第16章 新たなる朝2



「えっと……なんで思い出せないんだ? しかもこんな大けがして……」


 雄介は困惑していた。

 記憶をなくし、自分が何者であるかもわからず、ただこの状況がどういう状況なのかを考えていた。

 すると、病室のドアが開き、白衣を着た老人が入ってきた。


「おぉ、目が覚めたか…よかった、いや実に良かった」


「先生ですか?」


「ん? 何を言って居るのじゃ? わしじゃよ。定期検査であっていたじゃろ?」


 雄介は何のことかさっぱりわからず、首を傾げる。


「あの、自分の事を知っているんですか?」


「何を言って居るんじゃ雄介君? ……まさか……」


 白衣を着た老人は、何かを思い立ち急いで病室を出て行ってしまった。

 一体誰だったのだろう? 雄介はそう思いながら、とりあえずベットに横になった。


「これって、俺のかな?」


 雄介は机のわきに置いてあったスマホを手に取り見てみる。

 スマホの操作はなぜか体が覚えていた。

 自分の物なのか定かではないが、ロックが掛かっていないのが不用心だと思いながら、雄介はスマホを開いて中を確認する。


「今村……雄介……これが俺の名前?」


 スマホの中にあまりアプリは入っておらず、メッセージアプリには数多くの未読の通知が来ていた。


「写真を見てみるか……」


 写真何か手がかりがあるかと思い、写真フォルダを雄介は見始める。そこには楽しそうに笑う友人と自分が写っていた。

 女生徒の写真が多く、一体自分は何もだったのか、心配になってくる。


「雄介君! すまないが、今から早速検査に行こう」


「え、あ、はい……」


 慌てて戻ってきた白衣の老人がそういうと、俺は車椅子に乗せられて別室に移動になった。

 自分が何の病気で入院しているのかもわからないのに、検査というのは不安だった。

 検査は長かった、MRIとか言う機会に入って見たり、レントゲンを撮ったり、2時間くらいずっと検査であちこちを調べられた。

 そして、やっと病室に帰って来て、今は白衣の老人が俺の体の説明をしていた。


「単刀直入に言ってしまえば、君は記憶喪失になっている可能性が大きい」


「まぁ、そうでしょうね……何にも思い出せないし……」


 老人の説明を受けるうちに、雄介は自分の事が少しづつわかってきた。

 高校1年生である事、元の両親は既に他界しており、今は義理の両親と姉が一人いるらしい。

 間もなく、その義理の両親が来るらしいのだが、いかんせん実感がわかない。


「まぁ、あまり情報を与えすぎてもパンクしてしまうかもしれん……とりあえず、ここまで知っていればよいじゃろ。あと、わしは奥澤(オクザワ)、君の主治医をしている」


「あ、よろしくお願いします。もう一つお聞きして良いですか?」


「なんじゃ?」


「自分は、なぜこんな大けがを?」


 雄介は包帯だらけの体を見せて奥澤に尋ねる。

 奥澤は少し考え、優しい顔で雄介に微笑みかけながら語りだす。


「それは、君のやさしさの勲章だ。しかし、同時に憎しみの傷でもある……」


「あの……どういう意味ですか?」


「知らないほうが幸せな事もあるってことだよ……」


 そんな話をしていると、病室のドアが開いた。

 ドアを開けたのは二人の男女であり、雄介はおそらく自分の今の両親なんだろうと思いながら、二人に視線を向ける


「雄介!!」


 急いで俺に駆け寄ろうとする女性を奥澤が止める。

 そして奥澤が何やら説明をし始める。


「雄介君、少し待っていてくれ」


「あ、はい」


 三人は病室を出て行ってしまった。

 しかし、本当に直ぐに戻ってきた、時間にして5分も経っていない。

 おそらく廊下で少し話をしたくらいなのだろう。

 しかし、帰って来た二人の男女の内、女性が泣いていた。


「あ、あの……あなた達は?」


 雄介は恐る恐る尋ねる。

 若々しい感じの男性が雄介の問いに笑顔で答えた。

 雄介はこの人が本当に義理の父親だとした随分若いんだなと、驚きながら話を聞いた。


「雄介…いや、覚えていないんだよね……じゃあ、初めましてだね。僕は今村玄(イマムラゲン)君の父親だよ。こっちは紗子、君の母親だ」


「あ……えっと、すいません……何にも覚えていなくて……」


「そうか……いいさ、悪いのは雄介じゃない……雄介は……頑張ったよ、良く頑張った。だから……今は休んでいて良いんだよ」


 話をしているうちに玄も涙を流し始める。

 子供が自分の事を覚えていないのがつらいのは分かる。しかし、雄介は何を言われてもこの人達との記憶が無い、どんな顔をしてこの人達と話せば良いのか、わからない。


「ごめんね……」


 それまで口を開かなかった紗子が口を開いた。

 第一声は雄介に対する謝罪だった。


「私が……私が守るって……約束したのに………ごめんね……」


 雄介の手を取り、強く握りながら紗子は雄介に謝り続ける。

 雄介は分からなかった。

 何を謝られているのか、何を約束したのか、全く覚えていない。

 ほどなくして、紗子は無きやみ、三人で奥澤の話を聞くことになった。


「おそらく、頭に強い衝撃を受けた際に脳にダメージを受けたのでしょう。記憶が戻るかどうか、現状は分かりません」


「そんな……」


「しかし、戻らない訳でもありません。突然戻るかもしれませんし、徐々に思い出して行く事もあるのです。とりあえず、体の事の方が今は心配です。このままもう少し入院して経過を見ましょう。雄介君の場合は色々と厄介ですから……」


 何が厄介なのだろうか? 雄介はそこが気になったが、何も言わずに話を聞いていた。

 自分の体はそこまで悪いのだろうか? そう考えながら奥澤の話を聞いていた。


「とりあえず、この病室に現状では両親以外は入れないようにと、警察の方からも釘を刺されています。とりあえずは体を治す事に精進し、記憶はその後で取り戻していきましょう」


 そう言って奥澤は出て行った。

 残された雄介達は気まずい空気が流れていた。

 雄介は何か話した方がいいだろうかと、チラチラ両親であろう人たちの顔を見たり、ソワソワしたりしていた。


「雄介、喉乾いて無いか? 僕が買ってこようか?」


「あ、じゃあすいません、お茶を……」


「分かった、紗子は何か居るかい?」


「私はいらないわ……」


 そう言うと玄は病室を急いで出て行った。

 雄介は紗子と二人きりで何を話したらいいか、更に悩んでいた。

 泣き止んだものの、その顔は明るいものではなく、どこか暗い表情で、俯いていた。

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