③
カーテンから溢れる朝陽に照らされ、キミアは目を覚ます。
「…………?」
ライトを挟んだベッドで寝ていたはずの師匠がいない。時計の針は起床予定一時間前を指している。
自身が早く目覚めたのだから師匠が先に目覚めていてもおかしくない。それよりも……
「何かおかしい」
エルフは生命力を敏感に感じ取れる種族である。キミアが持つエルフの目はもちろん、大気中のソレを肌で感じ取る事も出来る。
純血では無いキミアにその力は備わっていない。
しかし、それでも____
「異常だ」
キミアは視界を変える。エルフの目に映ったのは異常なまでの生命力。
大気中に生命力が溢れる原因は幾つかある。化石の埋まった土が掘り起こされた時だったり、湖が干上がった時だったり。
それらに共通するのは生命から溢れたモノだと言うこと。
キミアが知るソレらの原因が一晩の間に現れたとは思えない。ならば……
「誰か大怪我でも負ったのか」
急いで部屋を出たが誰もいない。手がかりを求めて外に出たキミアは自身の見積もりが余りにも甘かった事を思い知る。
「っ……」
大怪我、ソレに相当するモノを負った人はいた。しかし『誰か』では無い。
村人全員が死の淵に、もしくは奈落へと立たされていた。
「キミア!」
その中で唯一立って動いていたのはゲンであった。
「師匠、これは……」
「全くわからない。外傷無し、毒物も見られない、だというのに皆揃って体内物を吐いて死んでいく」
「ワタシも見てみます」
キミアがエルフの目を使い、近くに落ちていた人だったモノを観察する。
生命力の出どころは口、恐らく出された体内物と共に入口が開いたのだろう。
師匠の言う通り毒物は見られない。骨にも異常無し……
「……は?」
キミアは見たモノを信じられず、違うソレを視る。
しかし目に映る全てが同じ状態に成り果てていた。
「何かわかったのか!」
ありえない、あり得ないとキミアの常識は告げているが目の前のソレが現実だと叫んでいる。キミアはとりあえずソレを認め、言の葉として吐き出す。
「全員、内臓がありません」
*
「……なんだよ、コレ」
ゲンが行ったあらゆる治療は無意味に終わった。内臓が機能していないのだから代わりが無ければ死にゆくばかりである。
村人全員が一晩の間にこの状態になる、未知なる感染症などとは考えにくい。キミアは目を酷使して手がかりを探す。
「消失と言うよりは分解ですかね、内臓だったモノ、多分そういうモノが見られます」
瞬間、キミアの視界が光に染まる。周りの死体に残っていた僅かな内臓だったモノが身体を這い出て何処かへと向かっていた。
「光……?」
その生命力の光はゲンにも見えていた。本来見えない生命力が見える現象を二人はよく知っている。
「誰かが、錬金してるのか」
二人は声をかけあうまでもなく光が向かう先に走り出す。
光の集まる中心、そこに彼はいた。
「収集、結合、強化、固定……」
ぶつぶつと自身の作業を呟きながら、両手全ての指にはめられた十個の指輪……錬金石を駆使してあり得ざる錬金術を行う者。
才を持たずに産まれながらソレを持つ者を超えんとする天才。
そう、其処にいるのは……
「アルス……お前の仕業なのか」
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