③
「おはよう、トモ」
「おはようございます、朝食にしますか?」
翌朝、寝室から出ると二人はキッチンに立っていた。昨晩は一緒のベッドで寝てたはずなのに……
「トモ、今日もおはなし聞かせて!」
「いいよー」
シエスタちゃんは拙い敬語を話さなくなった。夜に沢山お話をしたのが良かったのだろうか。
元の世界ではよく知られた童話や昔話もこの世界では新鮮な物語。いくつか伝わっていたものもあったがグリム童話の中でも少しマイナーな物は百発百中であった。
朝食を済ませた頃、玄関の扉が数回ノックされた。
「村長さんかな?」
「私が出ます」
コカナシさんが扉を開くとそこにはアメリカン風来坊……デュパンさんが立っていた。
「朝早くにすまんな。今、時間あるか?」
「はい、大丈夫ですけど」
「あまり警戒しなさんな。形だけでもお二人に調査を入れないといけないもんでね」
シエスタちゃんが勧めるように椅子を引くと手で礼を言って彼は座った。
向かいに座るようジェスチャーをされたので車椅子をテーブルに付ける。
いつのまにか入れていたらしいお茶を持ちながらコカナシさんが座ったところでデュパンさんは話を切り出す。
「簡単にいこう。事件当時のアリバイとかは聞いても無駄だろう、そもそもこの村に来ていない」
出されたお茶を一口飲んでデュパンさんは続ける。
「で、オレが聞きたいのは村の外の話。この村の周辺の森を通って来たんだろ?何かおかしなもの……人工物は無かったか?」
わたしはその時の事を知らない。視線を向けられたコカナシさんは少し考えた後に「確か……」と切り出す。
「あったのは獣用の罠くらいですね。それにしても人工物が何か?」
「何度か連続で、しかも短期間に起こっているからな。何処かに犯人の生活跡があるんじゃないかと思ってな」
「なるほど……」
「しかしアテは外れたようだ。さて、もう一つの話題だ」
デュパンさんはお茶を飲み干して小さく息を吐いてわたしに視線を向ける。
「嬢ちゃん、えーっと……トモノちゃんだっけか。君に捜査を協力して欲しいんだ」
「わたし、ですか? でもわたしは……」
自分で言うのもなんだけど不自由な足である。捜査の類は正直向いていない。そんな旨を伝えるとデュパンさんは「問題ない」と歯を見せる。
「むしろソコが君を選んだポイントさ。君のその足では今回の犯行を成し得ない」
「なるほど……」
わたしは考える。不用意に動かない方が安全に、無難に終わるというのは明確だ。
シエスタちゃんも居るから何もやる事がないわけでもない。
しかし、だ。探偵の助手だなんて……面白そう!
様々な事を考え、踏まえ、わたしは答えを出す。
「夕方、夕方までなら大丈夫です」
「よしきた。じゃあ明日、問題ないかい?」
頷くと満足そうに笑ったデュパンさんは少しの間雑談を交わして帰っていった。
コカナシさんが洗ったコップを拭きながらわたしは心の中で拳を突き上げる。
軍医や開業医じゃなくて薬学師だが、今日よりわたしは女流ワトスンだ!
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