初恋は猫に似ている
本間久遠
第1話 ソラの日記 十二月二十八日
とうやが日記をつけろって言うから書きます。
とうやっていうのはわたしの執事一号のこと。
(執事っていう漢字ははじめてつかったかも)
いつもブスッとしたかおをしていて、笑ったところなんて見たことない。
はじめはよっぽど仕事がきらいなのかと思ったけれど、わたしの命令はよく聞くし、いろいろ気のきくできる執事だ。
これで、はるきみたいにいつも遊んでくれるならかんぺきなんだけど、とうやはわたしみたいなこどもの相手をするのは好きじゃないみたい。
そうそう、日記の話。
わたしは字をおぼえるのがとても早くて、生まれて二か月目にはひらがなとカタカナが書けるようになった。
書くといってもとうやや、はるきみたいにキーボードを打つんじゃなくて、頭の中で文字を選んでならべていくんだけど。
それでわたしがここに来てからちょうど三か月めの今日から、日記を書くことになったわけ。
(わたしは生まれてすぐここに来たらしい)
とうやはわたしの「有用性」をしょうめいするためにこれは必要だと言った。ゆうようせいという言葉の意味がわからなかったから辞書で調べると、役に立つということだと書いてあった。
辞書には有用のはんたいの言葉で「無用」とも書いてあった。
それでさっき晩ご飯の時間に、とうやに日記を書かないと無用だと思われるの? って聞いた。
はるきはそんなことないよとすぐに言ってくれたけど、とうやはいつもよりもっと難しいかおをして、ゆっくり言葉をくぎって言った。
ソラ、きみもぼくたちも、実験動物だ。実験は、期待したけっかが出なければ、すぐに中止になる。そのためには自分が役に立つことをずっとしょうめいしていかなければならないんだ。
わたしは記憶力がいいから、とうやの言ったことをきちんと覚えていた。
「有用性」をしょうめいするていどのことなら、こんな日記をつけなくても直接わたしになんでもきけばいいのに。
とうやとはるきはこの研究所に住んでいるけど、きっともっとえらい人が実験のけっかをイライラしながら待っているんだろうと思う。
とうやとはるきは天才科学者だから、えらい人も文句を言えない。わたしはとうやとはるきよりえらいから、この日記こそ無用だと思うんだけど、えらい人はそんなことも知らないばかなのかもしれない。
ばかなんて書いたらあとでおこられるかな。まあいいや。もうねむいのでおやすみなさい。
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