20話目 ミャンマー マンダレー2

マンダレーに着いた僕らは旅の疲れを癒すため、まずはゲストハウスのしなびた屋上でダラダラ過ごすことにした。


「いやあ素晴らしい。これぞ旅の醍醐味だ」


マンダレーでの僕の旅の同行者、自称教師のカワセさんは無精ヒゲを生やした満面の笑みでそう言った。片手にはゲストハウスの売店で買った謎のジュース。そして煙草。


「まったくです。いい気持ちだ」


僕も同じ様なスタイルで二人とも汗だくになりながらバケツに水を溜め足を突っ込み涼をとっていた。ミャンマーもタイと同じ、晴れの日は暑い。そして湿気が凄い。


「いやしかし良かった。あなたが私の提案に賛成してくれて。内心ビクビクしてたんです」


「どうしてです?」


「いやね。せっかくの海外なのにゆっくり休もうだなんて年寄り臭いこと言ったら若い人に怒られちゃうかなと思って」


僕はカワセさんの言葉に驚いていた。少年の様に素直でひょうひょうとした彼は僕より一回りも歳上なのに全く偉ぶるところがなく、むしろ頼りないくらいだと思っていた。それが実はこんなことを考えていたなんて。以外に気を遣われているんだなと思った。


「いや、全然気にしないでください。僕ももう26ですから。体力もある方じゃないから休み休み行きいたいのが本心です」


僕がそう言うと、彼もまた笑うのだった。


僕らは歳は離れていたが、案外いいコンビだった。


「しかしまあ今日一日中ここでボケっとしてるのもアレですから。昼飯を食ってひと休みしたら例の『日本語の上手いミャンマー人女性』を探しましょうか」


「日本語の上手いミャンマー人女性」とは、前回逗留していたバガンにいた同じく日本語の上手い怪しいオッさんであるケニー(仮)が訪ねろといった人である。


「マンダレー行くなら彼女探しなさい。日本語ウマイ、チョー親切、チョーイイ人」


という触れ込みだった。彼女の名前はジョジョさん(仮)だそうだ。外国人のいうチョーイイ人が信用にたるかどうかは別として、僕らはひとまず昼飯ついでに彼女を探すことにした。


僕とカワセさんは昼飯を食べようとゲストハウス周辺をウロついていたが、目ぼしい店がなかったので、仕方なく諦めて先にジョジョさんを訪ねることにした。


「その人に会って、美味しい店を紹介してもらいましょう」


カワセさんの案に僕も快く同意した。


カワセさんが僕よりも格段に地図を読むのが上手かったので、ジョジョさんの住まいはすぐ見つかった。もしもケニーのメモが合っているのならば。である。


今考えると随分酔狂なはなしだが、僕らは会ったこともない女性を訪ねた。


インターフォンを押す。


「ハロウ?」


女性と思しき声がした。一応そこそこに英語が喋れるカワセさんが、バガンのケニーの紹介でジョジョさんなる人を訪ねてきた旨を伝えた。驚いたことに彼女は実在しており、しかも今インターフォンで応対してる人が本人だというのだ。


僕らはこの幸運に戸惑った。どうせいないと思っていた人が実在する。しかし僕らはただの暇な旅人だ。用事なんてあるわけない。訪ねること自体が目的だったのだ。


僕らは顔を見合わせてどうしたものかと戸惑っていた。すると彼女が、とにかくこれから着替えるから近くのカフェで待っていてほしいとインターフォンで伝えてきた。僕らはすぐさまそれに合意し、カフェで作戦会議をすることにした。


カフェと言われたものの、そこはミャンマーらしい小汚いスタンドバーのような場所だった。僕らは日陰のテーブルを選んで座る。ものすごく甘いコーヒーを注文する。


「どうします?」


「どうしますかね」


僕もカワセさんもどうしていいか分からない。


「とりあえず、何かオススメの場所でも聞いてみますか?私が聞いてみますよ」


こういう時、僕は英語が話せないのでカワセさんの存在が大きい。


やがて、ジョジョさんと思われる女性が小走りにカフェにやってきた。60を少し過ぎくらいの年齢でかなり痩せていたが、目鼻立ちがハッキリしていて昔はさぞモテたろうなと思った。よほど焦っていたらしく、髪は乱れていたしとにかく汗だくだった。


「ハロウ。ナイストゥーミーチュー」


だけど彼女の笑顔は眩しく、とても素敵だった。


続く


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