第13章 文化祭と新たな火種 6


 雄介は帰宅して直ぐに、自分の部屋に向かった。

 疲れていたのもあったが、それよりも気がかりなことがあった。

 不良の一人が持っていたナイフだ。銀色の刃に、持ちて部分は木製で、蛇のマークがついている。


「確か、ここに……あった!」


 雄介は机の引き出しを開け、写真を一枚取り出す。

 その写真には、ナイフについている蛇のマークと同じマークが写っている。

 雄介はその写真と不良が持っていたナイフを見比べる。


「やっぱりか……」


 呟き、雄介は写真をグシャリと握りつぶす。


「やっぱり……居るんだな……」


 憎むべき相手の顔を思い浮かべながら、雄介は窓の外の街を見る。

 雄介にとって、ナイフに描かれていたマークは、忘れたくても忘れられないほどに重要だった。

 雄介はナイフを机の引き出しにしまい、机の上の二つの家族写真を見る。


「今度こそ……」


 そう雄介は呟き、雄介は自分の部屋を後にする。

 

 一階に降りた雄介は、いつもと変わらない様子で、晩飯の用意を始める。


「ゆーくーん!!」


「おっと」


「ぎゃっ!」


 いきなり抱き着こうとしてきた里奈を軽くかわし、雄介はエプロンをつけて料理を始める。

 里奈は雄介にかわされ、そのまま床に顔から落ちていく。


「う~、ユウ君ひどい~。お姉ちゃんのお鼻が真っ赤に……」


「じゃあ、いきなり抱き着いて来ないでください」


「分かった、予告する! 今から抱き着きます!!」


「そういう意味ではないです」


 いつも通りの会話をしながら、雄介は黙々と料理を作る。

 里奈もいつも通り、雄介にベッタリだった。


「そう言えば、里奈さんのクラスは学祭は何をするんですか?」


「お姉ちゃんのクラスは、お化け屋敷だよ。来るときは必ず、一人で来てね!」


「普通は、友達を連れて来てね。とか言うのでは?」


 笑顔で言う里奈だが、背中からは「絶対に女の子を連れてくるな!」と聞こえてきそうな程に、どす黒いオーラを出していた。

 雄介はそんな里奈に苦笑いで「一人で行きます」という。


「そう言えばユウ君のクラスは冥途喫茶だっけ? お化け屋敷と似てるね!」


「里奈さん。冥途じゃないです。メイドです。そんな喫茶店嫌ですよ」


「え~、人間の生き血とか、臓物クレープとか出すお店じゃないの~?」


「ほんっとに、気持ち悪いのでやめてください……」


 思わず想像してしまった雄介は、口を押えながら顔を真っ青にする。

 里奈はそんな雄介を見て、キョトンとする。


「メイド喫茶か~。ユウ君も?」


「んな訳無いですよ。男子はコスプレです。そう言えば、俺は何を着るんだろう……」


 雄介は文化祭のメニューの作成や看板の作成などがあり、まだ男子用のコスプレ衣装の衣装合わせをしていなかった。


「おぉ~、姉ちゃん一眼レフ持って行くねー」


「なんで持ってるんですか……」


 里奈は何処からともなく、大きな一眼レフカメラを取り出し、雄介に見せながら、写真を撮る真似を始める。

 こんな生活が永遠に続けばいい、雄介はそう思いながら笑顔で楽しそうな里奈を見る。

 しかし、雄介自身が良くわかっていた。こんな日常にも、間もなくタイムリミットが迫っている事に……。





 文化祭が明日に迫った今日は、一日明日の準備で学校全体が忙しい。

 里奈は生徒会の仕事もあり、朝早くに家を出て行き。雄介も学校を駆け回っていた。


「えっと……次は…あっちか」


 雄介は今、メイド喫茶のポスターを貼りに校内を駆け回っていた。雄介以外にも慎がポスターを貼りに校内を駆け回っていたが、大きな学校の為、貼り終えるのに1時間近く掛かってしまった。


「おぉ……慎…終わったか?」


「まぁ……大体……」


 二人はポスターを貼り終え、中庭のベンチで呼吸を整えながら休んでいた。


「しっかし、お祭りっぽくなってきたな」


「あぁ、この学校の学祭って少し有名っぽいぜ。校風が自由だからか知らんが、テレビ局も取材に来るってよ」


「へ~」


 慎と話をしながら、雄介は準備に励む生徒達を見ていた。

 

「こういうの良いよな……」


「珍しいな、お前がそんな事言うなんて」


「まぁな、なんだか楽しいよ」


 雄介は自分でも良くわからないが、今回の学園祭を楽しんでいた。

 前まで、お祭りごとやこういう学校行事はあまり楽しみでは無かったのだが、今回はなぜだかわくわくしていた。


「あ! 何さぼってるのよ~」


「優子。なんで今からメイド服着てんだよ……」


 雄介と慎がベンチで休んでいると、メイド服を着た優子が、後ろに男子生徒数人を引き連れてやってきた。


「そんなの雄介に見せるためよ!」


「さんざん見たよ。んで、後ろの奴らは何?」


「え? 後ろ?」


 優子がそう言って後ろを向くと、先ほどまで優子を凝視していた男子数名は、視線をそらして、それぞれ何か忙しそうに作業をし始める。


「ただ準備作業してるだけでしょ? あ! もしかして雄介…ジェラシ―?」


 優子が前を向いた瞬間、後ろの男子生徒達はまたしても加山を凝視し始める。

 

「お前も大変だな……」


「え? だから何が~!!」


 頬を膨らませて憤慨する優子。

 雄介たちはそんな優子に、教室を手伝って欲しいと言われ、教室に戻る。

 途中、三人で教室に戻っている途中で、北条に会い雄介は北条に呼ばれ、その場に残った。


「昨日の事は誰にも言っていない。あいつらもあれで懲りただろう」


「そうか、本当にありがとう。それより聞いて良いか……」


「なんだ?」


「その恰好は?」


 北条の格好は、なぜか赤鬼の格好をしていた。全身赤いタイツに、腰にはトラ柄のパンツを履き、背中には棍棒を背負っている。


「クラスの出し物でな……制限時間内に鬼を退治する『ももたろーゲーム』だそうだ」


「で、お前が鬼の役になったと……っふ」


「おい! 笑うな!!」


 雄介は北条の格好に我慢が出来なくなり、思わず吹き出してしまった。

 北条はそんな雄介を顔を赤くしながら怒る。


「話を戻すが、あのナイフに何か思い入れでもあるのか?」


 北条の表情が真面目なものに変わる。

 雄介は言うべきか、言わないべきか、頭の中で考える。

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