第19章 クラスメイトと雄介 4

 その後も雄介は優子の視線を気にしつつも授業に臨んだ。

 授業の内容は、不思議と雄介は理解が出来た。

 石崎の話では、元から成績が良かったらしく、そこは心配していなかったらしい。

 今は数学の授業中で、雄介はノートを取りつつ先生の話を聞いていた。


「え~、来週末からはテストになります。しっかり予習し、良い点を目指してください。決して、赤点など取らぬように」


 先生の言葉に、教室中から不満の声が聞こえてくる。


「もうか~、テストヤダー!」


「俺、この前のテストヤバかったんだよな……」


「先生! テストの山を教えて下さい!」


 などなど、皆テストに対して色々言っている。

 数学教師の吉浦は、そんなクラスに対して少し厳しく言い放つ。


「毎日予習や復習をきちんとしていれば、解けない問題ではありませんよ。心配な方は今からでも間に合います。しっかり勉強するように!」


「「「は~い」」」


 そんな先生に力なく返事をするクラス一同、そんな生徒達にため息を一つ吐く吉浦。

 吉浦は頭を押さえながら、黒板に何かを書いていく。


「このページをやっておけば、赤点は無いでしょう。後は頑張りなさい」


「おぉ! 流石先生!!」


「伊達に年食ってないっすね!」


「堀内君は、赤点じゃなかったとしても補習組に混ざりたいんですか?」


「すいません、調子乗りました……」


 吉浦に余計な事を言ってしまい、危うく補習になるところだった堀内。

 雄介はそんなクラスの様子を見ながら、何か思い出せないかと考えるが、やはり思い出せない。


「それでは今日はここまで、号令をお願いします」


「起立、礼」


 授業が終わり、雄介が次の授業の準備をしていると、雄介の元に吉浦がやってきた。


「今村君、少しいいかしら?」


「え、あぁ…はい」


 雄介は吉浦に呼ばれ、廊下に出る。


「朝は、色々とごめんなさい。先生たちも色々あって、混乱している部分もあって……」


「いえ、気にしてませんから」


 雄介に謝罪する吉浦。

 雄介はそんな吉浦に気にしていない事を伝えるが、吉浦は心配そうな表情で雄介を見ていた。


「私たちは、あまりにも貴方の事を知らな過ぎました。それどころか、貴方の気持ちを知ろうともしなかった。今朝の石崎先生の言葉で、貴方がどれだけ辛い思いをしてきたのか、私は知りました」


「でも、それは自分が過去を話したくなかったからです。自分も今は何も覚えていませんが、先生達のせいではないですよ」


 笑いながら言う雄介。

 そんな雄介の表情を見て、吉浦も口元を緩め、笑顔を浮かべる。


「心配していましたが、その必要はなさそうですね……。これも先生やクラスのおかげでしょうか?」


「……多分そうなんだと思います」


「時間を取らせてごめんなさい、それでは私はこれで…」


「はい、それじゃ」


「あぁ、最後に一つ」


「なんでしょうか?」


「…私も貴方の味方ですから、頼ってくれて構いません」


 優しく微笑み、吉浦はそう言ってその場を後にした。

 雄介はそんな先生の言葉に、またしても胸が痛くなった。


「……またか」


 その後、時間は流れ、現在は放課後。

 帰りのホームルームが終わり、雄介は帰り支度をしていた。


「雄介、この後なんか用事あるか?」


「いや、何もないけど……」


「じゃあ、今からバッティングセンター行こうぜ、良く二人で行ったんだ」


 雄介は慎の提案にされ、もしかしたら記憶が戻るかもしれないと思い、行くことにした。

 慎に返事をしようとしたところで、隣の優子が会話に混ざってくる。


「私も行くわ! 雄介と放課後デートしたいし!」


「俺もいるんだが……まぁ良いや、じゃあ太刀川も来るだろ?」


「なんでそうなるのかしら?」


 丁度近くに居た沙月に声を掛ける慎、そんな慎に沙月は相変わらずの無表情で答える。


「まぁ、優子が行くなら行くわ」


「やっぱりな、じゃあ行くか」


「お! なんだどっか行くのか?」


 四人で話をしているところに、どこからともなく堀内がやってくる。


「あぁ、バッティングセンター行くんだけど、お前も来るか?」


「おぉ! 良いな、行こうぜ!」


「じゃあ、メンツは6人か……結構多いな」


 慎の言葉に、雄介は違和感を感じる。

 今いるメンバーに堀内を足しても、5人にしかならない。

 なぜ慎は6人と言ったのか、雄介は疑問に思う。


「慎、6人じゃなくて、5人じゃない?」


「いや、多分この流れだと、自動的にもう一人追加になる」


 言葉の意味が分からず、首を傾げる雄介。

 そんな事を話している間に、優子たちが居なくなっている事に気が付く。


「あれ? 加山さんたちは?」


「もう一人を呼びに行った」


 そう言って指をさして優子たちが居る場所を教える慎。

 優子たちは江波の席におり、江波と共にこちらに戻ってくる途中だった。


「美穂も行くって!」


「楽しそうね、私も混ぜてよ」


「ほら、6人になった」


 得意げに言う慎を雄介はただただすごいと思った。

 しかし、江波の参加に、一人だけ不満そうな顔の堀内。

 江波と堀内はまたいつも通り、言い争いを始める。


「江波来るのかよ~」


「私もあんたが居るなんて知らなかったわよ…」


「そもそもお前、野球知ってるのかよ」


「知ってるわよ! バットでボールを打つあれでしょ!」


「うる覚えじゃねーか!!」


「じゃあ何よ!」


「だから野球ってのは……」


 言い争いつつも堀内は江波に野球の事を教えだす。

 なんだかんだ言って本当に仲が良い二人だと、その場の江波と堀内以外の四人が思っていた。


「なんだか、こいつらって、昔の雄介と加山に似てるな…」


「そうね、そっくりかも、違うのは優子がベタ惚れだった事くらいかしら?」


「え、そうなの?」


 慎と沙月の言葉に、雄介は改めて二人の様子を見る。

 言い争いつつも仲が良く、いつも一緒にいるようなそんな感じの関係だったのだろうかと、雄介は考えるが何も思い出せない。

 ふと、雄介は隣の優子の表情を見る。


「そうだね、こんな感じかもね……」


 そう答える優子の表情は、笑顔だったが、どこか寂しそうだった。

 雄介はまたしても胸が痛むのを感じた。


(なんか…多いな……)


 胸を押さえながら、雄介はそんな表情の優子から視線を外した。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る