Kaleido sisters

兎城宮ゆの

第1話 プロローグ

近代の文化は、歌って踊れるアイドルの競争が荒れる戦国合戦。


生き残る為には印象を得るインパクト、そして人の心を掴む笑顔という日本の芸能界のシステム。


俺がこの会社に入って、耳にタコができる程言われた主旨のようなものだ。


売れる為には手段を択ばないという風潮も些かニュース等で取り上げられている。


望まない仕事を引き受けるプロダクションも少なくはないだろう。


アイドルの気持ちなど最初から考慮していない、それ程の速さで消えては入りを繰り返している。


俺にも子供の頃、憧れてたアイドルはいた。


彼女は光輝くスポットライトの中で、一際目立つパフォーマンスと圧倒的な歌唱力で全世界を魅了していた。


彼女の作り出す世界は、人種や国の境界線を超えた『希望』というアイドル業界を活気立たせる先陣となったのは間違いないだろう。


大概のアイドルは売行きから芸能界を去る者が多いが、彼女はこれからという時期に忽然と姿を消した云わば偉人のようなものだった。


彼女に憧れてアイドル入りをする者も少なくはない。


俺がこの仕事を受けようと思ったきっかけもソレに相違はない。


アイドルにはなれないが、せめて支える側になりたいと願いココ”Altoプロダクション”通称、アルプロに入社した。


特に有名な芸能人がいるわけでもなく、入社して5年目になる今でも事務所と呼ぶには、狭い小屋のようなここにも慣れ始めてきた。


夏場はクーラーの代わりに扇風機(首が回らない)、冬場は暖房の代わりにストーブ(電気ではなく灯油型)といった現代社会では有り得ない程、旧式な物ばかりで仕事に集中出来ない日々などが続くのも毎年の事である。


そんなある日に渡された1枚のアンケート用紙。


アルプロ社員全員に渡されたアンケートには、会社への存続や売れるアイドルを作る為にはといった夢も希望もない不安の紙に社員同士、顔を合わせては苦笑いする姿が見受けられる。


俺も社員として素直な回答を書き込んだが、この1枚の紙が今後の企業発展に繋がるとは誰も思わなかっただろう。


その日を境に俺、立花 樹たちばな いつきのアイドル育成の日々が始まった。

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