純真なマチウ3[揺籃篇]

松枝蔵人

〈『マチウの世界』1[胎動篇]〜2[生誕篇]のあらすじ〉

 生き物を殺傷する猛毒の紫色のガスにより、地球上は埋めつくされた。

 高度に発達し繁栄を誇った文明社会はいともあっさりと崩壊し、人類の多くも滅亡する。


 わずかに生き残ったのは、ガスが届かない高地へと逃れた人々のみだった。

 あらゆる文明の利器も豊かさも失われ、必然的に文明は後退を余儀なくされた。

 ガスに取り囲まれて島のように孤立した『大陸』の厳しい環境の中で、彼らは限られた土地や富を奪い合い、かつて〝中世〟と呼ばれた時代さながらの暮らしを送っている。


 そんな人類の前に突然現れたのが、人工授精によって誕生した新人類「スピリチュアル」だった。

 彼らは自ら〝帝国〟を称し、「理性的で平和な世界をもたらす」という理想をかかげ、旧人類を「フィジカル」と呼んで圧倒した。


 しかし、スピリチュアルが文明時代の最新鋭の武器・科学兵器を使い尽くしてしまうと戦いは膠着し、フィジカルの諸国、都市国家は依然としてたがいに激しい抗争をくり返すばかりだった。


 そしてさらに数百年が経過。のちに『勇将皇帝』と呼ばれることになるオルダインが新皇帝に推戴され、フィジカルの抵抗勢力をつぎつぎと撃破。

 最後の拠点となった交易都市キールを落城させ、ついに大陸南部を制覇する。


 記念すべきキール入城式典を数日後にひかえたある日、スピリチュアルの故地である地底都市ブランカでは、皇帝の娘であり、スピリチュアルの誕生をつかさどる〝寮母〟マザー・ミランディアの娘でもあるカナリエルは、結婚の日を間近にしながらスピリチュアルのあり方と自らの生き方に疑問を持ち、寮母の助けを借りてブランカからの脱出を図ろうとする。


 カナリエルは、カプセルに入った誕生前の幼体を背負う傭兵ゴドフロアに守られ、隊商の若者ステファンに道案内されて逃走をつづける。

 追うのは、カナリエルの婚約者である将来を嘱望されたスピリチュアル軍人ロッシュ。

 入城式典を前に、カナリエルの失踪を秘匿したい保安部長官クレギオンは、ロッシュに精鋭部隊を組織して追跡することを許す。


 ロッシュの慎重で容赦ない追跡ぶりに、ゴドフロアたちは何度も危機におちいる。

 それをなんとか振り切り、盲点を突いてブランカの裏側にあたるケルベルク城の廃墟にたどり着き、スピリチュアルの手がおよばない北方王国を目指そうとする。

 だが、そこに謎の盗賊団が出現し、彼らは新たな危機に直面する。


 一方、ブランカにもどったロッシュは、皇帝が多数の重鎮を引き連れ、飛空艦で急遽帰還するのを目撃する。

 カナリエルの事件を皇帝に申し開きするため、クレギオンはロッシュに生命回廊に閉じこもっているマザー・ミランディアを連れ出すことを厳命する。

 深い地中をさまよった末に、ロッシュはようやく生命回廊に到達し、ミランディアを説得をしようとする。


 皇帝の狙いは、制覇を記念して行われるキール入城式典の場で帝国の新たな支配体制を発表するとともに、唯一実質的な支配がおよんでいない北方王国を一挙に併呑することにあった。

 そのためには娘カナリエルの存在が不可欠だった。


 新体制の概要を知らされて驚く御前会議の場に、ロッシュに伴われたマザー・ミランディアが姿を現し、皇帝と側近の執政マドランのたくらみを鋭く追及する。

 しかし、何者かが放った刺客によって重傷を負わされていたミランディアが倒れ、会議は中断してしまう。


 直後に、ロッシュから追跡の続行をまかされた盟友エルンファードが、カナリエルの行方の手がかりを持ち帰る。

 ロッシュは皇帝に助力を請うのを断念し、皇帝の旗艦である飛空艦プロヴィデンスを強奪してカナリエル奪還へと向かう。


 盗賊団の魔手をやっとのことで逃れたゴドフロアたちは、嵐をついて北方山脈を目指すが、盗賊に追われ、さらにロッシュが乗る飛空艦が飛来する。

 盗賊団と追跡部隊は乱戦に突入しつつも激しく追跡してくる。


 そのとき、迫り来る危機と混乱の中で、カプセルに入った幼体がついに誕生の瞬間を迎える。

 カナリエルに「マチウ」と呼びかけられ、初めて見開かれた少女の眼に映ったものは……。







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