえないような笑顔で…

静かに、自分の子供と一緒に、男性は教室を後にした。


「…ふ~…」


もともとが人見知りなこともあり…

さらにはアルバイト初日で緊張感もピークにあるため…

さすがに疲れたのか、溜息が一つ、漏れ出てしまう涼羽。


そんな涼羽の頭に、そっと手が置かれ…

優しく髪を梳くかのように、撫でられる。


「?市川さん?」

「いや~、よかったよ涼羽ちゃん」

「?何がですか?」

「あんたが本当に謙虚で真面目で…本当にいい子だっていうのが、また見れたからね~」

「!い、いえ…そんな…」


いきなりの珠江のお褒めの言葉…

そして、本当にわが子にするかのような、優しい撫で撫で…

それらを受けて、涼羽の顔がまた、恥じらいに染まってしまう。


「あ~、本当に可愛いね~、あんたって子は~」


褒められて、撫でられてついつい恥ずかしがってしまう涼羽があまりにも可愛くてたまらず…

またしても、珠江は涼羽をぎゅうっと抱きしめて、実の子に愛情を注ぐかのような扱いをしてしまう。


まるで、ここの園児にするような扱いを。


「い、市川さん…僕…」

「はいはい、男だってんだろ?」

「!そ、そうです…」

「男でも女でもどっちでもいいんだよ。こんなに可愛かったら、そんなの関係ないね」

「!そ、そんな…」

「あ~、本当にいい匂い…それに抱き心地もいいし…なんか、幸せだね~」


母親が可愛いわが子を可愛がるかのような珠江の愛情表現。

それが恥ずかしくてこそばゆい涼羽。


照れの方が強く感じてしまい、どうしても恥じらいに頬を染めてしまうその仕草。

それがまた、珠江の心を掴んで離さないことになってしまう。


見る者の心を掴んで離さない涼羽のアルバイト一日目も、そろそろ終了の時間を迎えようとしている。

お迎え待ちの園児も残り数人のこの状況。


そのお迎えの保護者が来るまで、そう時間はかからなかった。




――――




「ふう…これで今日は終わりだね」


残った園児達も、お迎えの保護者が来訪し…

最後の園児をお見送りして、この日の営業も終了となった。


現在の時刻は、十七時半過ぎ。


業務後の後始末の作業として、珠江と涼羽の二人で、教室の清掃をしているところだ。


涼羽は、普段から自宅でやっているように…

しっかりと、それでいて手際よく清掃に取り組んでいる。

初日からさまざまなことがあったこともあり、妙に疲れはあるものの…

それも、就労後の心地よい疲れのようで…

その表情は、疲労の色よりも、この日一日をやり切れた喜びの色の方が濃く出ていた。


「(ふ~ん…涼羽ちゃんは、掃除の手際もいいねえ…園長から、日頃の家事全般全部一人でやってるって聞いてたけど、こりゃあ、大したもんだねえ)」


珠江の方は、教室内の清掃に励む涼羽を見て…

その手際のよさに思わず感心してしまう。


秋月園長から、涼羽が普段から家事全般を一人でしていることを聞いていたものの…

それがどのくらいのお手並みなのかまでは、さすがに分からなかった。


掃除だけではあるが、実際にその手際を見て、十分に太鼓判を押せるものだと分かり…

涼羽を見つめるその眼差しが、温かく微笑ましいものとなっている。


「ふう…こんな感じ、かな?…」


そんな珠江の眼差しに気づかず、一つ一つを確認しながら、てきぱきと清掃に励む涼羽。

今は、おとなしめのデザインのトレーナーとスカート…

それと、可愛い感じのエプロンに身を包んでいることもあり…

もうまさに、せっせと家事にいそしむ甲斐甲斐しい新妻のような姿となっている。

しかも、異性に媚びた感じなどなく…

それでいて、同性に嫌われるような雰囲気などもなく…

もうとにかく、人に好かれる雰囲気しか出ていないのだ。


これなら、あれだけ男達に言い寄られてもおかしくない。

これなら、あれだけ保護者の女性達に可愛がられてもおかしくない。


やはり、涼羽が可愛すぎるから、みんな可愛がったり、言い寄ったりしてくるのだ、と。

珠江は、思わずにはいられなかった。


「さ、涼羽ちゃん。今日はもう、あがっていいよ」


清掃も一通りが終了の状態となり…

教室内も綺麗になったそのタイミングで、珠江が涼羽に声をかける。


この日の就業は、終わりだという合図の声を。


「あ、はい。分かりました」

「いや~、初日からいろいろと助かったよ、涼羽ちゃん」

「そうですか?…それなら、よかったです」


初日からほぼ全ての園児に懐かれ、保護者の受けも非常によく…

さらには、掃除の手際も非常によく…

珠江としては、本当にありがたい存在となっている涼羽。


そんな涼羽に、嘘偽りのない、まっすぐなお褒めの言葉を贈る。

そんな珠江の言葉に、ホッとしたような安堵の表情を浮かべ、その後に、その言葉に対する嬉しさが、表情として出てきた。


「明日からも、この調子でよろしくね、涼羽ちゃん」

「はい…まだまだ分からないことばかりなので、よろしくお願いします」

「いやいや、涼羽ちゃんならすぐにここの仕事に慣れるよ。大丈夫」

「ふふ…ありがとうございます」


蓋を開けてみれば、期待以上の働きをしてくれた涼羽に対し、さらなる期待を込めて声をかける珠江。

そんな珠江の言葉に対し、あくまで謙虚に受け止め、かけらも増長する素振りを見せない涼羽。


この一日で、珠江の涼羽に対する信頼感は確固たるものとなり…

お互いに、ふわりとした笑顔で話し合えるほどになっていた。


「さ、着替えておいで、涼羽ちゃん」

「はい。あ~…やっと着替えられる…」

「ふふ、なんだい。やっぱりその服は嫌だったのかい」

「僕、男ですから…やっぱり女性ものは…」

「ここで仕事してる間は、そんな感じぜんぜんなかったのに?」

「あ、あの時は仕事に集中してて、そんなこと考える余裕がなかっただけです…」

「あんた、本当に真面目だねえ…」


仕事も終わり、ようやっと着替えられるということで、涼羽から安堵の声が漏れる。

そんな涼羽の言葉に対し、少しからかうような口調の珠江。


しかし、嫌なはずの女性ものの衣類に身を包みながらも…

そんな素振りを見せることもなく、仕事に集中し続けていたということに…

珠江はまた、涼羽に対して感心の言葉を音にする。


「明日からは、ちゃんと自分用の着替えを持ってきます」


さすがに女性ものの衣類で仕事を続ける気はないのだろう。

翌日からは、必ず自分の衣類を持ってくると宣言する涼羽。


「え~~~~?…」


だが、そんな涼羽の言葉に、珠江は不本意といわんばかりの声をあげてしまう。


「ど、どうしたんですか?」

「せっかくなんだから、ここで仕事する時は女の子の格好しなさいよ」

「そ、それは勘弁してください…」

「あんなにも可愛いんだし、子供達も、保護者の方々にもすごく受けがよかったんだからさ~」

「それでも、勘弁してください…」


まるで駄々をこねる子供のように、涼羽にこれからも女装することを強要してくる珠江。

さすがにこれからも女装は勘弁と、やんわりとではあるが、断固拒否の姿勢を崩さない涼羽。


「まあでも、この一日で、その女の子の格好で通しちゃったから、みんなあんたのこと、女の子としか思ってないよ」

「!そ、それは…」

「それに、なんだいあのモテっぷりは。男共みんな、あんた見た途端にあんたに言い寄ってたじゃないか」

「そ、そんなの、僕知らないです…」

「唐沢さんなんか、もうあんたが可愛くて可愛くてたまらない、って感じだったし」

「ああいうのは、正直心臓に悪いです…」

「子供達も、み~んなあんたのこと、女の子だと思っちゃってるからね~」

「うう……」


結局のところ、状況に流されて嫌々ながらに女装してしまい…

それで園児達や保護者達と面通しをしてしまったため…

今のところ、秋月園長とこの珠江を除いては…

ここの関係者は全て、涼羽のことを女の子としか、認識していない状態なのだ。


なので、今更涼羽のことを男の子だと言うには、状況が悪すぎる、というのはあるのだ。


「まあ、さすがに男の子に毎回スカートはあれだから…ズボンでもいいけどね」

「!本当ですか?」

「その代わり、ズボン履くならレディース限定!」

「!そ、そんな…」

「もし男物だと分かるような服装だったら、あたしが今日の服装に無理やり着替えさせてあげるからね!」

「!そ、それはあんまりです…」

「それが嫌だったら、ズボンもレディース限定!あんたはそんなの持ってないだろうから、ちゃんとあたしが用意したげるからね」

「!そ、そんなあ…」


珠江は、涼羽を女の子として通す気満々の様子。

あくまで、ズボンでも女性ものの衣類でないとだめだと、涼羽に突きつけてくる。


結局のところ、女装からは逃れられない状況となってしまった涼羽。


自分の言葉に、がっくりとうなだれてしまう涼羽を見て、また頬を緩めてしまう珠江。

やはり珠江としても、涼羽には可愛い女の子の服装を着てもらいたいという思いで、いっぱいということなのだろう。

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