いじめっこですが復讐されそうなので変装したら好かれてしまった
とりのはね
一日目
第1話 あいつが帰って来る
え。うそでしょ!?
あたしは幼馴染がもたらした事前情報に驚きを隠せなかった。
なにかの間違いではないのかと思い、おそるおそる聞き返してみる。
「西園寺のやつが……こっちに戻って来たの!?」
「ああ。今しがた職員室で見かけたんだが、別人かと思うぐらいに見違えてたぞ。お前、やばいんじゃないか。ここぞとばかりに復讐してくるかもな」
「なっ……! い、言っとくけど西園寺をいじめてたのは、あたしだけじゃないからね。たしかヒガシ、あんたも相当絡んでたはずじゃんっ」
悔しまぎれに反論してみるが、相手はまったく動じる気配がない。
それどころかあたしを指差して泰然と言い放った。
「フッ、甘いな鈴木静。なんといっても主犯格はお前だ!」
「ガーン!」
容赦のない事実を突きつけられて、力の抜けたあたしはガックリと机に突っ伏した。
……そうだ。中心になってアイツを攻撃していたのは、まぎれもなくあたしだ。
今思い返すと赤っ恥の黒歴史なんだけど、幼い頃のあたしは、この辺一帯のガキ大将だったんだ。
あの頃は大抵のことなら人並み以上にできたし、腕っ節にも自信があったものだから、思いっきり増長しちゃってたんだよね。まあ、井の中の蛙ってやつだ。
かくしてあたしは当時クラスで一番貧弱でどんくさい男子――そう、先ほど話題にあがった西園寺聖司っていうやつを、からかったりパシリにしていたんだよ。
わかってるよ。最低だよね、あの頃のあたし。
西園寺は小四の春にこの片田舎に越して来たんだけど、みんなと毛色の違う容姿にくわえ(どこだったか覚えてないけど外国の血が混じってるらしい)、何をやってもうだつの上がらないやつで、いじめるには格好のターゲットだったんだ。
些細なきっかけから始まったいじめは徐々にエスカレートしていき歯止めが効かなくなった頃、あいつは親の都合で再度転校して行き事態は終息した。
けれども、話はそれだけでは終わらなかったのだ!
西園寺が去ってからのあたしは、みるみると落ちぶれていった。
あの頃クラスで一番高かった身長はピタリと成長を止め1センチたりとも伸びなくなったし、成績はものの見事に急降下。
すべてが裏目に出る転落人生が始まったのだ……。
あたしに従っていた男子どもは徐々に離れていき、周りはあたしのことを『西園寺に呪いをかけられた』とささやきあった。
そう、あろうことか西園寺は去り際に、いまいましい捨てゼリフを吐いてったんだよ。
「この半年間、僕は苦しみ続けた。君が同じ苦しみを味わうように転校先で呪ってやる」ってね。
――――そうして4年の歳月が流れ、現在にいたる――――……
いやああああああぁぁぁああああああああああああああ。
なんで今頃になって戻ってくるんだよ、こんちくしょうめ!!!
どうする、どうする、どうしよう!?
西園寺の中でのあたしは、絶頂期だった頃で止まっているはず。したがってこんな教室の片隅でひっそりと生息している、惨めな姿を晒すのは拷問に近い。
それってどんなプレイだよ。絶対に嫌だ!!!
「あたし帰る」
カバンを手にして席を立つと、先ほどはやし立ててきた幼馴染が慌てて立ち塞がってきた。
バスケとサッカーでほどよく日に焼けた健康的な肌に、均整のとれた体躯。涼やかで端正な顔立ちを持つこの男の名前は、東知樹という。あたしはヒガシと呼んでいる。
家が近所で幼稚園の頃からの腐れ縁だったりするこいつは、あたしがガキ大将だった頃に片腕として働いてくれていた。まあ、スネちゃまポジションだったと思ってくれていい。
腹立たしいことにあたしと違って順調に年を重ねていて、今でもクラスの中での地位をちゃっかりと確立している。思えば昔から要領のいい輩であった。
「おい、一体どこに行くつもりなんだよ。もう少ししたら授業始まるぞ」
「ふんだ。あんたはいいよ、相変わらずリア充してるから。でもあたしは見てのとおり、地味で平凡な女子になっちゃったでしょ。今の戦闘力では対峙できない」
家に逃げ帰るしか道は残されてない――と苦境を語ると、ヒガシが呆れた口調でとがめてきた。
「何寝ぼけたこと言ってんだよ。今日やり過ごしたところで、明日からどうするつもりなんだ」
「それはまあ、家に着いてから考えるよ。場合によっては家にこもって自宅警備員を目指す」
「アホか。逃げんな甘えんな。大体、お前のところのおばさんがそんなワガママを許してくれると思うのか!?」
……それは無理だ。
ママはいつもにこにこしてるけど、鬼モードになったら容赦がないのだ。
きっと毎朝、家からたたき出されることになるだろう。
でも。
「だってだって、会いたくないんだよ……。絶対恨まれてるもん。今のあたしを見たらこれ幸いと馬鹿にしてきそうだし、ここぞとばかりに復讐してくるかも……。いやしてくる。違いない。だからといって昔みたいに力でねじ伏せることもできないし」
ああ、せめて筋トレだけでも続けておけば良かった!
涙目になりながらうだうだ言ってるあたしの姿を見て、ヒガシは何か思うことがあったのだろう。
「お前に一番必要なのはやる気と自信だよ」と言い捨て、「なら、一芝居うってみるか?」と、ある提案を持ちかけてきた。
かくして、あたしの偽装ライフが幕を開けたのであった。
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