錬金薬学のはじめ『終わりと始まりの物語』

 錬金術発祥の地『イスカンデレイア』

 山に囲まれたその小さな村は存亡の危機に瀕していた。

 数日続いた大雨の影響で山の地盤が緩み、土砂崩れ寸前まで迫っていたのである。

 村民は話し合い、以前より建築されていた防護壁を錬金術を用いて完成させる事となった。


「お前は緊張とかしなさそうだな」

 キミアは隣にいる親友アルス・マグナにそう話しかける。彼は「そうでもない」といいながらも自信に満ちた笑みを浮かべていた。


 村の存続をかけただけあって、ここに集まっているのは選ばれた精鋭のみである。

 知らない人が見れば場違いな子供、十四歳になるキミアとアルスも勿論選ばれた精鋭、イスカンデレイアでは二人の神童と呼ばれる程の才能の持ち主である。

「では、錬金を始める!」

 全員が決められた配置につく。キミアとアルスは最後方、目の前にはそれぞれの両親が立っている。


 錬金が始まる。鉱物の分解、強度の強化、建造物との合成。それが何度も繰り返えされていく。

 誰一人として手元を狂わせる事なく、方法も、錬金も、全てが最良であった。

 誰のせいでもない、ただその錬金は偶然『世界に触れてしまった』


「ま、まず____!」

 リーダーの言葉は途中で当人と共に分解された。先頭にいた者たちはソレを認識する間もなく巻き込まれていく。

「……なんだ?」

 錬金術に大きな揺らぎを感じ取ったキミアは視界をエルフの物へと変える。

 何も見えなかった。ただ何かが前にいる人々を消し去っていくのだけは理解できた。

 迫りくる死を見て、キミアは思い出す。

 なぜ起きるかは分からないが観測はされている未開錬金術。

 錬金術の暴走____通称『イレイサー』

 あらゆる物を分解する災害のようなもので、飽和量を超えるまで止まらないという。



 死にたくない


 その言葉は恐怖が口を埋めて出てこない。

「……!」

 そんなキミアの頭の上に手が乗せられた。

「かあ……さん」

 母親の手の温もりを感じながら、キミアは生を諦めて目を閉じた。


 *


 数秒、いや数分たっただろうか。死の間際で時間間隔がズレたのかと思ったがそうではないらしい。

 恐る恐るキミアは目を開ける。

「……あ」

 全てが無くなっていた。崩れそうな土砂も、ソレを支えようとする建造物も、錬金術を行使していた村の人も、そして……少し前まで目の前にいた両親も頭の上の掌を残して消えていた。

「ああ……」

 小さな声を皮切りに隣からアルスの叫び声が聞こえた。言葉も出ない中、ようやくキミアは全てを失った事を理解した。

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