06: ドラゴンとの遭遇
人探しの依頼を受けたリンは、慣れた手つきで段取りをし、精霊に指示を飛ばしていた。
後は、待ってるだけで情報が入ってくる。
ガラガラッと萬屋入り口のドアを開け放たれる。
どうやら本日二人目のお客様のようだ。
「あの、すいませんー。なんでも仕事を引き受けてくれるって聞いてきたんですが」
「こんにちは!はい、私に可能な事でしたら何でもお引き受けしますよ!」
我ながら思う。随分卑怯な言い回しだと。
可能な事ならば何でもする。ならば、可能な範囲ってどこまでなの!ってね。
でも、これがないと、流石に何でもやりますなんて現実問題不可能なのだ。
依頼主は人族の女の子だった。
「お母さんにどうしてもプレゼントしたい物があるんです」
女の子の名前はアリス。歳の頃は10歳だった。
小綺麗な身なりからするに恐らく貴族の家の子だろう。
高級感たっぷりなフリルのドレスを着用していた。
しかし、そんな子がたった一人でこんな場所まで来るなんて、余程大事な内容なんだろうとリンは思った。
「珍しい物なのかい?」
「はい、ドラゴンの鱗って言うんです」
「ふむふむ・・・って!ドラゴンの鱗ですか!」
「そうなんです・・。朝から何軒もお店とか見てみたんですけど、どこにも売ってなくて・・」
ドラゴンの鱗というのは、文字通りドラゴンから取れる鱗な訳で、ドラゴンと言えば、モンスターの中でも最強と言われている種族なのだ。
「ちなみに、なんでドラゴンの鱗が欲しいのですか?」
「えと、お母さん、錬金術士なの」
錬金術士であるアリスの母親は、万病に効くと言われているシリウスの薬を作っているそうだ。
しかし、その材料の一つであるドラゴンの鱗が手に入らずに困っていて、アリスはそんな母親の役に立ちたいと常日頃から思っていた。
アリス自身も将来は錬金術士になるのが夢で、今少しずつ勉強しているそうだ。
うーん。ドラゴンの鱗か、入手難易度的には、かなり上位のアイテムだ。
僕でさえ、そう簡単に入手出来る代物ではない。
だけど、難しい依頼ほどに燃えてくる。
「アリスさん、この依頼お受けしますよ」
「わぁ、本当ですか!!ありがとうございます!」
アリスは、満面の笑みで喜んでいた。
「少し調べますので、待っていて貰えますか」
そう告げると、リンは地の精霊ノームを召喚した。
「ノーム、この近くで竜種が生息している場所をピックアップしてくれないかい」
「竜種・・・ドラゴンですか、ドラゴンの乱獲は、この世界の調和を乱しますので、程々にお願いしますね」
「しないしない。少し鱗を分けて貰うだけだよ」
ドラゴンの存在は、それ程までに大きなものだった。
ノームは、目を閉じて手を合わせている。
そんな様子をアリスが興味深そうに眺めていた。
暫くするとノームが目を開ける。
「分かりました。ここから西に53km程行った先にグラン洞窟があります。そこにドラゴンが一体生息しているようですね。後は、100km圏内にはいません。私が感知出来るのはあくまでも地に足を着いている固体に限りますので、飛行していたら分かりませんが」
「ありがとう、十分だよ」
「お姉ちゃん、ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
ノームは、ニコッ微笑み、アリスの頭を撫でると帰って行った。
リンは後ろの棚から地図を取り出し、パラパラとめくる。
「えっとグラン洞窟はっと、、ここか」
リンは再び精霊を召喚した。
「シルフ、ここに行きたいんだけど、手伝って貰ってもいいかな?」
「もう!リンは私の主なんだから、命令してくれたらいいのに!そういう契約してるんだからさ!」
「僕が命令好きじゃないの知ってるでしょ」
「言ってみただけよ。えっと、何処だっけ、グラン洞窟って・・ちょっとリン!まさかドラゴンをペットにでもする気なの!?」
「ちょっと素材探しにね」
「私もついて行ってもいいですか?」
アリスが私も行きたい行きたい!と騒ぎ立ていた。
「いや、流石にちょっと危険かな?」
「うん、止めといた方がいいよ。リンは、ちょっとやそっとじゃやられないけど、普通の人族だとね」
「ううん、お母さんにあげるんだもん、自分の手で取りたいの!」
どうやら、アリスの決意は固いようだ。
「まぁ、何とかなるか」
「私知らないわよ」
シルフが呆れている。
「じゃ、シルフ頼む。先導は任せるから」
「はいはい」
「いつもよりゆっくりめで頼むよ。アリスさんもいるしね」
「りょーかい!」
「アリスさんは、僕の背中に捕まっててね。絶対手を離さないように」
本当は、アリスにもシルフの加護を付与したから、落ちる事はないんだけどね。念の為だった。
萬屋のドアに外出中の札を掛けておく。
「よし出発だ」
リンの体が地面からフワリと浮き、目的地に向かって飛び立つ。インビシブルの魔法も併用しているので、他の人には見えていない。
アリスは、初めての飛行に怖がると思っていたのだが、景色を楽しむ余裕まであったようだ。
飛行中は、とても楽しそうにしていた。
中々の逸材だ。将来が実に楽しみだね。
30分程で、目的地であるグラン洞窟へと到着した。
「リンさんって凄いんですね!私お空飛んだの初めてです!」
アリスは、終始目をキラキラさせていた。
「凄いのは、僕じゃなくて精霊達だよ。僕一人じゃ、
全くの無力だしね」
それにしても大きな洞窟だな。これなら大型サイズのドラゴンがいても何ら不思議ではない。
周りにモンスターがいるか不安だったが、逆に静か過ぎて不気味だった。
「リン、作戦はあるのー?」
「んーそうだね。取り敢えず対話してみようと思うんだ。話し合いで駄目そうなら、眠って貰うよ」
「私は、このまま憑依してようか?シールドもあるし」
「じゃあ、もしもの時の為にお願いするよ」
「このシルフちゃんに任せなさい!」
頼もしい限りだ。
リンとアリスは、躊躇する事なく薄暗い洞窟の中に入っていった。
リンはともかく、アリスも中々肝っ玉が据わっている。
「リンさん、暗くて何も見えないですね」
「あーちょっと待ってね」
リンが何かを唱えると一瞬だけ指輪が光り、その後、さっきまで暗かったのが嘘のように周りは明るい光景が広がっていた。
「これで、見えるかい?」
「うん!よく見える!これも魔法ですか?」
「そうだよ。ただの魔法とはちょっと違って精霊魔法と呼ばれているんだけどね」
◇精霊王の指輪
リンは極一部だが、契約している精霊の魔法を召喚しなくても指輪を介して使用する事が出来る。
今使用したのは、光の精霊の魔法で対象者の視界を周りの明暗に関わらず一定の光量でコントロールしてくれるという便利魔法だ。
二人は、更に洞窟の奥へと進んで行く。
遠くの方から大きな足音が聞こえて来た。
ズシン、ドシン…
段々とこちらに近づいて来る。
「近いね。アリスさん怖かったら僕の後ろに隠れてていいよ」
「ううん、リンさんがいるので私、大丈夫です」
強い子だ。
ドラゴンは大抵の人物ならば遭遇しただけで、震え上がる程の生物だ。というより死を覚悟したっておかしくない。
ちなみにドラゴンには、その強さを指し示す10段階の等級がある。
数字が大きくなるに連れて、強さが増していく。
ドラゴンの強さは、どれだけ長く生きているかで、8割方決まっている。長寿な程強いのだ。
中には、突然変異種だとか、亜種だとか例外もいるにはいる。
臆する事なく、リン達はドラゴンの元へと進んで行く。
そして、ドラゴンが二人の視界に入ってきた。
「おお・・。これは予想以上の大物だな」
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