1章 「春」
タイシとシナリ・・・出逢うふたり
第2話 僕の家族
「お父さん、運転気を付けてね」
京都市内に入り、交通量が増えただけでなく、そこかしこをはみ出て歩く観光客が運転の妨げとなる。
僕がさっきから気になってるのはばあちゃんの顔だ。普段から滅多なことでは喜怒哀楽を表に表さないけれども、今日は輪をかけて無表情だ。顔面、というよりは心から表情が消えてしまっているような気がする。
ばあちゃんは運転席の真後ろ、真ん中には2コ下の妹。助手席の後ろに僕。前のシートの父母は2人して運転に集中している。母さんは何度も父さんに声を掛ける。
ばあちゃんは家を出た時から、じいちゃんの遺骨をずっと膝の上に抱えてる。
じいちゃんは本当に年寄りらしい年寄りだった。自分が老いていることを自覚しており、父さんに家のことをきちんと引き継いだ。僕という次の代の跡取りがある程度成長した姿を見届けてから、長患いせず静かに浄土へと旅立って行った。
うちは宗派が浄土真宗なので、お骨の一部を本山に納めに行くのだ。
朝暗い内に家を出て高速を走って来た。後20分もあれば着くだろう。
高校入学直前の春休み。
かすみは旅行気分ではしゃいでいる。中2にもなって今更京都へ来たところで感慨も薄いんじゃないかと普通は思うんだけれども、この素直さが妹のいいところだ。比較など無意味だろうけど、僕は家族の中でかすみのことを一番大切に思っている。
「お兄ちゃん、中2の時の修学旅行って京都だったんでしょ?」
「そーだよ」
「じゃ、わたしもきっとそーだね。あー得したな」
「?”損したな”、じゃなくて?」
「うん。だってこんな素敵な街に年2度も来れるんだもん。”得”、だよ」
「まあ、観光地だよね」
「駄目だねえお兄ちゃんは。京都を舞台にした小説って大抵うれるんだよ」
「そーなのか?」
「あと、サスペンスドラマなんかも」
「何だ、それ」
「”京都四季殺人事件”、とか」
『あ・・・』
かすみの声に呟くような父さんの声が重なった後、次に見たのは彼女がストレッチャーで救急車に運ばれる光景だった。それまでの間のいくつものシーンをスキップして僕がきちんと記憶できているのは、かすみの真っ白な顔だけだった。
妹だからってひいき目で見る訳じゃない。
かすみはとてもかわいい13歳の女の子だった。
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