第12章 後編13 草食系とお嬢様

 結局雄介が家に帰宅したのは、夜の8時を過ぎていた。


「遅くなったなぁ……あぁ、入りたくない……」


 雄介は玄関前で頭を抱えていた。なんだか玄関の奥からどす黒いオーラが見える気がした。


「いつから俺の家って、こんなに禍々しくなったっけ?」


 雄介は悩んでいても始まらないと思い、玄関のドアのカギを開けて中に入っていった。


「た…ただいまぁ……」


 そーっと中に入っていく雄介。ドアの隙間から中を見るが、玄関に里奈が居る様子はない。雄介はほっと一安心して、ひとまず自分の部屋に急いだ。


「はぁ~、本当に今日は疲れた……」


 ため息をつきながら、自室のドアを開けて部屋に入る。電気をつけようと、スイッチをつけ、部屋の中が一気に明るくなる。すると__


「ユウ君お帰り~」


 里奈がベットの上で、ラフな部屋着姿で寝っ転がって待っていた。雄介は少し驚いたが、いつものように里奈をスルーして、荷物を机に置く。


「あ! 無視なんてひどーい。さぁ、どうする? お姉ちゃんと寝る? それともお姉ちゃんとする?」


「何言ってんですか、さっさと自分の部屋に戻ってください」


 雄介は呆れ気味に、里奈にそういうが、里奈はジト目で雄介に切り返してきた。


「お腹すいたな~」


「うっ……」


「連絡したのになぁ~」


「ぐふっ……」


「最近お姉ちゃんの扱いがひどかったなぁ~」


「すいません、今すぐ飯を作ります」


 雄介は里奈に謝罪し、一階のキッチンに降りて行こうとする。しかし、そんな雄介を里奈が止めた。


「待って、ユウ君。そんなに焦らなくて良いわ。何か理由があったんでしょ? 私だって鬼じゃないわ、何があって遅れたのか言ってくれれば、怒ったりしないわよ」


「里奈さん……」


 雄介は感激していた。最近は暴走気味で、いまいち姉としてこの人を見て大丈夫なのであろうかと、頭を悩ませた事もあったが、今日のこの大人な対応に、雄介はやっぱっりこの人はなんだかんだで、自分の姉なんだという事を再認識した。


「すいません、里奈さん。実は今日、織姫のところに行っていて……」


 雄介が言いかけたところで、里奈の眉がピクリと動いた。それまで、穏やかだった里奈の笑顔だったが、なぜだか今は、同じ笑顔のはずなのに、なぜか恐ろしい。


「オリヒメ? 誰? 女の子?」


「あの……里奈さん?」


「女の子とこんな時間まで一緒に居たの?」


 段々と、里奈の黒いオーラはその濃さを増していく。雄介はそんな里奈から少しづつ距離を置こうと、廊下の方に一歩一歩下がっていくが、里奈も一歩一歩雄介に近づいてきて、一向に距離は開かない。


「いや…あれですよ! 紗子さんから頼まれた件です!」


 里奈も紗子が雄介に、星宮家の娘の男性嫌いを何とかしてほしいという頼みをしていた事は聞いていた。しかし、そんな雄介の説明も虚しく、里奈は一層強いオーラを放ちながら雄介に迫っていく。雄介の後ろにはもう壁しかない。


「また、女の子? ユウ君はモテるね~、お姉ちゃんうれしいな~。……でもね~、他の女の子に優しくしたら、お姉ちゃんにはその数だけ、キスをしなきゃいけないって知ってた~?」


「そんな、バカな約束した覚えはありません! それに、別に優しくしてません!!」


 雄介は里奈に必死で今日の出来事を伝える。しかし、里奈には火に油だったらしく、ついに雄介の両腕を里奈がつかんで抑え込んでしまった。


「へ~、その織姫ちゃんと、楽しくお話してきたんだ~」


「楽しくっていうか、ただの雑談です! お願いだから離してください!!」


「だ~め。最近ユウ君と全然してなかったから、今日はユウ君が嫌でも、お姉ちゃんしちゃうんだから~」


 そういうと里奈は、雄介の顔に自分の顔を近づけ始めた。


「ぎゃぁぁぁ!! 待って下さい里奈さん!! 謝ります! だから兄弟でそれだけは! 明日からきまずくなるのでやめてください!!」


 雄介は必死に抵抗し、里奈の拘束から逃れようとする。しかし、里奈の力は意外に強く、拘束は取れない。


「大丈夫、お姉ちゃんも初めてだから……」


「余計に最悪だぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 雄介の叫び越えが家中にこだまする。雄介は必死に逃れようとするが、もうあと数センチという距離まで、里奈の唇が迫っている。

 そこで、雄介は一か八かの作戦を思いついた。


「り……里奈さん!!」

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